かみさんは今日はすっかり料理人に徹していた。
外でのキャンプと違ってここではガスコンロも使えるので、今回はパエリアを作るみたいだ。
そのメインディッシュが出来上がる前に、普段は家でも食べさせてもらえないような厚切りステーキなどが出てきて驚かされる。
そしてかみさん渾身のパエリアは、あっという間に平らげられた。
二人が家庭の事情により途中で帰ってしまい、これまでになく少人数の宴会だったけれど、何時ものようにカヌー談義などに花が咲き、夜遅くまで飲んでしまった。
夜中に目が覚めると、随分と冷え込んでいた。
まだ8月だと言うのに、夏用の羽毛のシュラフではちょっと辛く感じる。
それでも、シャツをもう一枚着込めば我慢できる程度の寒さだけれど、そのために起きるのも面倒で、そのままシュラフの中で丸まったまま朝を迎えた。
寝るのが遅くても目が覚めるのは何時もと同じ午前4時前。キャンプで朝寝坊できる人がうらやましくてしょうがない。
もう少し寝ていようと努力はしたものの、無理に目をつぶっているのにも飽きたので、起き出して朝風呂に入ることにした。
テントのフライは、夜露のために内側まで濡れてしまっている。
それを雑巾で拭いてから外に出たけれど、もちろん周りの草にも夜露が下りていて雨が降った後と変わりないくらいに濡れている。
長靴を持ってこなかったことが悔やまれる。
足元を気にしながら五右衛門風呂の小屋へと向かう。
小屋の中にはたっぷりの廃材と灯油の入ったポリタンクが置かれていた。
廃材の中から手ごろなものを探し出して、それに少しだけ灯油をかけて火を付ける。
同じようにして数本に火を付け焚口の中に入れ、その上に上手く空気が流れるように他の薪を重ねていくと、直ぐに全体に火が回って勢い良く燃え始める。
釜の中には昨夜のお湯がまだ冷めずに残っていたので、風呂は直ぐに沸いてくる。
薪が燃える匂い、そして五右衛門風呂のお湯が沸く匂い。
それは私を子供のころにタイムスリップさせる。
家の五右衛門風呂を沸かしている時の情景が、その匂いとともに頭の中に蘇ってくるのだ。
他には、小豆を煮ている時の匂い、サイレージの匂いなどが、幼少の頃へタイムスリップする引き金となっている。
かみさんが五右衛門風呂に入りたいと言うので先を譲って、その間に私は炊事棟の薪ストーブに火をつける。
冷え込んだ朝にこうして火を燃やして回るのはとても楽しい仕事だ。
しばらくしてかみさんが風呂から上がってきたので、今度は私がゆっくりと五右衛門風呂につかる。
目の前に広がる森の風景が何とも贅沢である。
ここの水は沢から引いてきているものらしく、お湯そのものも水道水を沸かしたものよりも何となく柔らかく感じるのは気のせいだろうか。
風呂から上がってコーヒーを飲んでいると、炊事棟の2階や車の中で寝ていたメンバーも次々に起きてくる。
年寄りはやっぱり朝が早い。
朝日が昇ってきた。
それを待っていたかのように、どこからともなく朝靄が湧いてきて周囲の山にまとわり付く。
私の好きなどんころの朝の風景だ。
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