キャンプ場まで歩いてくると、そこも一面の花畑である。
残念ながらカタクリの花はもう終わりを迎えていた。
終わりと言うよりも、昨日まで日高地方で降っていた強い雨に打たれて、花が痛んでしまったのかもしれない。
それでも見事な花の風景である。
これだけの風景を目の前にしてテントを張らずに去ってしまうなんて、何だかとても勿体無い気がする。
でも、10年前にも満開のエゾエンゴサクやカタクリに囲まれた素晴らしいキャンプをここで楽しんでいたので、今回は予定通り、私にとって未知の世界であるアポイ岳に向かうことにした。
それにしても、土のテント床には今年になってから利用された形跡が見当たらない。
ここを去るにあたって、明日の土曜日は誰かキャンパーが来るのか、そんなことが心配になってきてしまうのである。
予定以上に判官館森林公園に時間を取られた後は、サラブレッド銀座と呼ばれる道路を通って、静内の二十軒道路桜並木へと向かう。
今の季節はサラブレッドも出産の時期なのだろうか。
何処の牧場でも仲睦まじい親子の姿を見られる。
今回のキャンプでは、二十軒道路桜並木で桜を見るのも目的の一つだった。
花の咲いた二十軒道路はまだ見たことが無く、それが今回は桜の開花が全道的に遅れていたことから、ギリギリで花の姿を見られるかもしれない。
それが、先週末に満開となり、その後も暖かい日が続いていたものだから、今日まできが気ではなかった。
判官館や途中の山でも満開の桜が見られ、これは期待ができるかなとワクワクしていた分、失望も大きかった。
見事な葉桜が遥か彼方まで続いているだけだったのである。
「何で〜」、周りの山の桜と比較すると、散るのが少し早すぎる。
数本だけ、まだ花を咲かせている桜を見つけ、かろうじて桜並木に見える写真を撮ってから、再び様似を目指す。
昼は浦河町の和食海鮮処「金水」で食べることに意見がまとまり車を走らせていたところ、その途中のドライブイン「あさり浜」の前を通りかかったところで、かみさんが「ここも良いな〜」と言うものだから直ぐに車を止めた。
かみさんは以前からここの「磯ラーメン」の看板が気になっていたとのことである。
エビ天丼のボリュームも評判らしい。
かみさんは予定通り磯ラーメンを注文。
私は折角だからと天丼を頼んでみた。私は普段から天ぷらを食べ過ぎると胸焼けするものだから、ボリューム満点のエビ天丼はさすがに食べる気はしない。
食後の感想は、かみさんは「しょっぱいからもう食べない」。 私は「うぇ〜っぷ、やっぱり天丼頼まなけりゃ良かった」。
歳を取ると、塩分や脂分の多い食べ物は苦手になってくるのである。
途中の三石では、三石羊羹の老舗である八木菓子舗に初めて立ち寄った。
今日は時間に余裕があるので、普段は通り過ぎてしまうような場所にも寄り道できる。
後で分かったのだけれど、ここで売られているのが三石昆布羊羹だと思っていたら、昆布羊羹は道路を挟んだ向い側の大野菓子舗で売られていて、三石羊羹とは全くの別物だったのである。
様似町について、まずは工藤商店で「たこまんま」を購入し、その後は観音山公園へ。
ここも花の名所である。
オオバナノエンレイソウの群落の中でひっそりと咲いているシラネアオイの淡い青色の花が何とも清楚で清々しい。
山を下って次は郷土資料館へ入る。
前回様似町を訪れた時はちょうど休館日で口惜しい思いをしたけれど、今回は開館していてくれた。
小さな建物であまり期待はしていなかったが、それにしても歴史のある町にしてはちょっと寂しい展示内容である。
ただ、現在のように護岸され、家が立ち並ぶ前の様似の海岸風景の写真を見られたのは収穫だった。
その風景は多分、1799年に様似を訪れた高田屋嘉兵衛が見たものと大きく変わりは無いはずなのである。
エンルム岬にも登ってみたかったが、次第に青空が広がってきたものの、まだ山の方は霧に覆われ、眺めも期待できそうに無いので、エンルム岬は止めて幌満峡まで足を延ばしてみることにする。
そこがどんな場所なのか、予備知識は全く無し。
道路地図でその名前を見つけただけで、今を逃せが二度と訪れることは無いかもしれない。
とは思いつつ、何となく予感はしていた。山に囲まれた峡谷のような地形、私の経験上そんな場所では必ず素晴らしい風景に出合えるはずなのだ。
そしてその予感どおり、幌満峡は私好みのパラダイスだった。
増水気味の幌満川は、カヌーが趣味の人間には、見ているだけでドキドキしてくるようなホワイトウォーターとなり、峡谷のあちらこちらからその川に向かって滝が流れ落ちている。
そんな滝をもっと近くで見ようと森の中に分け入ると、足元にはオオサクラソウの大群落。
熊に食い散らかされたのだろうか。鹿の四肢が散らばっている。
完全に白骨化した動物の頭骨も転がっていた。
山の中は苔生した岩に覆われ、そこにはナキウサギも生息しているらしい。
岩の上に建てられた祠、古い発電所の建物、急な石段を登っていった先には稲荷神社もある。
岩盤が剥きだしの山肌は、アポイを代表するかんらん岩の岩体だ。
まるで遊園地の様なフィールドである。
ただし、そこを通る道はガードレールも無い崖の上の道。
よそ見をしていたら崖下に転落してしまうし、真っ直ぐに前を向いていても、頭の上からは岩が転がり落ちてきそうだ。
そんな道を、ここへ来る途中にとうとう走行距離20万キロを超えてしまったポンコツオデッセイで走るのは、とても不安が大きい。
かみさんが助手席で「怖いからもう嫌だ〜」と何度もうるさく騒ぐものだから、その先にある幌満ダムまで行くのは諦めて、途中から引き返すことにした。
遊園地とは言っても、女・子供を連れてくるような遊園地では無さそうである。
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