やがてビッグタープの中にも朝の光が射してきて、その光を浴びた人たちは皆穏やかな表情へと変わってくる。
太陽の光がこれほどありがたく感じられるのは、今時期のキャンプならではだ。 今日はこの後、ガンネルズとの対抗水上大運動会が行なわれる。
天気が一番心配されたけれど、時々雲が広がって雨がぱらつく程度で、まずまずの運動会日和になってホッとした。
いくらドライスーツで身を固めているとは言っても、寒々とした中で水の中に入るのでは戦う前から気持ちも萎えてしまうのである。
運動会が終わった後は暖かなうどんが振舞われるのだけれど、かみさんは2年連続でそのうどん係を引き受けている。
本人は、運動会に出さされるよりも、こちらの方が好みみたいだ。
そうして水上大運動会が始まった。
例年の運動会はクラブのメンバーを紅白に分けての対抗戦。それが今年はガンネルズとのクラブ対抗戦ということもあり、気合の入り方が何時もとは違っている感じだ。
最初の競技はカヌー綱引き。2艇のカナディアンカヌーにそれぞれ5人が乗り込み、それをロープで繋いでお互いに漕ぎ合う。
私は進んで水の中に入り、そのロープを真ん中で保持する係りを引き受けた。
メンバーを変えて2回戦を行なった結果、1勝1敗の引き分け。そこで各クラブでもう一度メンバーを選出して決勝戦を行なうことになった。
これまでの経験から言っても、このカヌー綱引きが一番体力を消耗する競技である。決勝戦には、まだ一度も漕いでない私が出るのが順当なのだけれど、ロープ保持係のポジションについたまま身を潜めていると、上手いことそのメンバーから逃れることができた。
例年、運動会の後は酷い筋肉痛に見舞われるのだけれど、これで今年は大丈夫かもしれない。歳をとると、クラブの名誉よりも自分の体のほうが大切になってくるのである。
決勝戦はガンネルズの勝ち。ウィルダネスチームは最後は水没してしまう有様だった。これはどう見てもメンバー選出の失敗である。パワーを重視したあまり、カヌーの積載量を越えるような重量級メンバーになってしまったのだ。
2回戦はしゃもじリレー。OC-1を、両手に持ったしゃもじで漕ぎながらリレーをするというもの。
今回はしゃもじの代わりに、焚き火用にG藤さんが持ってきていた端材を使うことにする。
ほのぼのとしたレースなので私もエントリーしたけれど、これが結構ハードだった。
なかなかカヌーが真直ぐ進んでくれないので、変に力が入ってしまうのだ。
翌日は結局筋肉痛になったけれど、その原因はこの競技にあったみたいだ。
カヌーを漕いだ後とは全然違う場所の筋肉が痛くなっていたのである。
次の競技はカヌーポロ。これは純粋なスポーツ競技だけれど、幼児用ビニールプールをゴール代わりに使っているのが何ともほのぼのとしている。
これまでのウィルダネスの運動会でも、一番ヒートアップするのがこのカヌーポロで、I山さんのように親子の絆を断ち切ってしまうような人まで出てくるのである。
この種目では小回りが利いて瞬間的にスピードの出せるカヤックが有利なので、そこにベテランを揃えているウィルダネスチームのほうが断然有利だった。
ところがガンネルズチームのカヤッカーL君は、この次に行なわれるカヌー騎馬戦とこの純粋スポーツ競技を完全に混同している様で、ボールそっちのけでウィルダネスチームの舟に忍び寄ってはそれをひっくり返して回っている。そんなL君の悪行の数々にも係わらず、前半戦は1対0。
後半戦は選手を入れ換え、私はOC-2でゴールキーパー役として出場。キーパーならボールを追いかける必要も無く、おまけにウィルダネスチームが殆ど攻めっぱなしなので、全く疲れることなく競技を終了。
そして次はいよいよカヌー騎馬戦。ガンネルズは何故かこの競技に異常に執着しているようで、臨戦態勢万全と言った様子で待ち構えている。
争いごとの嫌いな私は、できることなら騎馬戦をパスしたかったけれど、カナディアンの方が有利だからと言われて、無理やり出場させられてしまった。
カヤックやOC-1は結構あっさりとひっくり返るけれど、大きなカナディアンは安定していて、ちょっとやそっとでは沈しない。そのカナディアン同士が組み合うと、そのままの状態で延々と揉み合い続けることになる。
「あ〜あ、また始まっちゃった、早くタイムアップで終わらないかな〜」と思いながら揉み合っていると、そこへとうとうガンネルズの最終兵器が投入されたのだ。
人間爆弾である。
発達した低気圧が近づき大荒れになった日本海をカヤックで奥尻島まで渡り、島のバス停で寝ているところを警察官に逮捕されそうになり、昨日の夜は酔っ払ってシュラフ一つで屋外でそのまま寝ていたと言うなまIさんが、人間爆弾として私の乗っているカナディアンの中に打ち込まれてきたのである。
その恐ろしさに絶えられず、私はあっさりと舟を捨てて逃走することにした。
ウィルダネスチームは最後に1艇だけ、カヤックのN野さんが残ってしまった。先月のヌビナイ川で7針縫う怪我を負って、その傷もまだ完治していないN野さんを皆で追い掛け回し、最後はいたぶりながら水中に沈めてしまったガンネルズ。
これはウィルダネスの完敗かと思ったら、人間爆弾攻撃が反則と判定されて、反則勝ちを拾う結果となった。
来年は自分が人間爆弾になって復讐しようと思っていたのに、これは残念な判定である。
最後の種目は沈・再乗艇レース。6人乗りのカナディアンで沖まで出て一旦沈、その後ひっくり返ったカヌーを起こして3人が再び乗り込み戻ってくると言う内容。
今度こそ観戦に回ろうと思っていたら、再乗艇メンバーの一人に選ばれてしまった。
そしてスタート。6人も乗っているものだから、折り返し地点へ辿りつく前に沈没してしまいそうである。
何とか折り返し地点を回ったところで沈。底に足の付かない湖で沈するのは、こんなゲームの時でも嫌なものである。
数人がかりでカヌーを起こす。この時にいかにカヌーの中に水が入らないようにするかが重要である。力を合わせて思いっきり跳ね上げるように起こしたので、元に戻ったカヌーに殆ど水は入っていない。
そこに大急ぎで乗り込み、3人揃ったところで隣のチームの様子を見てみたら・・・。
カヌーを起こしたところで半分以上水が入ってしまい、そこに再乗艇したらますます水が入り込み、ガンネルまで水没した状態で水に浮かんでいるのが精一杯という状態である。
それを見て、急ぐ必要も無くのんびりとゴールイン。レース後、カナディアンに取り付けてある浮力体の大きさが違うせいだとクレームが付いたが、これは完全にカヌーを起こすときのテクニックの差である。
こうして全種目が終了。
後は競技中に女性陣が作ってくれていた暖かいうどんに一斉に群がる。大鍋に作られたカレー味、味噌キムチ味、ノーマルしょうゆ味のうどんがあっと言う間に食べ尽くされた。
その後仲良く運動会の景品を分け合って、楽しかった納会も終了。
綱引きは上手くパスしたけれど、やっぱり今年の運動会も終わった後は疲労困憊である。それでも、童心に帰って思いっきり楽しんだ水上運動会。年に一度はこんなのもなかなか良いものである。
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