6時近くまでぐっすりと眠り、昨日の川下りの疲れも酔いも抜けて、気持ちの良い朝を迎えた。
テントの中をサッサと片付けてしまうことにする。
シュラフを片付け、次にテントマットを両膝で押さえて空気を抜きながら丸めていく。
そんな体勢のまま、少しお腹が張っていたので、その原因のガスを放出するためお尻の筋肉を緩める。
何時もならば、そのまま「プスー」っとガスが抜けていくはずだった。
ところがこの朝は何時もとは違っていたのである。
その感触は「プスー」ではなくて、「プシュ〜〜ゥ〜〜」。
「!、・・・」
直ぐには何が起こったのか理解できずに、その体勢のまま暫し固まってしまう。
こ、これは明らかに気体ではなく、液体、いやそれよりも液体に近い固体と言ったほうが正しいかもしれない。
気相の状態から、同じ流体でありながら分子の動きが制限された液相へと、何らかの原因により構造相転移を起こし、言わば液体分散媒のコロイドであるゾルと化したのである。
時間が経つと共に自分の置かれた困難な状況が認識できてくる。どうやってこの危機から脱出すれば良いのか。
この脱出の様子はあまりにも生々しいので、ここで書くのは差し控えさせてもらう。
最悪の危機は何とか切り抜けたので、後はトイレまで行かなくてはならない。
テントの外を覗くと人影は無いもののタープの下からは数人の話し声が聞こえてくる。
あまり人には会いたくなかったので、そのままこっそりとトイレに向かって歩いていると、かみさんがタープの下から出てきた。
そして私の顔を見るなり「大丈夫?体は何ともない?」と聞いたきたのだ。(?、何で分かった?、俺ってそんなひどい顔をしているのか・・・)
「ぜ、全然、大丈夫じゃないよ」
するとかみさん。
「やっぱり!みんな大変なのよ、吐いたり下痢したり」
「げ、下痢・・・」
自分の名誉が回復された気分だった。
これは私の失態ではなく、なるべくしてなった状況なのである。
結局、9名中無事だったのはかみさんを含めて2名だけ。
その病状は、軽い下痢程度で済んでいる人もいれば、夜のうちから嘔吐と下痢に見舞われた人、まるで大腸検査を受ける前のように腸の中が空っぽになってしまった人、散歩途中に急にもよおしてそのまま野○○をしていたら釣り人が歩いてきて焦った人、そして中に出てしまった自分まで、様々である。
さて、この騒動の原因となったのは何だろう?
唯一、生もので食べたホタテが一番最初に疑われたが、これが原因の食中毒ならばもっと重病の人も出てきそうである。
今回は腹痛を訴える人も無く、症状は下痢だけである。
怪しいのはやっぱり山菜。それも、コゴミは他のものと間違いようもないので、残るはアズキナだけである。
アズキナに似た毒のある野草もあるらしく、この時はアズキナ原因説が有力だった。
しかし後日、本当の原因はコゴミであることが判明。
コゴミは加熱が十分でないと下痢や嘔吐の中毒症状になるとのこと。
茹でた人の話では、火力が弱くて沸騰しなかったけど野菜と同じだからとあまり気にしていなかったそうである。
コゴミ恐るべし!
下手な下剤を飲むくらいならば、半茹でのコゴミを食べた方が効果が高いかもしれない。
皆、これだけひどい目に合いながらも、この日の朝食で大量のスパゲティを茹でて、それにカレーのルーを入れて食べるのだからたいしたものである。
まあ私にしても、自分の下着の中の状態を直接目にしていた割には、そのカレースパゲティを美味しく食べることができた。
そして片付けを終え、皆、何となくお腹の状態を気にしながら今日の川下りの集合場所へと向かったのである。
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