一人で清水町の温泉フロイデに行っていたY谷さんが戻ってきて、衝撃的なニュースが伝えられた。
石狩川の層雲峡付近で川下りをしていた6名のうち2名が死亡したとの話しである。
Y谷さんも車のラジオでニュースの断片を聞いただけなので、詳細は分からないらしい。 あの辺りでカヌーに乗る人などは限られていて、もしかしたら知っている人ではとの思いが皆の頭を過ぎる。
旭川カヌークラブが週末に層雲峡を下ることになっていたとの情報もあり、余計に心配になってくる。
そのうちに色々と情報が入ってきたが、混乱していてはっきりとした内容が分からない。
一時は、6名中2人が死亡し1人が病院に運ばれもう一人は行方不明と聞いて、6人中4人が遭難したとの話しにまでなっていた。
心配されるかもしれないと、家族に電話を入れる人もいる。
我が家は、実家の親には十勝川へ行くと帰省の時に伝えてあったし、息子も珍しく「今回は何処へ行くんだ?」と聞いていたので、心配されていることは無さそうだ。
やがて、死亡したのはやっぱり旭川カヌークラブの2名であることが判明した。
「できれば関係者でなければ良いのに」と祈るような気持ちでいたのが、結果は最悪で、皆が良く知っている二人だったのである。
それにしても、川の危険を人一倍知っている筈の二人がそろって命を落とすなんて、現場は一体どんな状況だったのだろう。
具体的な場所など、それ以上の情報は分からないままで、何となく釈然としない気持ちが皆の心の中にわだかまっていた。
それでも皆の食欲が衰えることなく、出される料理は次々と平らげられ、ビールやワイン、日本酒、ウイスキーも次々と空けられていく。
さすがに、ダッチオーブンで作っていた「丸タマネギのワイン煮込み」を今から出しても残ってしまいそうなので、そのまま明日の朝食に回すことにした。
やがて空から、亡くなった二人を偲ぶかのような涙雨が落ちてきた。
酔いも回り、皆より一足先に自分のテントにもぐり込む。
テントを叩く雨音を聞いているうちにあっと言う間に眠りに落ちた。
途中で何度か目を覚ましたけれど、雨音は途切れることなく続いていて、そのまま朝をむかえる。
まだ雨音は聞こえるけれど、どうやらそれは木の枝から落ちてくる水滴の音のようだ。
外を覗くと既に雨は止んでいて、目の前の川面からは朝霧が立ちのぼっていた。
まだ5時前なのに、皆もう焚き火を囲んでいるようだ。
かなりの雨が降った割には川の水は昨日と全く変わりはない。
この上流には岩松ダムや十勝ダムなど、いくつものダムが連なっているので、水位の変化はダムの放流量次第なのである。
十勝川の上流部は完全にダムによってコントロールされる川となってしまった。でも、そのおかげで洪水が減ったのは確かである。
私が子供の頃の十勝川には広い河原が沢山あったが、今はその殆どが河畔林に覆われている。
もしもこれらのダムが無かったとしたら、度重なる洪水で河畔林が育つ機会もなく、歴舟川の様に広々とした川原が広がる風景になっているはずだ。
皆で焚き火を囲んでいると、屋根に黄色い回転灯を付けた車が河原に入ってきて、そこから降りてきた人が私たちの方に向かって歩いてくる。
「貴方たち、こんなところで何やってるんですか!ニュース見てないんですか?石狩川では二人も死んでるんですよ!雨が降っているのにこんなところでキャンプするなんて何考えてるんですか!」
てっきりそう言われるのかと思っていたら、「山の方でかなり強い雨が降ってダムから放流するので、これから水が増えてくるので注意してくださいね」と、とても優しく注意してくれた。
別に悪いことをしているわけでは無いけれど、こんな時には何故か皆、小さくなってしまうのが可笑しい。
食事を済ませて片付けを始める。
「今日はどうするの?」
今回のツアーリーダは私なので、皆が聞いてくるけれど、私の方が聞きたいくらいである。
層雲峡での事故の翌日、、皆の気持ちが落ち込んでいるのは確かだった。
私は予定通り下るつもりでいたけれど、こんな沈んだ気持ちで川を下っても楽しくはない。
それに、今日下る予定の新得から芽室までの区間は、難易度こそ低いものの倒木が多いのでもしもの事態も考えられる。
皆で話し合った結果、こんな時は止めた方が良いとの結論になり、今日の川下りは中止となった。
夏の終わりの太陽が河原を照らし、今日も暑い一日になりそうだ。
亡くなられたお二人のご冥福を心からお祈りいたします。 |