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一瞬の微笑みニセコキャンプ

ニセコ野営場(9月5日〜6日)

 土曜日が曇り、日曜日が曇り時々晴れの天気予報。
 今回のキャンプだけはどうしても晴れて欲しくて、北の方ほど天気が良いとの予報も出ていたので、いざとなったら行き先の変更も考えていた。
 しかし、直前の予報では全道何処へ行っても同じようなパッとしない天気なので、駄目で元々と、最初の計画通りニセコへ向かうこととする。
 去年の9月に開通したばかりの、赤井川村からドロームキャンプ場の前を通って倶知安に抜ける国道393を走ると、我が家から1時間ちょっとで倶知安市街地に着いてしまう。
 追い越し禁止区間でイライラすることもなく、これまでの国道5号稲穂峠経由のルートより30分以上は短縮できそうだ。
麦風店内 そのために、昼頃にニセコに着いて、何処かで蕎麦を食べてからキャンプ場へ向かうつもりが、随分と時間に余裕ができてしまう。
 そこで、手元にあった「なまら蝦夷7号」を頼りに、ニセコのショップめぐりをすることにした。
 まずはかみさんの希望で倶知安市街地のパン屋「パン工房麦風」へ。
 まだ開店前だったけれど、気持ち良く店内に招き入れてもらった。
 「明日の朝はサンドイッチにしましょう」と食パンも購入。
 昼を食べる予定の蕎麦屋をチェックしながらヒラフの前を通り過ぎ、「チーズも買いたいわね」と言うので東山の「ニセコフロマージュ」まで行ったが、中に入りづらそうな店だったので、そこはパス。
ハム・ソーセージeffeff(エフエフ) 「サンドイッチに挟むハムも買わなくちゃ」
 なまら蝦夷には情報が載っていなかったので、確かアンヌプリスキー場の方に何かあったはずだとそちらへ向かう。
 そこで「ハム・ソーセージeffeff(エフエフ)」を見つけて、ハムとウィンナーを購入。
 昼になり、ヒラフまで戻るのも面倒なのでその付近で店を探す。
 以前に一度入ったことのある「楽一」で蕎麦を食べようと思ったら、かみさんがあまり乗り気で無さそうだ。
 結構美味しい店だったのに、かみさんはその気取りすぎたような雰囲気が好きじゃないのかもしれない。
 道路際の「cafe grove」の小さな看板を見て、「ここ良いんじゃない」とかみさん。
 「カフェかよ〜」と思いながらも、素直にその意見にしたがう。
 そこでは、日替わりのランチプレートを注文。野菜をたっぷりと使った手の込んだ料理で、かみさんも満足そうである。
 ニセコチーズ工房に寄ってカマンベールチーズを買い、昆布温泉で甘露水を汲んで、今日の宿泊地ニセコ野営場へと向かった。
 ニセコには他にも、魅力的なショップや食事処が沢山増えていて、しばらく足を運んでいない間に随分賑やかになったものだと感心してしまう。


cafe grove   ニセコチーズ工房
 

 ニセコ野営場に泊まるのは実に16年ぶりになる。
 そこにテントを張っていたときの様子が、翌年の北海道キャンピングガイドの道央地区の表紙に使われたのは、良い思い出となっている。
 その時とサイトの様子は大きくは変わっていないけれど、炊事場やトイレの施設は随分と立派になっていた。
 土地を削ってそれらの施設を造成したため、サイトと駐車場の間にはかなりの高低差が生じている。それから更に2段目、3段目と、それぞれ階段でつながってサイトがニセコアンヌプリの山麓へと続いている。
我が家のサイト 我が家は今回はシンプルキャンプ装備なので、一般キャンパーが絶対にテントを張る気にはなれないだろう一番山側のサイトを、迷わずに選択した。
 1段目と2段目サイトは、間に段差があるだけで、ほぼ一体のサイトといえるけれど、山側サイトは一際大きな高低差があって、しかも周りを樹木で囲まれているので、ほぼプライベートサイトとも呼べるような区画になっている
 そんな区画が四つあって、その中ではイワオヌプリが真正面に見える一番端のサイトが、我が家から見たベストサイトである。
 しかし、同じことを考える人間はいるもので、ただ一組の先客キャンパーはしっかりとそこのサイトでイワオヌプリに向かってテントを張っていたのである。
 しょうがないので我が家は、そこから一区画、間をおいたサイトにテントを設営。
 一つの区画はかなりの広さだけれど、余程混雑しない限り、先客のテントがあれば他のキャンパーは遠慮するような雰囲気がある。
イワオヌプリを望むサイト そんな広々としたサイトの中で、私達夫婦は思いっきり離れた場所にそれぞれのテントを設営。
 知らない人がこの様子を見たとしたら、赤の他人が別々にテントを張っているとしか思わないだろう。
 中央に置かれた頑丈そうな野外卓は、何処の区画も同じように、テーブルや椅子としては機能しないほどに大きく傾いていて、荷物置き場にしか使えない。
 他のキャンプ場でもたまに見かける状況だけれど、据付時の工事がいい加減だったのだろう。でも、この場所の冬季間の積雪を考えれば、余程しっかりとした基礎工事をしないと、直ぐにこんなことになってしまうのかもしれない。
 ニセコアンヌプリの姿は、山に近すぎるのでサイトからは直接眺められない。
 確か下のサイトからは見えたはずだけれど、今日は雲に隠れて確認できない。正面に見えるイワオヌプリも、どんよりとした灰色の雲に今にも隠れてしまいそうだ。
 遠くには青空も見えているのに、ニセコ連峰のこの付近だけに雲がかかっているようである。

鏡沼への道 一息ついてから、鏡沼トレッキングへと出かける。
 車で、対向車とすれ違うのがやっとのような幅の狭い道を、ワイススキー場方向にしばらく下っていくと、道路際に車1〜2台を停められそうな空き地があり、そこの正面が鏡沼への入り口となっている。
 車を停める場所はあると聞いていたけれど、まさかこんなところだとは思っていなかった。
 運悪く先客の車が車が1台、ちょうどそこに入ったばかりで、しかも道路と平行に車を停めているのでそれ以上は車を置けない。
 しょうがないので、少し戻ったところに同じような空き地があったのでそちらに車を停めた。
 このような場所では、少しでも多くの車が停められるように、車の置き方にも配慮しなければならない。
 入り口で入林届けを書いていると、また同じような車が一台やって来て「ここだ、ここだ!」と言っている。
 ニセコの中ではあまり知られていなくて、静かに楽しむことができると本に書いてあったけれど、結構賑やかである。
 入り口から鏡沼までは徒歩30分程度。
 シラカバの森の中を抜けていく。
 所々で、気の早いオオカメノキやヤマブドウが、葉を赤く染めていた。
途中の小さな沢 道はアップダウンを繰り返し、途中で小さな沢を渡る。
 その水に手を入れるとびっくりするほど冷たかった。
 この源流は多分、アンヌプリからの湧き水なのだろう。
 森を抜けると突然、広々とした場所に出てきた。
 豊似湖のような、森に囲まれた湖かと思っていたら、どうやら回りは湿原になっているようである。
 木道が真っ直ぐ沼に向かって伸びていた。
 シダ類は緑が抜けて黄色く染まり、地表を覆うミズゴケも黄色から赤へと変わりつつあり、秋の湿原の風景が広がっている。
 そしてそのミズゴケの上では、まるで宝石を散りばめた様にツルコケモモが赤い実を付けていた。
 そんな秋枯れの風景の中、所々で真っ白な花を咲かせているウメバチソウが一際清楚に見えてしまう。
 ホロムイリンドウの青い花も、貴重な彩りの一つだ。
 木道の上を歩いて、沼の周りを半周できる。
 反対側に回ると、真後ろに聳えるニセコアンヌプリが鏡沼の湖面にその姿を映していた。
秋枯れの湿原 多分これが、この沼の名前の由来なのだろう。
 残念ながら上空には青空も見えているのに、アンヌプリの山頂付近は灰色の雲に隠れてしまっている。
 湖面ではあちらこちらで大小の波紋が広がっていた。
 アメンボウかと思ったが水面にその姿は見られない。
 注意してみると、水面下にヤゴのような生き物が泳いでいるのが見えた。
 そして水上ではギンヤンマだろうか、大きなトンボが飛び交っている。
 湖畔の草の上には、それと比べるととてもか細くて美しいイトトンボもとまっている。
 迫りくる冬の前、小さな沼では生き物達の最後の饗宴が繰り広げられているようである。
 その饗宴にもう少しお付き合いしていたかったけれど、次に大事な予定が控えているので、そろそろキャンプ場に戻ることにする。
 最後に鏡沼を振り返ったとき、その湖面に映り込んだ真っ青な空とそこに浮かぶ真っ白な積乱雲の光景に目を奪われた。
 しかし、この積乱雲、天気が崩れる前兆でなければ良いのだけれど。


ツルコケモモの赤い実   鏡沼に映るアンヌプリ

鏡沼と積乱雲

テントの増えたキャンプ場 再びキャンプ場に戻ってきても、灰色の雲が相変わらず低く垂れ込めたままだった。
 いつの間にかキャンパーの数も増えていた。楽しそうな子供達の喚声、夏のファミリー向けキャンプ場の雰囲気である。
 一番奥にテントを張ったのは大正解だった。
 さて、これからの時間こそが、今回のキャンプ最大の目的としていたところである。
 今日は満月。その満月が登ってくる時間と太陽が沈む時間が今日はほぼ同じなのである。
 その様子をニセコアンヌプリの山頂から同時に楽しもうと言うのが、私の考えた計画だった。
 週末に合わせてこんなチャンスが巡ってくるのは、シーズン中に一度あるか無いかだ
 山の上に1泊できれば良いのだけれど、そのような場所も思い浮かばず、そうなるとキャンプ場から簡単に登れて、暗くなってからでも安全に下山できるところとなると、場所はここしか無かった。
 平地のキャンプ場ならば、他にサロマ湖のキムアネップ岬とか雄武町の日の出岬あたりだけれど、今回は天気が悪そうなので最終的にニセコ野営場に決まったのである。
雨が・・・ ここまできたら、多少の曇り空など関係ない。頂上に着いた瞬間、一気に霧が晴れて素晴らしい展望が広がった、何て話を山登りのブログ記事などで良く見かけるし、自分にも山の女神が微笑んでくれるかもしれない。
 そんなことを考えながら準備を終えて、「さあ!」っと立ち上がった瞬間、何か冷たいものが顔に当たるのを感じたのである。
 「ま、まさか・・・」
 ポツリポツリと落ちてきた雨は、直ぐに、外にはいられないくらいの強さに変わってくる。
 テントの中に逃げ込んだが、メッシュの窓を通しても雨が入ってくるので、出入り口を完全に閉めて、小さなテントの中で二人で呆然とするしかない。
 曇り空だけで萎えかけていた気持ちが、この雨で完全に萎んでしまった。
 しばらくして雨は止んだものの、これから登り始めても日没の時間までに頂上に達することは不可能である。
 気持ちを切り替えて、キャンプ場に隣接する山の家の温泉に入りに行くことにした。

風呂上がりのビールは最高 風呂から上がり、サイトに戻ってきて飲んだビールの美味さが、計画が中止になってしまったショックを癒してくれる。
 温泉が隣接するキャンプ場はやっぱり良いものである。
 アンヌプリの山頂で食べるはずだったおにぎりと息子の弁当のおかずの残り。
 何処で食べても味に変わりは無いけれど、これをキャンプ場で食べているととても空しく感じるのは否めない。
 食後は、新得共働学舎で今年の夏に購入したラクレットを肴にワインを飲む。
 しかしこのラクレット、フライパンで溶かすと強烈な臭いがしてくる。
 以前にもラクレットを食べたことはあるけれど、これ程臭くはなかったはずだ。
 しかも途中で再び雨が降り出したものだから、そのままテントの中に運び込むしかなかった。
 密閉されたテントの中でのラクレットを溶かす。テントに染み付いた臭いはしばらく取れそうにもない。

 今日の計画は中止になったけれど、数年前から考えていたことがもう一つあった。
 ニセコアンヌプリの山頂から、朝日を眺めることである。
ワインで晩酌 このまま何もせずに札幌に帰るのは悔しいし、天気は今日よりも明日の方が良くなるはずだ。
 急遽、新しい計画を実行に移すことにする。
 今時期の朝日は5時頃には昇ってくる。
 夜中の3時に起きれば、朝日が昇ってくる頃には山頂に立てるだろう。
 霧が次第に濃くなり、サイトを覆ってきた。
 明日に備えて午後8時には眠りにつく。

 最初に目を覚ましたのは午前1時頃だった。
 隣りの林の中からポツポツと水滴の落ちる音が聞こえてくる。霧雨でも降っているのかもしれない。
 その音に混じって、ぼそぼそと男女の話し声も聞こえる。こんな時間まで起きているのが信じられない。
 誰かが「静かにしてください!」と怒っていた。
 本人達がいくら静かにしゃべっているつもりでも、しんと静まったキャンプ場では、周囲のテントの中ではかなり大きな音で響いてくるのである。
 16年前にここに泊まったとき、隣りのテントの男性二人連れが明け方近くまでぼそぼそと語り続け、その声でかみさんはほとんど眠ることができず、かなり腹を立てていたことがある。
 翌朝、かみさんに聞いてみると、午後11時頃に「ここは登山者も多くて朝早くから山に登る人もいるのだから、静かにしてください」と注意する男性の声で目を覚まさせられたと、やっぱり腹を立てていた。
 登山者と一般のキャンパーが同居するこのようなキャンプ場では、トラブルも起きやすいのである。

 かみさんの「月が出ているわよ」との声で目を覚ました。時計を見ると午前3時半である。慌てて飛び起きてテントの外に出てみると、既にその月は雲に隠れてしまっていた。
 「さっきまでは星も見えてたのに」
 一晩中ポツポツと雫のたれる音が聞こえていたので、霧雨は止みそうにないなと油断して寝ていたのが朝寝坊の原因である。
 直ぐに準備をして出かけようとすると、暗闇の中で二つの目がキラリと光っているのが見えた。下へ降りる階段の真ん中には、食い散らかされたゴミ袋の残骸が。
 受付時に、たちの悪いキツネが住み着いていると注意されているはずなのに、相変わらず無防備なキャンパーがいるようだ。
 登山口の入林届けに記入する。出発時刻は3時55分。頂上までは90分ほどなので、朝日が昇る瞬間は見られないかもしれない。
 ヘッドランプの灯りを頼りに登山道を歩き始める。
一瞬姿を見せた満月 大きな石がゴロゴロと折り重なったような道を、足元だけを照らしながら歩くのは難しい。時々、先の方まで照らして歩くルートを確認しなければ、途中で行き詰ってしまう。
 気温はそれほど高くなくても、湿度が高いので、汗が噴き出てくる。
 何も食べずに登りだしたものだから、直ぐにスタミナが切れてくる。
ウィダーinゼリーエネルギーインを一つ持ってきただけで、他に簡単にエネルギーを補給できる食べ物は何も用意していない。
 90分くらいで登れる山だからと甘く考えていたことを反省する。
 尾根の上に出てくると強風が吹きつけてきて、あっと言う間に体温が奪われ、慌てて雨具を着込んだ。
 上空の雲の切れ間から満月が顔を出したのに気が付き、カメラを取り出す。
 その間にも次の雲が直ぐにかかってきて、ギリギリのタイミングでその姿を撮影することができた。
 結局、私が月の姿を見られたのはこの一瞬だけであった
明るくなってきた ヘッドランプの灯りも必要ないくらいに周囲が明るくなってきた。
 周りを取り囲んでいた雲が風に吹き飛ばされ、斜面の向こうに下界の様子が僅かに見えている。
 そして、山の陰の方で空が赤く染まってきているのも確認できる。
 頂上まではまだ少しあるけれど、疲れた体に鞭打って、再び霧に覆われて真っ白になった風景の中を登り続けた。
 そしてようやく霧の中をアンヌプリの山頂に到着。
 先に登ったかみさんが「太陽が見えるわ!早く早く!」と叫んでるのを聞いて、慌てて私も山頂に駆け上がった。
 下から次々と湧き上がってくる雲が薄くなった瞬間、その向こうに赤くぼんやりと光る太陽の姿を確認できた。
 直ぐにまた雲に隠される太陽。
 その間に山頂の東端まで歩いて、雲が晴れるのを待っていると、ついに完全な姿の太陽が下界に広がる雲海の上に姿を現したのである。
 山の女神が私達に微笑んでくれたのだ。
 しかしそれは一瞬の微笑だった。また直ぐに雲に飲み込まれて、その後はいくら待っても二度と姿を現すことはなかった。


山頂到着   太陽の姿が!

山の女神の一瞬の微笑み

避難小屋の中で朝食 風が強いので山頂の非難小屋の中に逃げ込み、そこでコーヒーを入れて朝食にする。
 この小屋がなければ、とても朝食など食べている余裕は無かっただろう。
 ちょっとした霧と強風でこれなのだから、暴風と雨に晒されたトムラウシ山では、テントを張ったりザックの中から衣服を取り出すことさえ困難だったのかもしれない。
 山の厳しさをちょっとだけ思い知らされた。

 雲が晴れる気配もないので、そのまま下山開始。
 登る途中には気付くこともなかった登山道沿いの植物を楽しみながら、ゆっくりと下りていく。
 途中で大勢の登山者グループとすれ違う。
 随分早い時間から登ってくるんだなと驚いたけれど、相手の方も、こんな時間に下りてくる私達を見てもっと驚いていたようだ。


花の写真を撮りながら   霧の中を下山

 7時30分に登山口到着。
 当初の計画では、今日はコックリ湖まで歩くことになっていたけれど、これ以上歩く気にもなれずに、このまま札幌まで帰ることにする。
 テントが乾くことも無さそうなので、水をふき取っただけで撤収を始め、早々とキャンプ場を後にした。
 倶知安の町外れから最後にニセコアンヌプリを振り返ったとき、その山頂付近は相変わらず雲に隠されたままであった。
 それにしても今年我が家が力を入れていたキャンプは、天売・焼尻、礼文島、そして今回のニセコと、ことごとく天気には恵まれなかった。
 しかもそれは、私達が出かけていた場所だけに限られるようである。
 まあ、こんな年もたまにはあるだろうけれど、来年以降のリベンジに忙しくなりそうである。

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アンヌプリにだけ雲がかかっていた



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