かみさんがウルベシ橋からの紅葉を見たいというので、散歩から戻って直ぐに車で出かけることにした。
ウルベシ橋は国道275号の美深峠を少し超えた先にある橋で、天塩山系の山並みを一望できるビューポイントである。
残念ながら紅葉最盛期にはまだ少し早く、期待外れの眺めだった。
その後、母子里のクリスタルパークに寄り道した後は、蕗の台まで足を延ばしてみる。
キャンプ場から蕗の台へは朱鞠内湖の西側を通る道道528号を走れば近いのだけれど、しばらく前からその道が通行止めになったままなので、現在は母子里側からしか行くことができない。
私はまだ朱鞠内湖の周りを一周したことが無いので、蕗の台は未踏の地である
母子里からは2車線の立派な舗装道路が続き、その先の蕗の台には一体何があるのだろうと興味が湧いてくる。
ところが全く何も現れないまま、その道は突然、通行止めのゲートで終わっていたのだ。
せめて、人が住んでいた形跡くらいはどこかにあるかも知れないと想像していたのだけれど、それも全くなし。
この道は将来的には遠別まで繋がる計画があるようだけれど、もし繋がったとしても、そこを通る車など殆ど無いと思われる。
つまり、今の世の中が大きく変わらない限りは開通する見込みのない道だと言える。
「それなのに、何でこんなに立派な道路がここまで続いていたの?」と、狐に抓まれた気分である。
笹に覆われた平らな土地が道路の周りに広がっていたのが、もしかしたら昔の町並みの跡なのかもしれない。
そう思って家に帰ってから蕗の台のことを調べてみると、そこには旧深名線の蕗の台駅があり、1950年の人口は264人、小学校や中学校まであったらしい。
それが1972年に住人がいなくなり、1990年には駅が廃止、1995年には深名線も廃線となる。
昔の航空写真を調べてみると、私が町並みの跡だと想像した場所には何もなく、昔の蕗の台駅は全然違う場所だったようだ。
こんな土地を訪れる時は事前の下調べが欠かせないのである。
道道528号は相変わらず通行止めのままなので、もう一度朱鞠内湖の北側から東側を大きく回ってキャンプ場へと戻ってきた。
軽いドライブのつもりが結局は100キロ近いロングドライブになってしまった。
その間に風も強くなり、これではカヌーに乗る気にもなれない。
キャンプに来てもついつい動き回ってしまうのが私の悪い癖なので、今日はもう焚き火をしながらビールでも飲んでまったりと過ごすことに決める。
そうなると、たっぷりと用意したつもりの薪もちょっと心許無いので、管理棟で一束400円で薪を購入。
その気になれば場内でいくらでも拾うことができるのに、お金を払って薪を買うなんて、我ながら軟弱になったものである。
昼食はちぢみと朝食の残りのピンネ。
かみさんが安納芋を買ってきていたので、ダッチオーブンで焼き芋を作ることにする。
オーブンでの焼き芋作りは初めてなのでどれくらいの火力にすれば良いのかも分からず、とりあえずは真っ黒焦げにしない様に弱火気味に1時間。
焚き火の上に吊るしたダッチオーブンを弱火で維持するには火の燃やし方に気を使わねばならず、火の前に付きっきりでいなければならない。
そのおかげで美味しい焼き芋が完成した。
夕食はダッチオーブンで作る鳥粥。
弱火で2時間。美味しくできるかどうかは火加減がポイントと本に書いてあったので、これもまた焚き火の前に付きっきりとなる。
でも、焚き火の火力調整をしながらのんびりとビールを飲んで、全然苦になる仕事ではない。
近くに切り倒された白樺の幹が落ちていた。長さは2m以上で、結構な太さもあり、持ち上げてもずしりと重たい。ほとんど生木に近そうだ。
何を思ったのか、私はそれを拾ってきて、そのまま焚き火台の上に乗せてしまった。
重みで焚き火台が潰れそうになる。
無謀ともいえる行為だった
でも私には何となくそれを燃やせそうな気がしたのである。
黒く燃え残った薪が捨てられているのをキャンプ場で良く目にするけれど、私に言わせればそれは焚き火の美学に反する行為である。
一度火を付けた薪は完全な灰になるまで燃え尽くさせるのが正しい焚き火なのである。
それなのに、この長くて重たい白樺の幹を焚き火に投入するのは、かなり際どいチャレンジとなる。
近くには、誰かが途中まで燃やしたもっと太い白樺が落ちていたけれど、さすがにそれを燃やし尽くす自信は無かったので手は出さずにいた。
これならばぎりぎりで何とかなりそうだった。ただ、ダッチオーブンで料理を作るのには邪魔くさくてしょうがない。
真ん中が燃え尽きてようやく二つに分かれたけれど、その2本もまた焚き火台から大きくはみ出していた。
夕方になれば風も止むだろうと思っていたが、全く止む気配はない。
時々突風が吹き付けてきて焚き火の炎を大きく煽るが、その風の大部分は周りの木々が遮ってくれている。
南からの風なので、サイトによってはまともにこの風を受けるところもあるはずで、この点でも今回のサイト選びは正解だったようだ。
完成した鳥粥は手間をかけた分、とても美味しく仕上がった。
食後はもう火力を気にすることなく焚き火を楽しめる。
二つに分かれた白樺が更に二つに分かれ、これでようやく全てが焚き火台の上に収まる大きさになってくれた。
ワインを1本あけ、残った缶ビールでだめ押しをして、焚き火台からの炎を上がらなくなったところで今日の宴会は終了となる。
翌朝になっても風はまだ治まらなかった。
それどころか今日は天気が崩れてくるので、風は更に強まってきそうだ。
問題は雨の降り始める時間である。
雨雲レーダーを確認すると10時ころまでは天気が持つようなので、ゆっくりと朝を過ごせそうだ。
昨日の白樺は予定通り全て灰に帰していた。
それでも、その灰を掻き混ぜると、中の方ではまだ赤い燠がくすぶっていた。
焚き火の前でモーニングコーヒーを味わい、昨夜の残りの鳥粥を朝食にし、撤収を始める。
怪しげな雲に覆われていた朱鞠内湖上空も、車への積込が全て終わった頃になって、日が射してきた。
そのために何となく去り難くなって、第1サイト周辺でぶらぶらとしてから帰途へついた。
まだ時間が早かったので、日本海回りで帰ることにする。
「以前にもこんなパターンがあったよな」と思い出してみると、前回3年前のキャンプの時も今回と同じく日本海周りで帰っていたのである。
国道239号の霧立峠から道道126号の小平ダムにかけては正に紅葉真っ盛り。
青空ならば最高の風景を楽しめたところだけれど、この辺りから雨雲と遭遇してしまう。
その後の寒冷前線の通過に伴う嵐は凄まじかった。
日本海から直接吹き付ける暴風と雨、カヌーを積んでいるので車が大きく煽られ、冬の吹雪の時以外で車の運転中に恐怖を感じたのは初めてだった。
そうして無事に札幌へ帰着。
久しぶりにのんびりとできた朱鞠内湖キャンプ。
やっぱり年に何度かは我が家にとってこんなキャンプが必要なのである。
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