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雨上がりの雪中キャンプ

旭岳山麓(2月27日〜28日)

 2010年の初キャンプは久しぶりの流氷キャンプ。
 早くからそう決めていたのに、今年も流氷は早々にオホーツク沿岸から姿を消してしまった。
 これに喜んだのはかみさんである。
 「流氷キャンプは殺伐としていて、あまり好きじゃない」と言うのが彼女の本音のようで、「やっぱり雪中キャンプは森の中が良いわ」と、否応なしに今年も旭岳でのキャンプと決められる。
 旭川北で高速道路を降りて南へ向かうと、久しぶりに見る大雪の真っ白な山並みが青空の下にくっきりと浮かび上がり、私の気持ちを逸らせる。
北の住まい cafe' その前にまず東川町で腹ごしらえ。
 事前のリサーチの結果、候補に上がっていたのは東川町郊外の「北の住まいカフェ」か、街中にある「おかめ食堂」の二つ。
 なかなか厳しい二者択一だったけれど、たまにお洒落な「カフェ」なるものに入ってみようと考え、前者に決定。
 ここは、家具の製作をメインとする北の住まい設計社が経営するカフェで、ショールームでは家具や雑貨類も売られている。
 こんなところに人が来るんだろうかと思われるほど郊外にある割には、お客さんも結構入っていた。
 かみさんはここが気に入ったようで色々と見て回っているけれど、私の方は遠くに見えている真っ白な山が気になってしょうがない。
 かみさんを急かしてサッサと食事を済ませ、そこで売られていた美味しそうなパンを購入し、一路旭岳を目指した。
 食事はそれなりに美味しかったけれど、コストパフォーマンスで言えば、多分「おかめ食堂」に軍配が上がっていたような気がする。

旭岳ロープーウェイ駐車場で 途中の「大雪旭岳源水」に立ち寄り、持参したペットボトルに水を満たす。
 そうして旭岳のロープーウェイ駅に到着。
 念のために入林届けにも名前を記入しておいたが、目的欄に「山中キャンプ」と書くのは私達ぐらいだろう。
 大型ソリに荷物を積み込んで、駐車場を出発。
 今回は大型のザックがあるので、これまでよりもソリの荷物はかなり軽くなった。
 とは言っても、途中の急な坂をソリを引いてて登るのは半端な労働ではない。
 それでも、これまでは二人がかりでなければ駄目だった坂を一人でも何とか登れたのは、軽量化の成果だろう。
 私達が汗を掻きながら登る横を、スキーヤーやボーダーが次々と滑り降りてくる。
 かみさんはこれがとっても恥ずかしかったようだけれど、降りてくるのは殆どが若者達なので、私は大して気にもならなかった。
ソリを引いてスキーコースを登る 普通の感覚では「この二人はこんなところで何をしているの?」と思われそうだが、「自分と関係のないことには無関心」な最近の若者達にしてみれば、私達はただの通行人にしか過ぎないのである。
 三つ目の急な坂を登り終えたところで、スキーコースから外れて森の中へと入る。
 数日前に降った雨の影響で、森の木々はその上に積もっていた雪を完全に落としてしまい、まるで春先のような様相である。
 今回のキャンプで一番気になっていたのは、この事だった。
 私にとって、森の中での雪中キャンプ最大の楽しみは、おとぎ話に出てくるような雪に覆われた針葉樹の森の風景なのである。
 「標高の高い場所では、その雨が途中から雪に変わって、再び冬の景色に変わっているかも」との淡い期待はあっさりと打ち砕かれてしまった。
 その代わりに、雨で固まった雪面はラッセルする必要も無く、多少デコボコしていることを気にしなければとても歩きやすい。
 前回よりももっと標高の高い場所で、との気持ちもあったけれど、ソリを引いて登るのはこの付近が限界。それに、テントを張るのに一番良いのもこの付近だと、旭岳キャンプ3回目にしてほぼ分かっていた。

我が家のサイト 斜面を少し降りたところに平坦な場所を見つけ、そこを今回の野営地にしようと、かみさんが雪を踏み固め始めた。
 でも、まだ迷いの残っていた私は、そこのやや上に眺めの良い場所があったので、もう一度そこへ戻ってみる。
 スペースは狭いけれど、眺めも良くて、遠くには小化雲岳や美瑛岳らしき姿も見えている。
 結局、かみさんに謝って、こちらに場所を変更し、もう一度雪を踏み固めるところから設営を開始した。
 雪中キャンプ用に用意してあった自作雪用ペグを忘れてきたことに気が付く。
 自作ペグとは言っても、庭のプルーンの木を剪定した時にでた枝のことである。
 気温の低い時期の雪中キャンプでは、雪が全く固まらないのでテントのペグダウンに苦労する。
 そんな時には、真っ直ぐに1m以上伸びたこの剪定枝が役に立ち、雪の中に深く差し込むと十分に抵抗を得られるのだ。
 しょうがないので今回は、近くに生えているダケカンバの枝で代用した。


眺めの良いサイトだ   斜面の下から我が家のサイトを見る

 2時過ぎに設営を終え、森の中の散歩へと出かける。
 今回は是非とも行ってみたい場所があった。それは、この森の中をもっと奥に入った二見川沿いの場所で、展望の良いところらしい。
 地形図では標高1182mと書かれている地点で、二見川の側は急斜面になっていて、如何にも眺めが良さそうである。
 ちなみにこの二見川は、その下流で羽衣の滝となって天人峡の断崖を流れ落ちることになる。
 前回もそこへ行くつもりだったけれど、雪が深くラッセルも大変そうだったので、実現しないままに終わっていた。
 GPSのナビ機能によると、そのポイントまで直線距離で600mと表示されている。
森の中に肉饅頭が その矢印の指し示す方向に向かって歩き始めた。
 雪面はもなか状に表面が固まっているが、スノーシューを履いていても、時々そのもなかの皮を破ってしまう。
 それでも深雪の中をラッセルしながら歩くよりは余程楽である。
 雨が降った時にその上を水が流れたのだろうか。 周りの雪面全てに筋状の模様が刻まれている。
 ところどころにあるお饅頭のような小さな雪山は、根返りで倒れた樹木の根株の上に雪が積もってできたものである。
 その雪山の表面にも筋模様が描かれ、良く見かける肉饅頭そっくりだ。
 アカエゾマツの葉先、ダケカンバの枝先には、雨粒が小さな氷となって下がっている。
 かみさん曰く「森の中のLEDライトみたい」
 期待していた風景は見られなくても、何時もとは全く違う風景が私達を楽しませてくれる。


不思議な模様が描かれた雪面   LEDライト

 GPSの距離表示の数値が次第に小さくなってくる。
 雨が降る前に誰かが歩いたようなトレースが残っていた。
 バックカントリー好きの人達には知られているポイントなのかもしれない
大展望が開けた そしてそこにたどり着いた瞬間、目の前に広がる大展望に思わず歓声をあげてしまった。
 山登りで山頂に立った瞬間と全く同じ感動である。
 もちろん、山に登ればもっと雄大な景色を楽しめるだろうけれど、見通しの利かない森の中を歩いてきたら、カーテンを開けたように突然目の前に雄大な風景が現れるのだから堪らない。
 小化雲岳から遠く美瑛岳まで白くうねる山並みが延々と続いている。
 真っ青な空には不思議な形の雲が浮かんでいた。
 そこへ、旭岳を飛び越えて一直線に伸びてくる飛行機雲。
 目の前で繰り広げられる大スペクタクルに見惚れてしまう。
 遥か下の方からは水の流れる音が聞こえてくる。地図ではこの二見川のもう少し上流に「弊の滝」があることになっているので、そこからの水音だろうか。
 川まで降りてみたかったけれど、かみさんが嫌がるので滝は諦めてテントまで戻ることにする。


旭岳を越えて飛行機雲が伸びてくる   変わった形の雲が


ごま粒のようなスキーヤー 樹木が疎らになったところでは、樹木越しに旭岳が姿が現す。
 そこを滑るスキーヤーの姿が、まるでゴマ粒のように見える。
 遠く離れているはずなのに、彼らの話し声やスキー板がガリガリとアイスバーンを削る音が、森の中にまで届いてくる。
 起伏の多い森はまるで迷路のようで、うっかりすると直ぐに迷子になってしまいそうだ。それがGPSのおかげで、安心して好き勝手に森の中を歩きまわれる。
 自分のカメラを忘れてきたかみさんは、せっかくお気に入りのシーンを見つけても写真を写せなくて口惜しそうだ。
 「何で忘れたのよ〜!」、「そんなこと言っても、自分のカメラだろう!」
 我が家の場合、キャンプ準備時の役割分担はほぼ決まっているのだけれど、かみさん用のカメラだけは何時もグレーゾーンになっていて、往々にしてこんな事態となるのである。

よく冷えたヱビスビール テントに戻ってきて、1本だけ買ってきたビールを開ける。それも、初キャンプを祝って大奮発の札幌エビスである。
 まあ、1本だけなのでエビスを買えるけど、1日も何本も飲むような何時ものキャンプでは金麦程度しか買えないと言うのが実情なのである。
 テントの中に置きっぱなしにしてあったビールは、凍りつく寸前まで冷え切っていた。
 陽射しは強くても、気温は-10度近くまで下がっていそうだ。
 テントの周りにスコップで雪を寄せていたら、持ち手のプラスチック部分がパリンと割れてしまった。かなり古いスコップだったこともあるけれど、気温の低さも影響していたのかもしれない。
 日が沈む頃に、もう一度二見川展望地まで行ってみようかと話していたが、次第に雲が広がり始めてきたので、夕日は諦めるしかなさそうだ。
 そのうちにチラチラと雪が舞い始めたのは、上空の雲から降ってきたのではなくて、空気中の水蒸気が冷やされて雪の結晶に生長したものなのだろう。


テントの中で寛ぐ   かろうじて見えた夕日

 今夜の夕食はキムチ鍋。
 その用意をしながら「あれ?箸は何処に入っている?」と私が聴いた瞬間、かみさんの表情が固まった。
 カメラはどちらの責任でもないけれど、これは完全にかみさんの担当である。
 それでも致命的な忘れ物でもない。
キムチ鍋料理中、シラカバの箸も 私の個人装備にナイフを入れてあったので、それでシラカバの枝を削って箸を作ることにした。
 「こんなのも楽しいでしょ!」と自分の責任をごまかすかみさんである。
 夕日が雲を少しだけ赤く染めながら沈んでいく頃、キムチ鍋が完成した。
 テントの入り口を閉じて夕食にする。
 箸と一緒に入れてあったおたまも忘れてきたが、こんな時にシェラカップはおたま代わりにもなってとても便利であることを思い知った。
 ナベの中から直接シェラカップで具をすくい取り、それをシラカバの木の枝を削った箸で食べる。
 とても今日のお昼にお洒落なカフェで食事をしていた夫婦の姿には見えないだろう。

 長靴の中に少し雪が入っていたようで、靴下が濡れてしまっていた。替えの靴下は、温泉に入った後の着替え用として、車の中に置いたままである。
 かみさんは「濡らした時のために靴下の替えも入れた方が良いと思ったのだけど・・・」と言うが、着るものは各自の責任で用意することにしていたのでこれはしょうがない。
 それにしても細々と忘れ物の多いキャンプである。
 久しぶりのキャンプと雪中キャンプへの慣れ、そんなところに油断が潜んでいたのかもしれない。
 濡れた靴下は、ガスコンロの上に吊るしておいたら、あっと言う間に乾いてしまった。
 ガスコンロに乗せて使うコールマンのヒーターの威力はさすがである。でも、その分ガスの消耗は激しく、あっと言う間にカートリッジが空になってしまう。
月夜 その交換をしている間にもテント内の温度は一気に下がってくる。外の気温は既に-15度を下回っていた。
 いつの間にか雲が晴れて、満月に近い月が森の中を明るく照らし出していたので、完全装備に身を包みカメラを抱えてテントの外へ出る。
 ちょうど満月の2日前なので、今回のキャンプではこの月夜も楽しみの一つにしていたのである。
月の光だけでこれだけ明るくなるのかと驚くくらいに、森の中は明るく照らされていた。
 雪面がキラキラと輝いて見える。
 暗い空に旭岳の姿がくっきりと浮かび上がる。
 アカエゾマツの真っ黒なシルエットが夜空に向かって聳え立つ。
 そのまま夜の森の中へと入っていきたい気分だったが、寒さに耐え切れずにテントの中に逃げ込んだ。
 ワインを1本空けて、寝る前にもう一度外へ出ると、空には再び薄雲が広がり、月はその向こうにぼんやりと霞んで見えていた。


月明かりの夜

 8時過ぎにはシュラフに潜り込み、何時もと同じくあっと言う間に眠りに落ちた。
 ブルッと体が体が震えて目が覚める。
 時計を見るとまだ11時過ぎ。せめて翌日にはなっていて欲しかった。
 これから長い夜が始まりそうである。
夜の森 我が家のシュラフはモンベルの#2、快適睡眠温度域は-4度〜、使用可能限界温度は-15度とされているが、多分もう外の気温は-20度を下回っていることだろう。
 このシュラフで旭岳の山の上で雪中キャンプをするのは、はっきり言って無謀なのである。
 しかし、服を沢山着過ぎているためか、体が汗ばんでいた。それなのに寒いのである。
 シュラフの中には使い捨てカイロが四つ入れてあるけれど、暖かいのはそれが触れている部分だけだ。
 寝返りのために体を動かすと、僅かに空いた首元から冷たい空気が一気にシュラフの中に流れ込んでくる。
 脱いだオーバーズボンとカメラバッグの中にもカイロが一つずつ入っている筈だけれど、それを取りにシュラフから抜け出す勇気も無い。
 ずーっと眠れないまま、何故か頭の中では、来る途中の車の中で聞いていた井上陽水が歌う「コーヒールンバ」がエンドレスで鳴り続けている。
 そんな悪夢の状況から抜け出せたのは午前2時頃である。
灯りの灯るテント 相変わらず目が覚めていたけれど「あれ?俺って今寝ていた?」と感じる瞬間が訪れたのだ。
 それから断続的だけれど、ようやく眠れるようになってきた。寒さも感じなくなったのは外の気温も上がってきたからなのだろうか。
 時計を見るのは何度目だったろう。テントの中はまだ暗いけれど、もう少しで午前5時になるところだった。
 ようやく長い夜が明けた。
 シュラフに包まったままガスストーブに火を点ける。火力調整つまみが凍り付いているので、ペンチを使って回さなければならない。
 ガスが出てくる気配が無いので、使い捨てカイロでカートリッジを温めて、それでようやく火を点けることができた。
 かみさんも自分のテントからこちらに移ってきたが、彼女はそれほど寒さも感じないで眠れたようである。
 外の木の枝に吊るしてあった温度計を見ると-13度、やっぱり夜半頃から気温が上がったみたいだ。
 テント内が暖まってくると、内側に付いていた霜が解けて、ポトリポトリと降ってくる。慌ててタオルでそれを拭き取ったけれど、こんな時のために用意している雑巾も、数多い忘れ物の中の一つだった。
 二つ目のガスカートリッジが空になってしまった。これ以上ストーブを燃やしていると、炊事用のガスが無くなりそうなので、暖房は諦めることにする。
 暖房が無くても、服を沢山着込めば寒さはしのげる。暖房が無ければ、雪中キャンプに雑巾は必要無くなる。そもそも山の中のキャンプで、貴重な燃料をガンガン燃やして暖を取るなんて論外である。冬のキャンプなのだから、寒さもそのまま受け入れるべきである。
 と自分を納得させながら、残った貴重なガスでコーヒーを入れた。

朝の二見川展望地 体の内部が暖まって人心地付いたところで、朝の散歩に出かける。
 上空にはまだ薄雲がかかっていて、朝日が見られるか微妙な状況だったけれど、もう一度二見川展望地まで行ってみることにした。
 昨日と違うルートで歩いているつもりでも、いつの間にか自分達の足跡に遭遇してしまう。
 完全装備のまま歩き始めてしまったので、さすがに暑くてなってきた。
 考えてみれば上半身は6枚も重ね着をしているのだ。メリノウールの長袖シャツ、その上に化繊のTシャツ、薄でのハイネックフリースセーター、長袖ダウンインナー、モコモコのフリースジャケット、そして最後に中綿入りゴアテックスジャケット。
 このまま山の中で一晩眠っても、凍死することはなさそうだ。

ぼんやりと霞んだ朝日 二見川展望地に到着したけれど、空が曇っているのでその眺めもパッとしない。
 それでも、朝日が昇ってくる時間まで待って、かろうじて朝焼けの空を見ることはできた。
 淡い光が射し込む森の中をテントへと戻る。
 今度こそ違うルートを歩こうと思っていたのに、またまた自分達の足跡に遭遇する。
 アカエゾマツとダケカンバ、雪のお饅頭、何処を歩いても同じような風景なので、いつの間にか同じルートに戻ってしまっているのだ。

 食事を終えて荷物を片付ける頃には空はすっかり雲に覆われていた。
 旭岳での初めてのキャンプでは、最初は少しだけ日が射したものの夜中から降り始めた雪が朝になっても降りやまず、雪の中での撤収。
 2度目は、到着時からパッとしない天気で夜中には少し雪が積もり、それが翌朝には最高の青空が広がってきた。
 そして今回は前回と逆のパターン。それでも、夕日に、月に、朝日も見られて思い残すことは無し。
 旭岳でのキャンプもこれで最後になるかなと思いつつ、でも次は冬でも凍らないカモ沼のほとりにテントを張るのも楽しいかなと考えながら、スキーゲレンデをテクテクと下り降りた。

ランドカフェ 温泉でゆっくりと暖まろうと思ったら、10時から入浴できるはずの湯元湧駒荘は改装工事のため閉鎖中。
 しょうがないので東川町の「森のゆホテル花神楽」まで行って汗を流す。
 すっきりとしたところで、帰り道の昼食は美瑛町マイルドセブンの丘の麓にある「ランドカフェ」で。
 キャンプの行きも帰りもカフェでお食事なんて、我が家も随分進化?したものである。
 美瑛から見えるはずの大雪の山並みは、完全に雲に隠れてしまって、その気配さえも感じない。
 それでも、充実したキャンプの余韻に浸りながら、満ち足りた気分でハンドルを握っていた。

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