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河原を濡らす涙雨十勝川キャンプ

十勝川の河原(8月21日〜22日)

 カヌークラブの8月例会では十勝川を下るのだが、キャンプ場の選定に悩んでしまった。
 下る場所から一番近いキャンプ場は、サホロ湖キャンプ場である。
 周りの環境も良く人気のあるキャンプ場で、私も一度は利用してみたいと考えていたので、ここを第一候補に考えていた。
 カヌークラブのキャンプでは、駐車場の近くにクラブのビッグタープを張って、そこに皆で集まって食事や宴会をすることになる。
 ところが、サホロ湖キャンプ場は場内はやたらに広いのだけれど、平らな部分は駐車場に隣接する僅かな場所しかなく、キャンパーも自然とその付近に集まってくるのだ。
 そんな場所にビッグタープをどーんと張って宴会をするのも気が引けてしまう。
 近くには十勝ダムキャンプ場もあるが、こちらも使いづらそうで、我が家だけのキャンプと違って、場所選びがなかなか難しいのである。
 何処にしようかと悩んでいる時に、4年前に十勝川のラフトコースを下った時の川原の様子が頭の中にふと浮かんできた。
 ラフトコースのゴール地点には、広々とした平らな川原があったはずである。
 勿論そこにはトイレも水場も無いけれど、去年の例会で歴舟川の川原キャンプもやっているので、他のメンバーも抵抗は無いだろう。
一週間前の河原は殆ど水没 例会初日の土曜日はこのラフトコースを下るので、下り終えたところの目の前がキャンプ地と言うのは最高の条件である。
 お盆に十勝の実家に帰省してこの川原を下見した時は、直前の大雨で川が増水し、川原も殆ど水没しかけていたが、その後一週間天気が続いたので、川の水位も平常の状態に戻ったようだ。
 心配だった当日の天気も、土曜日までは何とか持ちそうである。
 テントを張る前から雨が降っていたのでは気分的にも滅入ってしまうが、先にテントを張ってしまえば後はどうにかなるものである。

 道東道を東へ向かうにつれ次第に青空が広がってきた。
 数台前をカヤックを積んだ走っていた。
 今週末は空知川でカヌーの大会があるのでその関係者だろうと思っていたら、占冠インターをそのまま通り過ぎたので、もしかしたら私達の関係者かもしれない。
 確かめようとしても、スピードが速すぎて追いつけず、そのうちに見失ってしまった。
 清水インターで降りて、まずは十勝川の様子を見に行く。
 まだ水は灰色に濁り気味なものの、一週間前の茶色い濁流から比べたらかなりましである。
 その後、屈足市街で信号待ちをしているとカヌーを積んだ車が3台連なって通り過ぎていった。今度は間違いなく関係者である。
 その後を追って、仮の集合場所に指定していたくったり温泉に向かうと、高速道路で前を走っていた車がそこに停まっていた。他にも関係者の車が2台。
 今日の集合時間は12時。それがまだ11時前なのにこんなに集まっているなんて驚きである。
 そこからキャンプ予定地の川原へ向かうと、カヌーを積んだ対向車がやって来た。それも、早い時間に着きすぎて上流の方を見に行ってきたと言う関係者。
狭い河原は車で一杯 林の中の砂利道を抜けて川原へ出てくると、そこにも先着の車が2台。
 天気予報もパッとしなくて、トイレも水場も無い川原キャンプなので人数は集まらないだろうと思っていたのに、蓋を開けてみれば狭い川原は車で一杯になっていた。
 今年の例会の中で参加者が一番多いかもしれない。
 今日の十勝地方の最高気温は30度を超える予報で、この川原も日向に立っているのが耐えられない様な暑さである。
 それでも、ビッグタープを張ってその下に入ると、川面を伝って吹いてくる風が心地良い。


野営地前の川の流れ   野営地前の河原

野営地まで戻ってきた 各々食事を済ませて、上流のスタート地点へと向かう。
 そこから野営地の川原までは2キロ少々。
 激流に翻弄されながら下ってくるとあっと言う間に着いてしまう。
 物足りないメンバーは「もう1本下ろう」と再び上流へ上がって行った。
 私もソロで漕ぎたかったけれど、大きなカナディアンで沈をすると皆に迷惑をかけるので遠慮することにした。
 何せ1本目では、カヤックで沈した人でさえ、なかなかレスキューポイントが無くて600mも流されているのである。

 川原にゴロリと横になる。
 川の水も、十分に清流と言えるくらいに澄んでいる。
 残っているメンバーは皆、陽射しを避けてタープの中に隠れてしまったけれど、こんな日は水辺にいるのが一番である。
 やがて2本目を下っているメンバーの姿が上流に見えてきた。
 それと一緒にラフトも次々と下ってくる。
 ここのラフトコースは距離が短いけれど、それが逆に短時間でラフトを楽しめるという事で、土曜日午後の遅い時間でも楽しめるようである。


野営地前の河原   2本目を下り終えた人達

 着替えを済ませてタープの下で寛いでいると、何とも香ばしい香りが漂ってきた。
 そう言えば、ここへ来る時に直ぐ近くの牧草地でスラリーを撒いているのを見ていたのだ。
 スラリーとは家畜の糞と尿の混合物でドロドロとした液状のきゅう肥のこと。
 見た目の問題かもしれないが、一般的な堆肥よりも何となく臭いがきつい気がする。
 風向きが変わったせいでその臭いがこの川原まで漂ってきているようである。
我が家のテント 川で冷やされた冷たい空気、太陽に熱せられた暖かい空気、それらが層を成すように川原に漂っているらしく、歩いていてもその温度変化が感じられる。
 そしてそのモワッとした暖かな空気の中に臭いも閉じ込められているようで、もしもそれに色が付いていたとしたら、川原の風景もおぞましいものに見えることだろう。
 皆で風呂へ入りに行く。
 カラスの行水派はくったり温泉レイクインへ、温泉大好き派は秘湯オソウシ温泉へ。
 オソウシ温泉へ向かったメンバーは多分1時間以上は湯ぶねに浸かっていることと思われ、我が家は当然レイクインを選択した。
 汗を流してサイトに戻ってきたらまずはビール。このビール飲みたさに、急いで風呂から上がってきたようなものである。
 暑さも少し和らいで、ビールが一番美味しい気温だ。
 今回の我が家のメニューはダッチオーブン料理なので、直ぐに焚き火を始める。
イカの冷凍ピラフ詰めアルミホイル蒸し ビールは美味しくても、さすがに焚き火の熱はまだ鬱陶しく感じるような気温なので、焚き火台はタープの外にセットする。
 ダッチオーブン料理の一品めは「イカの冷凍ピラフ詰めアルミホイル蒸し」。かみさんが家で仕込みをしてきたので、それをダッチに入れて焚き火の上に吊るしておくだけで良い。
 それが出来上がるまでの間に他の人が作ってくれる料理をいただく。
 やがてオソウシ温泉組みも戻ってきた。
 ちょうど出来上がったイカのホイル蒸しは、簡単な割りになかなか美味しかった。
 二品目の「丸たまねぎのワイン煮込み」を仕込んで、再び焚き火の上に吊るす。
 次々と回ってくる料理に、既にお腹も一杯だ。こんな時は胃袋の大きい人が羨ましく思える。


焼き肉中   料理中

 一人で清水町の温泉フロイデに行っていたY谷さんが戻ってきて、衝撃的なニュースが伝えられた。
 石狩川の層雲峡付近で川下りをしていた6名のうち2名が死亡したとの話しである。
 Y谷さんも車のラジオでニュースの断片を聞いただけなので、詳細は分からないらしい。
  あの辺りでカヌーに乗る人などは限られていて、もしかしたら知っている人ではとの思いが皆の頭を過ぎる。
タープの下に重苦しい空気が 旭川カヌークラブが週末に層雲峡を下ることになっていたとの情報もあり、余計に心配になってくる。
 そのうちに色々と情報が入ってきたが、混乱していてはっきりとした内容が分からない。
 一時は、6名中2人が死亡し1人が病院に運ばれもう一人は行方不明と聞いて、6人中4人が遭難したとの話しにまでなっていた。
 心配されるかもしれないと、家族に電話を入れる人もいる。
 我が家は、実家の親には十勝川へ行くと帰省の時に伝えてあったし、息子も珍しく「今回は何処へ行くんだ?」と聞いていたので、心配されていることは無さそうだ。
 やがて、死亡したのはやっぱり旭川カヌークラブの2名であることが判明した。
 「できれば関係者でなければ良いのに」と祈るような気持ちでいたのが、結果は最悪で、皆が良く知っている二人だったのである。
 それにしても、川の危険を人一倍知っている筈の二人がそろって命を落とすなんて、現場は一体どんな状況だったのだろう。
 具体的な場所など、それ以上の情報は分からないままで、何となく釈然としない気持ちが皆の心の中にわだかまっていた。
 それでも皆の食欲が衰えることなく、出される料理は次々と平らげられ、ビールやワイン、日本酒、ウイスキーも次々と空けられていく。
 さすがに、ダッチオーブンで作っていた「丸タマネギのワイン煮込み」を今から出しても残ってしまいそうなので、そのまま明日の朝食に回すことにした。
 やがて空から、亡くなった二人を偲ぶかのような涙雨が落ちてきた。
 酔いも回り、皆より一足先に自分のテントにもぐり込む。
朝の風景 テントを叩く雨音を聞いているうちにあっと言う間に眠りに落ちた。
 途中で何度か目を覚ましたけれど、雨音は途切れることなく続いていて、そのまま朝をむかえる。
 まだ雨音は聞こえるけれど、どうやらそれは木の枝から落ちてくる水滴の音のようだ。
 外を覗くと既に雨は止んでいて、目の前の川面からは朝霧が立ちのぼっていた。
 まだ5時前なのに、皆もう焚き火を囲んでいるようだ。
 かなりの雨が降った割には川の水は昨日と全く変わりはない。
 この上流には岩松ダムや十勝ダムなど、いくつものダムが連なっているので、水位の変化はダムの放流量次第なのである。
 十勝川の上流部は完全にダムによってコントロールされる川となってしまった。でも、そのおかげで洪水が減ったのは確かである。
 私が子供の頃の十勝川には広い河原が沢山あったが、今はその殆どが河畔林に覆われている。
 もしもこれらのダムが無かったとしたら、度重なる洪水で河畔林が育つ機会もなく、歴舟川の様に広々とした川原が広がる風景になっているはずだ。

朝から焚き火を囲んで 皆で焚き火を囲んでいると、屋根に黄色い回転灯を付けた車が河原に入ってきて、そこから降りてきた人が私たちの方に向かって歩いてくる。
 「貴方たち、こんなところで何やってるんですか!ニュース見てないんですか?石狩川では二人も死んでるんですよ!雨が降っているのにこんなところでキャンプするなんて何考えてるんですか!」
 てっきりそう言われるのかと思っていたら、「山の方でかなり強い雨が降ってダムから放流するので、これから水が増えてくるので注意してくださいね」と、とても優しく注意してくれた。
 別に悪いことをしているわけでは無いけれど、こんな時には何故か皆、小さくなってしまうのが可笑しい。

朝の河原の風景 食事を済ませて片付けを始める。
 「今日はどうするの?」
 今回のツアーリーダは私なので、皆が聞いてくるけれど、私の方が聞きたいくらいである。
 層雲峡での事故の翌日、、皆の気持ちが落ち込んでいるのは確かだった。
 私は予定通り下るつもりでいたけれど、こんな沈んだ気持ちで川を下っても楽しくはない。
 それに、今日下る予定の新得から芽室までの区間は、難易度こそ低いものの倒木が多いのでもしもの事態も考えられる。
 皆で話し合った結果、こんな時は止めた方が良いとの結論になり、今日の川下りは中止となった。
 夏の終わりの太陽が河原を照らし、今日も暑い一日になりそうだ。

 亡くなられたお二人のご冥福を心からお祈りいたします。




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