6月7月の礼文行きフェリーは朝の時間帯は大混雑するみたいだけれど、昼にかかるこの便は空いているので、2等船室でもゆったりと寛ぐことができる。
12時45分に礼文島に到着。
低く垂れ込めた灰色の雲のため、海岸沿いの集落の様子しか見ることができない。
名物の桃岩荘YHのお出迎えも少人数で、以前の元気の良さが無くなってしまった気がする
何となく寂しさを感じながらフェリーから降りてターミナルの中に入っていくと、その中は小さなザックを背負った人達で結構な賑わいだった。
「何だこれ〜、おじさんとおばさんばっかりだ!」と私が驚いていると、かみさんから「あなたもその仲間の一人でしょ!」と釘を刺される。
昔の礼文島は、旅をする若者達が訪れる島のようなイメージだったけれど、現在は完全に中高年パワーに席巻されている雰囲気だ。
これでは、桃岩荘YHの若者達がいくら頑張っても、影が薄くなるのは如何ともしがたいだろう。
ターミナル2階の食堂(武ちゃん寿司)は、順番待ちのお客さんで大混雑だったので、周辺で適当な店を探して入ることにする。
そうして入ったのが「樽っ子」の看板が出ている店。
ドアを開けた途端、そこはどう見てもスナックの店内。そのままUターンして外に出たい気分だったけれど、覚悟を決めてカウンターに座る。
メニューを見ると釜飯が美味しそうだったけれど、初日から贅沢はしてられないので、1100円の海鮮カレーで我慢することにした。
礼文島に到着早々、スナックのカウンターでカレーを食べる図は何か奇妙だったが、この先しばらくは、まともな食事を食べられなくなるので、しっかりと腹ごしらえをする。
今日の宿泊地は、島の北部の久種湖畔キャンプ場。そこへ向かうバスは15時10分発なので、時間を持て余してしまった。
後で考えれば、もっと有効に時間を使う行程があったものの、何せ重たいザックを背負ったままでは移動できないとのイメージが強かったので、大人しくバスを待つことにしたのである。
礼文島のバスは何処でも乗り降りできるので、地元の人が手を挙げてバスを停めては乗ってきて、「○○で下ろしてちょうだい」と、運転手さんとやり取りしている。
私が、「病院前」の車内アナウンスを聞いて停車ボタンを押すと、運転手さんが「次で降りるの?」と聞いてきた。
「はい、キャンプ場に行くので」と答えると、「それじゃあキャンプ場の前で停めてあげるよ」
万事がこんな調子である。
停めてもらった場所とバス停は、100m程しか離れていなかった。
キャンプ場にはソロテントが数張りと、オートキャンパーらしき車、それにバンガロー利用者の先客もいたが、いたって静かな佇まいである。
湖から吹き付ける強い風と、鉛色の空。
「陰鬱な佇まい」と言い替えた方が、この場に似合っているかもしれない。
風を避けるように、湖畔の草地の陰にテントを設営する。
その直ぐ横には、板張りの個別サイトがあるものの、どう見ても今日はそこを利用するキャンパーも居なさそうなので、巨大なテーブルとして使わせてもらうことにした。
設営が終わったところで、礼文島到着を祝ってビールで乾杯。
フェリーターミナルで買ってきたビールは、バスに乗っている間にぬるまっていた。寒い屋外で飲む冷たくないビールは、全然美味しくなかった。
それにしても、礼文島にやってきた実感が全然湧いてこないのは何故だろう。
中高年で混雑するフェリーターミナル、スナックで食べるカレー、路線バスに揺られ、町営アパートが丸見えのテントサイト、そして暗い空。
これで礼文島を実感しろと言うのは、確かに無理かも知れない。
礼文島らしき風景に、まだ一度も触れていないのである。
湖畔の遊歩道を歩いてみることにした。
急な階段を登って行くと、眼下に久種湖の全景が見渡せるようになる。
強風が作り出す波紋が湖面全体に広がり、とても寒々とした風景である。
これが、静かな湖面に真っ青な空が映しこまれていれば、全然違った風景に見えるのだろう。
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