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真夏の落合カヌーキャンプ

おち庵(8月12日〜13日)

 ここ数年、夏休みシーズンのキャンプは、本州方面から北海道に上陸して来るカヌーイストの人達と一緒に過ごすパターンが多くなっていた。
 今年もそんなキャンプを、私と同じカヌークラブのサダ吉さんが企画してくれた。
 私の場合、このようなグループでのキャンプや川下りの企画・調整と言った役柄が大の苦手である。一方サダ吉さんは昔からこんな役回りを積極的にやってくれて、私は何時も言われたとおりに行動すれば良いだけで、本当に楽させてもらっているのだ。
 今回は12(日)〜13日(月)の日程で、南富良野町落合のシーソラプチ川ほとりに建つ手打ちそば処「おち庵」の庭先を借りてキャンプすることとなった。
 それは良いのだけれど、果たして自分がそれに参加できるかどうか、そちらの方が大問題である。
 今年は早めに長期休みを取ってしまったので、お盆時期は他の人の予定を優先して、自分はその間隙を縫って休みを取るしかない。出張があったり次週はカヌークラブの例会があったり、その中で実家にも帰らなければならないし、今年から町内会の役員をやらされているのでその関係もあるしと、キャンプの調整はサダ吉さんがやってくれても、こればかりは自分で調整するしかない。
 一時はこの夏のキャンプを半ば諦めかけていたけれど、何とか休みも思ったように取れたので、まずは清水町の実家に帰って親孝行をしておいて一旦札幌に戻り、息子とフウマを家に置いて翌日また落合へ出かけると言った調整をやっとすることができたのである。

 清水町から帰ってきたその日の札幌は気温が34度まで上がり、信じられないような蒸し暑さになっていた。
 今年の札幌は、本州の梅雨と全く同じような蒸し暑くてジメジメした日々が続いていたけれど、これもまた本州の梅雨明けと同じように強烈な暑さが一気にやってきたみたいだ。
 翌朝は、気温が上がる前にと早朝からカヌーやキャンプ道具を車に積み込んだが、着ていたTシャツに早くも汗がにじんでくる。更に気温は上がり続け、家の中でじっとしていても額に汗が浮かんでくるようになってきた。
 「私、暑いのってホント嫌いなのよね〜」イライラした様子でかみさんが言い捨てた。
 夏のキャンプ場で良く見かける風景。暑い中で汗を噴出させながらテントを設営中、その横でハイになってはしゃぎまわる子供達、こめかみに青筋を浮き上がらせながら怒鳴りつけるお母さん。
 これから楽しいキャンプへ出かけるというのに、かみさんはそのお母さんと同じような表情になってしまっていた。
 昼頃に家を出る予定だったけれど、その暑さに耐えかねて、エアコンの入る車の中に逃げ込み、予定よりも早めに札幌を出ることにした。
 涼しい車の中で頭の中も冷静になったところで忘れ物の確認をする。
 「カヌーの道具は大丈夫か?パドル、ライジャケ、ヘルメットにシューズ。それからマットとかシュラフとか。」
 思いつくものを次々と上げていく。「長袖の服は?」
 「あっ、何も持ってきてない!」
 まだ高速道路に乗る前だったので、直ぐにUターンした。この暑さでそんな長袖の服のことは頭の中から消し飛んでいたみたいだけれど、いくら暑くてもここは北海道である。特に落合の夜の冷え込みを甘く見てはダメなのである。

おち庵の庭先 そうして午後3時頃、キャンプ地の「おち庵」に到着した。
 ちょうどサダ吉さんが何時ものビッグタープを立て始めているところだった。
 それを手伝った後は自分達のテントを隅の方に設営する。
 今回は小さなテントを2張り持って来たけれどどちらも2人用サイズ、そのうちの一つは大きな前室スペース付きなので、設営にも少し手間がかかるようなテントだ。
 今回は寝るときだけしかテントを使わないし、このような時のために、コンパクトなソロテントをもう一つ揃えておいた方が良さそうだ。
 ここも気温は高かったけれど、札幌のような耐えられない暑さではない。
 タープの下で寛いでいると、次々と今日のキャンプメンバーがやって来た。
 サダ吉さん・きらerさん夫婦以外では、カヌークラブガンネルズのkudopapa。
 ここおち庵のプライベートサイトは、元々ガンネルズが何時も利用している場所でもある。kudopapaは夏休みを利用して数日前からおち庵に泊り込み、庵主のSさんとここのホームページの打合せなどをしているところだ。
 そば処として営業を始めたのは今年からなので、kudopapaがそのホームページを作ってあげているらしい。
 他にガンネルズからは、今年めでたく職場(カヌークラブ)内結婚したばかりのりゅうげんさん・いくえちゃん夫婦。娘の朱里ちゃんにバウの座を奪われかけているmikinnさんとしげさんのファミリー。そして現役帯広畜大生のleo君。
 その他に、「大人の外遊び」のkenjiさん・kenjiの姫さん夫婦がシーソラプチ川に無謀な挑戦をすべく、満を持しての参加。
 道外からは「KeviKevi・LU☆CRE」のKevipaさん・ミエさん夫婦と3匹のワンちゃん、そしてそのお友達のS藤さん夫婦。

我が家のテント  

  しげさんとkenjiさん、Kevipaさんのところは、前日の然別湖キャンプで一緒になっている。Kevipaさんとサダ吉さんのところは前日に一緒に歴舟川を河口まで下っているし、我が家とkenjiさんのところは昨日樹海ロードですれ違っていた。
 S藤さん夫婦は今日の早朝に苫小牧に到着し千歳川を下った後は富良野に寄って、今日の夜遅くにおち庵まで来ることになっている。
 それぞれがそれぞれの夏休みを過ごし、所々ですれ違ったり一緒になったりしながら、そしてこの「おち庵」の庭先で全員が一緒になる。夏休みならではのキャンプ風景と言った感じで、他の人たちの夏休みの楽しさまで分けてもらえるような気がして、とてもハッピーな気分にひたれるのだ。

ケビン 道内組みが全員揃った後、Kevipaさん夫婦が到着。3匹の犬達、ケビン・ルーク・クレアとも1年ぶりの再会である。
 レトリバーのケビンは老犬になってしまって、足元が少しふらついている様にも見える。
 もしかしたら今年が最後の北海道になるかもしれないとの話しだ。
 我が家のフウマも連れて来てやりたかったけれど、川下りの予定もあってこの猛暑の中で車の中においておくわけにもいかず、今回は札幌で留守番させることにしたのだ。
 まあそれは表向きの理由で、今回のようなグループキャンプには恥ずかしくて連れて来られないと言うのが本当の理由だったりする。
 今までもグループキャンプの時など、何か食べている人を見つけるとすかさずその側に駆け寄って必死の形相でその人を見つめ続けるのである。
 「フウマちゃんのその目で見つめられると弱いのよね〜。」と言われながら、時々食べ物を分け与えられていたのだけれど、最近は必死どころか鬼気迫る形相に変わってきているのだ。
見つめるフウマ 見つめるだけでなく、空きあらば奪ってしまおうとも考えている。実家に行っている間も食卓テーブルが低いものだから、一瞬の隙を付いて鮭の切り身やおにぎり、肉などを次々とテーブルの上から持ち去ってしまった。
 怒鳴りつけようとしても、両親が庇って「フウマちゃんはお腹が空いているんだからしょうがないよね〜。それじゃあ代わりにこの煎餅を食べなさい。」とか言って、また食べさせるものだからどうしようもない。
 もっとも、怒鳴りつけたところで、食べたもの勝ちと考えているフウマには全く意味が無いかもしれない。
 家に居るときも、かみさんが夕食の支度をしている間中、その足元で上を見上げながら何かが落ちてくるのをじっと待ち続け、私がビールを飲んでいるときも、そのつまみを狙ってミニテーブル越しに私を見つめ続けているのだ。
 そんなフウマを美味しそうなご馳走が飛び交うこんなキャンプへ連れてきたら一体どんなことになるのか。それを想像すると、絶対に連れては来られないのである。

談笑中 庵主Sさんが薪を燃やしてくれる。
 この暑さでは焚き火もできないだろうと思っていたけれど、日が沈むと同時に気温も一気に下がってきて、焚き火の炎が頼もしく感じられるくらいだ。
 kudopapaが本格的なラーメンを作ってくれた。限定どんぶり5杯分、それぞれ味が違うので皆の間を回しながら一口ずつ食べさせてもらう。
 このラーメンがどれも最高に美味しかった。ガンネルズのグルメキャンプの様子はそのホームページで良く見ていたけれど、今夜はその片鱗を味わえたような気がする。
 カヌー談義に花を咲かせながら楽しくお酒を飲んでいると、しげさんがいつの間にかイスに座ったまま寝てしまっていた。
 これもガンネルズのホームページの写真でよく見る風景だ。
 初めて目にするしげさんの生寝姿である。ガンネルズキャンプではこの後、顔に落書きされたりするようだが、今回はさすがにそれは免れたみたいだ。
 何故か突然ギターの話題になり、ミエさんが持ってきていたギターをkudopapaが借りて弾きはじめた。
ギター演奏 kudopapaは昔ブルーグラスのバンドをやっていたらしく、久しぶりにギターを手にしたと言う割には、その腕は鈍っていないようだ。
 今日集まっているメンバーは所謂フォーク世代の年齢の人が多く、kudopapaが歌うフォークソングは皆にとっても懐かしい曲ばかりだ。
 生まれた年の話になり、私の隣に座ってそれを聞いていたミエさんが突然、「それじゃあこの中ではヒデさんが一番年上なのね」と話しかけてきた。
 「うげっ!」
 何時も自分の年齢のことは頭の中から消し飛んでいるのだけれど、時々こうした現実を目の前に突きつけられてガッカリしてしまうのである。
 夜も更けて、一人また一人とテントの中に入り始めた頃、ようやくS藤さん夫婦が到着した。
 我が家のキャンプとしては珍しく、そのまま12時過ぎまで飲み続けて、テントに潜り込む。

 しかしこれからが問題だった。
 テントを設営した後にかみさんからこっそりと知らされていたのだけれど、何とシュラフを忘れてきたと言うのだ。これまでも色々な忘れ物をしたことがあるけれど、さすがにシュラフを忘れたのは初めてだった。
 出発時に気になったものだから、わざわざシュラフのことを口に出して確認したのに、それでも気が付かなかったのである。
 最初にそのことを聞いたときは「今日なら別にシュラフなんか無くても関係ないだろう」と軽く考えていたのだけれど、落合の夜は冷え込みも厳しく周りの芝生は夜露でぐっしょりと濡れている。つい先ほどまでは焚き火の温もりが頼もしく感じられ、途中で忘れたことに気が付いて家に取りに戻った長袖のシャツを、今はしっかりと着込んでいるような状況である。
 テントの中にあるのはバスタオル1枚。上半身を覆うだけの大きさしかないけれど、酔っ払っているものだからそれに包まっているうちに直ぐに眠りについてしまった。
 しかし明け方近くになって寒さで目が覚めた。遅くまで起きていたのでまだ強烈に眠たいのだけれど、その寒さで寝ていられない。上半身はバスタオル1枚のおかげで十分に温かいのだが、何も被せるものが無い下半身が寒くてしょうがない。
 そのうちにおち庵の庭先で放し飼いされている鶏達がけたたましく時の声を上げ始めたので、それ以上寝るのは諦めて早々と起き出すことにする。
 隣のテントに寝ていたかみさんも起きてきた。かみさんも寒かっただろうと思ったら、かみさんはテントの中に敷いていた銀マットに包まって寝ていたそうである。
 「そうか!その手が有ったんだ!」
 「山で遭難した時の訓練だと思えば良いのよ」
 どこまでも脳天気なかみさんである。

朝の風景 ひんやりとした山の空気が心地良い。
 と言いたいところだけれど、その空気が冷え切った体に染み入ってくる。
 ようやく太陽の光が射し込んできたので、日の当たる場所にイスを移動して体全身に太陽の光を受けると、ようやく人心地つくことができた。
 それぞれが朝食を済ませ、今日の川下り開始予定の10時までのんびりと時間を過ごす。
 つい先程まではあんなに頼もしく感じていた太陽が、次第に鬱陶しい存在に変わってきていた。
 今日もまた暑くなりそうである。
 道路沿いに立てられている「おち庵」の看板を見たのか、時々一般の車が入ってくる。その度に私達がジロジロと見るものだから、怪しげな一団に恐れをなしたかのように、直ぐにそこから出て行ってしまう。
 完全な営業妨害集団である。

 今日はシーソラプチ川のダウンリバーの途中で一旦上陸し、おち庵で蕎麦を食べさせてもらって、その後国体コースまで下る予定になっていた。
 そして皆で川下りに出かけ、一般のお客さんがいなくなりそうな午後1時頃に合わせて再びおち庵まで戻ってきた。
おち庵で昼食 店の方は繁盛しているようで、まだ数台の車が店先に停まっている。 しばらく待っていると、このおち庵には全く似合わないような小奇麗な格好の人達が店から出てきた。
 ここではそんな人間が異質なものに見えてしまうけれど、彼らから見れば、川を下っているそのままの格好で庭先にたむろしている私達の方が余程異質な存在に見えているのだろう。
 全てのお客さんが帰ったところで、ようやく私達が蕎麦にありつける番である。
 さすがに庵主Sさんの打つ蕎麦は美味しかった。そしてその後に出してくれたトロリとした蕎麦湯も絶品である。
 すっかり満足して、その後の川下りが億劫になってきたけれど、車を全て下流に置いてあるので無理してでも下り続けなければならない。
 そうしてシーソラプチ川や空知川の清流でたっぷりと遊んでおち庵に戻ってきた時は、既に午後5時近くになってしまっていた。
 ここにもう1泊して明日のフェリーで群馬に帰るKevipaさん・ミエさん夫婦、これから北海道を回るS藤さん夫婦に最後の分かれの挨拶をして、札幌までの道程を急いだ。
 こうして楽しい夏のカヌーキャンプは今年も終わってしまい、明日からはまた普通の生活に戻らなければならないのだった。




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