そんな状況の中で、車の音と人の話し声がテントの外から聞こえてきた。時間は既に6時を過ぎて、受付のおじさんも既に帰っているはずである。
かみさんが外の様子をそっと窺うと車が2台、1台は管理人でもう1台がキャンパーらしい。時間を過ぎてもバンガローの方の管理人は夜間も駐在しているはずなので、一応は受付して入ってきたのだろう。
この雨と雷の中でテントを張るのだから、相当な強者キャンパーだと思われる。
雨が止まなければ、屋根付きの炊事場を占領してそこの炉で焚き火をしようと考えていたのに、ちょっとがっかりである。
でも、その雷雨が雨雲の最後の置き土産だったらしく、暫くして雨も止んできた。
外に出て先ほどの強者キャンパーの様子に目をやり、そのテントを見て驚いてしまった。
ホームセンターでよく売られている大型テント、ポールが足りないのか入り口部分が弛んでいて、下に敷いたブルーシートはテントから大きくはみ出して、もう一度雨が降れば酷いことになりそうだ。
強者キャンパーどころか、学生風の若者3人組だったのである。
炊事場で話を聞くと、一番川のオートキャンプ場に泊まるつもりが道路が通行止めだったのでここまでやって来たのだとか。
一番川のキャンプ場は、そこへの道路が土砂崩れのため通行止めになっていて、現在は月形側からでないと入れないのである。
せっかくの貸し切りキャンプがふいになってしまったのは残念だったが、向こうから挨拶してくるし、しっかりとした若者達らしいのがまだ良かった。
レーダー画面を見ても、雨雲は完全に過ぎ去ったようなので、安心して焚き火を始める。
家から持ってきた薪を狭いテントの中で濡らさないように大事にしまっておいた甲斐があると言うものだ。 森の中から聞こえてくるヨタカの鳴き声などを聞きながら焚き火を楽しむ。
川からの水音や森の木々を揺らす風の音が相まって、森の中から聞こえてくる音に耳をすませる様な状況ではないのがちょっと残念である。
2011年版の北海道キャンピングガイドに、フェスキャンの影響などで若者キャンパーが増えてきたとの話が載っていた。
若者3人組もそんなキャンパーなのかもしれない。
我が家にとってはキャンプ場は利用者が少ない程良いのだけれど、マイナーキャンプ場が次々と閉鎖されていく状況を見ているとそんな事も言ってられない。
きっかけはともかく、キャンプ人口が増えてくるのはありがたいことである。
明日の朝も早く目が覚めそうなので9時過ぎには就寝。
鼻が詰まって夜中の12時過ぎに目が覚める。
雨のおかげで治まっていた花粉症の症状が再びぶり返してきたようである。
そこに聞こえてきたギターを弾く音。
「まさか・・・」
混雑するキャンプ場を避けるようになってからは、もう久しく出遭っていなかったシチュエーションに唖然としてしまう。
優しく注意しに行くべきかどうするか。
悩んだ結果、優しく注意する様な芸当は私には絶対無理なので、今夜は使うことは無いと思っていた耳栓をおもむろに取り出して耳の穴にねじ込んだ。
それでもギターと歌声は相変わらず聞こえ続けていたけれど、やがて耳栓の効果が現れてきて再び眠りにつくことが出来た。
次に目が覚めるとテントの中が明るくなっていた。時計を見るとまだ4時前。耳栓を外すと鳥のさえずりが一斉に聞こえてくる。
そのまま微睡んでいると隣のテントからかみさんも起き出してきた。
かみさんは、若者達の騒ぎよりも、私が怒って怒鳴りつけに行くことが心配で眠れなかったとのこと。
朝の焚き火をしながらその若者達の話題になる。
多分彼らは自分たちの行動が他人に迷惑をかけているなんて思っていないのだろう。
そこで「もう夜も遅いのだから静かにした方が良いですよ」と注意すれば、素直に従うはずである。
それが今の若者気質なのだと思う。
もしも彼らが予定通り一番川に泊まって同じことをやったとしたら、多分回りのキャンパーから総攻撃をくらっていたことだろう。
そこで初めてキャンプのルールを知ることになるのが、今回は私が何も言わなかったために、彼らはもう一度何処かのキャンプ場で同じような愚行を繰り返すことになるのかもしれない。
そう考えるとやっぱり、夜中に起き出してでも彼らを注意する必要があったのである。ただ、優しく注意できないと言うのは私の欠点でもあるのだ。
朝靄が晴れてサイトに朝の光が射し込んできた。
オホーツクでの流氷キャンプを抜きにしたら、今年のキャンプで初めて浴びる日の光と言っても大げさではないだろう。
周りの緑が命を吹き込まれたかのように生き生きとして見える。
雨上がりの朝は本当に美しい。
逆光で白く霞んで見えている山は今日登る予定の神居尻山だろうか。
かみさんから「大人げないから止めなさい」と言われながら、まだぐっすりと眠っている若者達のテントの横をわざと大きな音を立てて何度も行き来して荷物を片付け、神居尻山登山へと向かったのである。
道民の森キャンプのアルバムへ |