8時過ぎにはシュラフに潜り込み、何時もと同じくあっと言う間に眠りに落ちた。
ブルッと体が体が震えて目が覚める。
時計を見るとまだ11時過ぎ。せめて翌日にはなっていて欲しかった。
これから長い夜が始まりそうである。
我が家のシュラフはモンベルの#2、快適睡眠温度域は-4度〜、使用可能限界温度は-15度とされているが、多分もう外の気温は-20度を下回っていることだろう。
このシュラフで旭岳の山の上で雪中キャンプをするのは、はっきり言って無謀なのである。
しかし、服を沢山着過ぎているためか、体が汗ばんでいた。それなのに寒いのである。
シュラフの中には使い捨てカイロが四つ入れてあるけれど、暖かいのはそれが触れている部分だけだ。
寝返りのために体を動かすと、僅かに空いた首元から冷たい空気が一気にシュラフの中に流れ込んでくる。
脱いだオーバーズボンとカメラバッグの中にもカイロが一つずつ入っている筈だけれど、それを取りにシュラフから抜け出す勇気も無い。
ずーっと眠れないまま、何故か頭の中では、来る途中の車の中で聞いていた井上陽水が歌う「コーヒールンバ」がエンドレスで鳴り続けている。
そんな悪夢の状況から抜け出せたのは午前2時頃である。
相変わらず目が覚めていたけれど「あれ?俺って今寝ていた?」と感じる瞬間が訪れたのだ。
それから断続的だけれど、ようやく眠れるようになってきた。寒さも感じなくなったのは外の気温も上がってきたからなのだろうか。
時計を見るのは何度目だったろう。テントの中はまだ暗いけれど、もう少しで午前5時になるところだった。
ようやく長い夜が明けた。
シュラフに包まったままガスストーブに火を点ける。火力調整つまみが凍り付いているので、ペンチを使って回さなければならない。
ガスが出てくる気配が無いので、使い捨てカイロでカートリッジを温めて、それでようやく火を点けることができた。
かみさんも自分のテントからこちらに移ってきたが、彼女はそれほど寒さも感じないで眠れたようである。
外の木の枝に吊るしてあった温度計を見ると-13度、やっぱり夜半頃から気温が上がったみたいだ。
テント内が暖まってくると、内側に付いていた霜が解けて、ポトリポトリと降ってくる。慌ててタオルでそれを拭き取ったけれど、こんな時のために用意している雑巾も、数多い忘れ物の中の一つだった。
二つ目のガスカートリッジが空になってしまった。これ以上ストーブを燃やしていると、炊事用のガスが無くなりそうなので、暖房は諦めることにする。
暖房が無くても、服を沢山着込めば寒さはしのげる。暖房が無ければ、雪中キャンプに雑巾は必要無くなる。そもそも山の中のキャンプで、貴重な燃料をガンガン燃やして暖を取るなんて論外である。冬のキャンプなのだから、寒さもそのまま受け入れるべきである。
と自分を納得させながら、残った貴重なガスでコーヒーを入れた。
体の内部が暖まって人心地付いたところで、朝の散歩に出かける。
上空にはまだ薄雲がかかっていて、朝日が見られるか微妙な状況だったけれど、もう一度二見川展望地まで行ってみることにした。
昨日と違うルートで歩いているつもりでも、いつの間にか自分達の足跡に遭遇してしまう。
完全装備のまま歩き始めてしまったので、さすがに暑くてなってきた。
考えてみれば上半身は6枚も重ね着をしているのだ。メリノウールの長袖シャツ、その上に化繊のTシャツ、薄でのハイネックフリースセーター、長袖ダウンインナー、モコモコのフリースジャケット、そして最後に中綿入りゴアテックスジャケット。
このまま山の中で一晩眠っても、凍死することはなさそうだ。
二見川展望地に到着したけれど、空が曇っているのでその眺めもパッとしない。
それでも、朝日が昇ってくる時間まで待って、かろうじて朝焼けの空を見ることはできた。
淡い光が射し込む森の中をテントへと戻る。
今度こそ違うルートを歩こうと思っていたのに、またまた自分達の足跡に遭遇する。
アカエゾマツとダケカンバ、雪のお饅頭、何処を歩いても同じような風景なので、いつの間にか同じルートに戻ってしまっているのだ。
食事を終えて荷物を片付ける頃には空はすっかり雲に覆われていた。
旭岳での初めてのキャンプでは、最初は少しだけ日が射したものの夜中から降り始めた雪が朝になっても降りやまず、雪の中での撤収。
2度目は、到着時からパッとしない天気で夜中には少し雪が積もり、それが翌朝には最高の青空が広がってきた。
そして今回は前回と逆のパターン。それでも、夕日に、月に、朝日も見られて思い残すことは無し。
旭岳でのキャンプもこれで最後になるかなと思いつつ、でも次は冬でも凍らないカモ沼のほとりにテントを張るのも楽しいかなと考えながら、スキーゲレンデをテクテクと下り降りた。
温泉でゆっくりと暖まろうと思ったら、10時から入浴できるはずの湯元湧駒荘は改装工事のため閉鎖中。
しょうがないので東川町の「森のゆホテル花神楽」まで行って汗を流す。
すっきりとしたところで、帰り道の昼食は美瑛町マイルドセブンの丘の麓にある「ランドカフェ」で。
キャンプの行きも帰りもカフェでお食事なんて、我が家も随分進化?したものである。
美瑛から見えるはずの大雪の山並みは、完全に雲に隠れてしまって、その気配さえも感じない。
それでも、充実したキャンプの余韻に浸りながら、満ち足りた気分でハンドルを握っていた。
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