日高路を十勝に向かって車を走らせる。
天気予報とにらめっこする日々が一週間続き、ようやく昨日、歴舟川キャンプを決行することに決めたのである。
その段階では、雨の心配は無さそうだけれど太陽の姿を見るのは期待薄だろうと、半ば諦め気味の気持ちが強かった。
それが今日は自宅を出る頃から青空が広がり、天馬街道の翠明橋公園で湧き水を汲み、野塚トンネルを抜けて十勝側に出てからも、まだその青空は続いていた。
まずは歴舟川河口部の下見をしてから、腹ごしらえのため大樹町の蕎麦屋「一秀(いっしゅう)」へと向かう。
住宅街の中の分かりづらい場所にあるとは聞いていたけれど、とうとうその店を見つけられず、代わりにホエー豚の豚丼が食べられる「源ファーム」へ行くことにした。
こちらも大樹町郊外の幹線道路から離れた辺ぴな場所にある店だけれど、国道沿いの看板を頼りに何とかたどり着いた。
林に囲まれた素朴な建物が良い感じである。
ここの売りであるホエー豚については、普通の豚との違いが良く分からず、豚丼の味もあまり私好みではなかった。
それよりもお土産に買ったソーセージの方が、焚き火で焼いて食べるとジューシーでとても美味しかったのである。
その後は半田ファームでチーズを買って、これでようやく川下り前の準備が整った。
車を河口に回して、そこからタクシーを呼ぶ。
タクシーは川原までは入れないとのことだったので、川原へ降りる道を300メートルほど歩いて戻って車を待つことにする。
確かにこの道は、以前より草が茂って、普通の車で走るのはためらう様な状況になってきている。
ここでタクシーを呼ぶのは初めてなので、本当に来てくれるかどうか不安だった。
電話に出たおじさんの話しぶりが、どうも頼りなく感じたのである。
じっと待っていてもしょうがないので、そのままブラブラと孵化場の施設辺りまで出てきたところで、ようやくタクシーが来てくれた。
運転手さんの話によると、数年前までは河口部にサケ捕獲用の網を入れていたので、その関連で川原に降りる道を整備していたけれど、その網を入れなくなってからは道も荒れてきているそうである。
河口から大樹町市街地の大樹橋までタクシー料金は3千7百円ほど。
今回下る区間はここから河口までで、ノンストップで下れば2時間もかからずに終わってしまうような距離である。
今回は川原でのキャンプが主目的なので、カヌーで川を下るのは、そのための手段にすぎない。
上流のキャンプ場からここまでの区間では、既に3回ほど川原キャンプを経験しているので、今回は新たな野営地を探しての川旅となるのだ。
1人で1時間も待っていたかみさん。さぞ退屈していることだろうと思ったら、私が到着するなり「ちょっとちょっと、これ見て!」と言ってきた。
石ころに小さな金色の粒が張り付いている。
「これって砂金じゃないかしら?もっと沢山あるのよ!」
川の中の岩盤の緩やかな窪みに薄っすらと砂が溜り、その中で沢山の金色の小さな粒がキラキラと輝いていた。
その中の一粒をかみさんが石に貼り付けたのである。
最近は大雨による増水が繰り返されていたので、砂金掘りをする時に使う揺り板の原理で、流されてきた土砂の中から比重の重たい砂金がそこに集まったと言うことは十分に考えられる。
半信半疑ながら、砂金の混ざっているその砂を集めようとしたが、極薄く溜っているだけなので簡単には集められない。
こんなところで砂金取りに時間を取られているわけにもいかないので、川を下り始めることにする。
それにしても、本格的に砂金掘りをする人は石の川原を数メートルも掘り下げてやっているのに、本当にこれが砂金ならば、そんな努力が馬鹿らしく思えそうである。
去年ここを下った時は、大樹橋から下は本流が左岸側を流れていたのが、今回は右岸に変わっていた。
おかげで、荷物を沢山積んだ状態で洗濯板の瀬を下らずに済むのはありがたい。
それでも、そこから直ぐ下流の瀬ではガンネルを超えてカヌーの中に水が入ってきた。
荷物は全て防水バッグに入っているとは言っても、こんな時はなるべく水を汲まないように下りたいものである。
それにしても歴舟川の水の美しさは最高である。
ここへ来る時に何本も渡ってきた日高の川は、4日前の大雨の影響が残っているのか、何処も茶色く濁った川ばかり。
ここ歴舟川はそんな雨の影響など微塵も感じさせず、何時も以上の透明度を保っている。
上空の澄んだ秋空が、川の水をより一層透明に見せているのかもしれない。
もっとも、秋空と言っても今日の道内の最高気温は内陸部で30度を超えるとのことで、まだ真夏の暑さが続いている。
そんな日に水の上にいられるなんて、本当に幸せである。
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