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オオバナノエンレイソウを訪ねて

カムイコタン公園キャンプ場(5月19日〜20日)

 広尾キャンプ場の周辺では、時期になるとオオバナノエンレイソウが群落を作って咲いているとの話しを聞いた事があり、機会があれば是非訪れてみようと以前から考えていた。
 それに加えて、同じ広尾町に太四郎の森と言う個人で整備している森があって、そこのオオバナノエンレイソウも素晴らしいとの情報を新たに知ることとなり、これはいよいよ考えているだけでなくて行動に移さなくてはと思い立ったのである。
 雪解け直後に林床で花を咲かせる、スプリングエフェメラルとも呼ばれる春の野の花が私は大好きで、これまでもカタクリやエゾエンゴサクなどの咲き乱れる風景を求めて道内各地に足を伸ばしていた。
 ところが、それらの花が終わった後に咲き始めるオオバナノエンレイソウについては、数株がひっそりと咲いている姿は見たことがあるものの、群落を作って咲いている光景にはこれまで一度もお目にかかったことが無かったので、とても今回のキャンプを楽しみにしていた。
 それなので、週末が雨の予報になっていても何時ものように気分が落ち込むことも無い。かえって、雨の方が花もしっとりと落ち着いて見えるだろうと、好ましく思えるほどだった。

花咲き乱れる判官館 そうして曇り空の札幌を出発。
 雨の方が良いとは良いながら、行く先に低く垂れ込める暗い雲を見ていると、気持ちはなかなか盛り上がってこない。
 それが、最初の目的地である判官館森林公園に到着してそこの風景を見た瞬間、気分だけは一気に晴れ上がった。
 この公園内にあるキャンプ場にはカタクリの咲く時期に泊まったことがあり、その時の美しさに感動して季節限定のベストワンキャンプ場としてホームページで紹介したこともある。
 公園内の車道を登っていくと、周りの木々の下でオオバナノエンレイソウが花を咲かせている様子が早速目に入ってきた。
 まずはキャンプ場周辺から見ることにして、駐車場に車を停めて野鳥達の賑やかなさえずりを聞きながらバンガロー横の坂道を登っていく。
そして坂を登りつめ、そこに広がるキャンプ場の風景を目にした瞬間、今回のキャンプでこの後何度も発することになる「おーっ!」と言う感動の第一声を発したのである。
 オオバナノエンレイソウとニリンソウがびっしりと花を咲かせ、サイトの周りが白一色に染まっているのだ。
 こんなに美しく花に囲まれたテントサイトと言うものを私は他で見たことが無い。ここにテントを張れば極上のキャンプを楽しめるのは確実だ。
オオバナノエンレイソウ しかし残念ながらこのキャンプ場は今回の目的地では無くて、ついでに立ち寄っただけの場所なのである。
 ここ数日続いた雨に打たれてオオバナノエンレイソウの花は少し痛んでいたが、それが気になるのは花のクローズアップ写真を撮ろうとする時くらいだ。
 カタクリもたまに咲いてはいるが、ほとんどが既に散ってしまっていた。
 カタクリが咲いている時も素晴らしい風景だったけれど、オオバナノエンレイソウの花のほうが大きくて目立つので、その群生する様子は圧倒的でもある。
 そんな花の風景を楽しみながら園内をぐるりと一回りして、後ろ髪を引かれるような思いでキャンプ場を後にし、日高路を更に襟裳方面に向かって車を走らせた。

 浦河町でちょうど昼になったので、国道沿いの和食海鮮処金水と言う食堂に入った。
 浦河町での昼食ならば、久しぶりにサフランドールのオムライスを食べたかったけれど、かみさんが「夜はカレーだから昼は和食の方が良い」というので、あらかじめネットで調べてこの店に狙いを付けていたのだ。
 ネットの情報が無ければ、とても通りすがりで入ってみようと言う気にはなれないような店の外観である。戸を開けて中に入ると、いきなり鮮魚が並べられた陳列ケースが目に入ってビックリしてしまう。入り口を間違えたのかと焦ってしまったけれど、店の人が2階ですよと言ってくれたので、その横に階段があることに気が付いた。
 そう言えばここは魚屋が経営する食堂なのである。陳列ケースの中の魚やつぶ貝は如何にも新鮮そうなので、店の選択に間違いは無かったようだと安心する。
 ネットの情報によると、この店ではうに丼や海鮮丼の評判が良いみたいだけれど、私達はお勧めメニューとして壁に書いてあったカレイの煮付け定食とつぶ刺し定食を注文。これが結構美味しかった。
 満足して店を出ようとしたとき、別の客が注文した海鮮丼が運ばれてきたのを目撃。丼から半分はみ出すように盛り付けられた刺し身に視線が釘付けとなり、次にくるときはこれを注文しようと心に決めたのである。
 店に入る時にポツポツと降り始めた雨は、出る頃にはいよいよ本降りとなって道路を濡らしていた。

カシワの老樹 次の目的地は様似町の観音山。オオバナノエンレイソウについてネットで検索している時に、偶然知ったスプリングエフェメラルの咲くスポットである。
 市街地の直ぐ裏に聳える標高101mの小高い山が観音山である。
 看板が有るわけでもな、地図を頼りに山の周りをぐるりと回っていると、ようやく山の上へ通じていそうな道を見つけた。
 その入り口付近の林の中にオオバナノエンレイソウが咲いていたけれど、登っていく途中では花の姿も見られない。もしかしたらここは外れかも知れないと心配になってくる。
 しかし、坂を上りきったところに如何にも由緒のありそうなカシワの老樹が枝を広げているのを見て、巨木好きの私としてはちょっと嬉しくなった。
 そしてそのカシワの老樹が、花の世界へ通じる門の代わりをしていたのである。
 雨に霞んだ新緑の森とその林床を白く染めるように咲いているオオバナノエンレイソウ、幽玄郷とはこんな場所なのかと思えてしまう。
雨に濡れるシラネアオイ 「おーっ!」と、この日2回めの感動の叫びを上げた。
 傘を差して長靴に履き替えて、その中を見て歩く。
 判官館では見られなかったシラネアオイの淡い青紫色の花が、所々でアクセントのように咲いている。これも私の好きな花なので喜び勇んでカメラを向けるけれど、雨に打たれてどの花もうつむいてしまっているのが残念だ。
 一方オオバナノエンレイソウの方は、雨に濡れながらも、そのおかげで余計に生き生きとして見える。判官館の花が少し痛み始めていたことから考えると、こちらの方が開花時期がやや遅いのかもしれない。
 その他にもまだつぼみの状態のオオアマドコロが沢山生えていたりと、面積こそ小さいものの、観音山の方が植生が豊かなようだ。
 そこには展望台もあり、親子岩や様似港が一望できる。天気が良ければ素晴らしい展望を楽しめそうなところである
 港の外海に突き出しているエンルム岬にも頂上まで遊歩道が続いているようであり、そこからの展望も素晴らしそうだ。
 様似町には高山植物が豊富なアポイ岳もあり、一度じっくりと時間をかけて訪れてみたい町である。

 様似を出て次に向かうのは広尾町野塚。襟裳岬には寄らずに、えりも町市街からそのまま国道を走って十勝へと入る。途中から雨も上がり、海岸沿いの黄金道路を走っていると沖の方の空が明るくなってきているのが分かる。もっとも、今日の雨雲は山側から流れてくるので、海のほうが明るくても何の気休めにもならない。
 実は数日前の北海道新聞に、「広尾町野塚にある日本一のオオバナノエンレイソウの群落がちょうど花の見頃を迎えている」との記事が写真入で大きく掲載されてしまっていた。
広尾キャンプ場場内 これでは観光客がドッと押しかけてきそうで、静かに花を楽しもうと考えていた私には非常に迷惑な記事だったのである。
 今回のキャンプはこの群生地に隣接する広尾キャンプ場を予定していた。正式なオープンは6月からになっているけれど、近くに開いているトイレさえ見つかればキャンプするのは可能である。
 国道から広尾キャンプ場の看板に従って道を曲がると、その付近の林の中はもうオオバナノエンレイソウの大群落となっていて、一面に白い花が咲き乱れている。
 さすがに3ヶ所目となると、そんな風景にも見慣れてきたので叫び声を上げることも無く、まずはキャンプの必須条件である開いているトイレを探すことにした。
 その群落のある林の奥のほうがキャンプ場となっているので、まずはそちらに向かってみたが当然そこのトイレは閉まったままだ。
 キャンプ場に隣接して水族館もあるのだけれど、ここは入園者数の低迷から2年前に閉鎖されてしまい、その近くの公衆トイレも扉が堅く閉ざされていた。
 そこからやや離れたところに大きな建物があるが、そこも現在は使われていないようで、周辺一体は廃墟の様相を呈している。
 オオバナノエンレイソウを見に来ているような人の姿も無く、暗い空も相まって、独特の寂しさが漂っていた。もっとも、こんな寂しい雰囲気を私は嫌いではない。開いているトイレさえあれば、喜んでテントを張るところだ。
 その大きな建物の近くにもトイレがあり、薄汚れた汲み取り式トイレだけれど、一応は使えるようになっていたが、キャンプ場から歩いてくるには少し遠すぎる。
 ここでのキャンプは素直に諦め、花だけを楽しんでから別のキャンプ場へ移動することにした。

 車をキャンプ場の中に停めてそこから林内を歩く。何処までがテントサイトで何処からが群生地なのかはっきりと分からない。一応はロープで囲って通路部分を区分しているけれど、その通路には車でそのまま入って行くこともできてしまう。
 せせこましい都会で暮らしているとこんなことが奇異に感じてしまうけれど、こんな大雑把な管理方法で何の問題も起こらないところが地方の良いところでもある。
エゾオオサクラソウとオオバナノエンレイソウ ここではオオバナノエンレイソウの白に混じって、紫色のエゾオオサクラソウが群落を作っていて、その色の対比の美しさに「おーっ!」と、今日3度目の感嘆の声を上げた。
 所々にカタクリの群落もある。花が全て閉じてしまっているのでもう盛りは過ぎたのかと思ったけれど、太陽の光さえ浴びればまだ花は開くようである。(翌日、太四郎の森のオーナーに聞いた話)
 それにしても見渡す限りのオオバナノエンレイソウ群落であり、さすが日本一の群生地と言われるだけのことはある。
 今日一日で一生分以上のオオバナノエンレイソウを見たような気分だ。
 自分自身、道内の様々な場所へ出かけている方だと思っているけれど、それなのにこれまでオオバナノエンレイソウのこんな群落に出会えなかったことが不思議な気がする。今日のこれまでのことを思えば今時期ならば何処へ行ってもこんな風景が見られるものだと錯覚してしまいそうだが、もしかしたら道内に残された数少ない群生地をまとめて3ヶ所回ったのかもしれない。
 そしてごく短い花の時期、それに狙いを定めて出かけるようにしないと、簡単にはこんな風景にお目にかかることができないのだろう。

 オオバナノエンレイソウ群落の隣にテントを張りたかったな〜と、またしても後ろ髪を引かれる思いでキャンプ場を後にして、最後に向かったのは歴舟川のカムイコタン公園キャンプ場である。
 ここも今年からオープンが7月からと遅くなってしまったが、道路沿いにある公衆トイレが開いているので、何とかキャンプをすることは可能である。
 オープン前のキャンプ場なので先客がいるはずも無い。川原サイトへ降りる道には大きな枯れ枝が落ちていたりして、管理も全くなされていないようだ。
 今年のこのキャンプ場の開設期間は7、8月の2ヶ月のみ。これだけの素晴らしい環境と施設がありながら、もっともキャンプを楽しめる季節に閉鎖されたままと言うのは、とんでもなく無駄な話しである。
 こんなことをしていたら、キャンプ=夏のどんちゃん騒ぎと言う風潮がますます強まり、それに伴ってキャンパーの質も低下し、もしもキャンプ文化と言うものが存在するとしたらそれがほとんど崩壊してしまうかもしれない。そんなことまで考えてしまうのである。
我が家のサイト 今回は川原サイトの一番上流側にテントを張ってみた。
 GWの緑とロックの広場で強風で壊れてしまった我が家のソレアードだけれど、その後フレームを一式譲ってもらうことができて、今回見事に復活を遂げたのである。
 しかし、その新しいフレームでテントを設営している最中に、かみさんが「随分このテントも色褪せたわね〜」とポツリとつぶやいた。
 確かに言われてみれば、青い色がかなりくすんできている。でも、フレーム一式を譲ってくれた方のご好意に応えるためにも、まだまだこれからもソレアードには現役で活躍してもらわないと困るのである。
 テントを張り終えてしばらくすると、ポツポツと雨が落ちてきて、それは直ぐに本格的な降りに変わった。
 歴舟川は笹にごりでやや増水気味だ。対岸の山肌は淡い新緑に彩られ、桜の花も咲いている。
 テントの中で雨を避けながらそんな風景を楽しむ。
 ここでもサイトの横でオオバナノエンレイソウやカタクリが花を咲かせていた。この付近の森は、笹さえ刈っていれば、何処でもこんな春の草花が花を咲かせるようになるのかもしれない。
 夕食は家から持ってきたカレーで簡単に済ませ、その後はチーズフォンデューを作り雨音と川のせせらぎをBGMにワインで乾杯。
 明日が晴れることを願いながら眠りに付いた。

 夜中に何度か目が覚めるが、テントを叩く雨音はずーっと続いていた。
 野鳥の賑やかなさえずりで朝を向かえる。それでもまだ雨音は止まない。
 「これでは早起きしてもしょうがないな〜」と、シュラフの中でまどろんでいたら、かみさんが先にしびれを切らして起きだした。少しは雨も小降りになったようなので、私も起きることにする。
朝の焚き火は欠かせない テントの中で朝のコーヒーを飲んでいると雨もようやくあがり、するとかみさんが「川原で焚き火をしましょう」と言い出した。
 雨が続いていたので現地で乾いた薪を手に入れるのは無理だろうと考え、車の中には家から持ってきた薪が大量に積んである。少しはこの薪を消費しないと、いたずらに車の燃費を悪くするだけである。
 ようやく何時もの我が家らしいキャンプの時間が戻ってきた感じだ。
 フウマは最近、焚き火の爆ぜる音に異常に怯えるようになり、すっかり焚き火嫌いになってしまった。それでも、私達が何か食べるのを見逃さないようにと、テントの横からじっと監視しているのが何とも可笑しい。
 今日は10時に太四郎の森を見せてもらうことで予約してあるので、それまでにテントを乾かすことができそうだ。
 その間に、かみさんの希望によりヌビナイ川を見に行くことにした。
 雨に濡れてますますその美しさを増した新緑の風景を楽しみながら上流部へと車を走らせる。
 ヌビナイ川に架かるけいせき橋までやって来て、その橋の上からの風景を見た瞬間、思わず今日最初の「お〜っ!」の声を上げてしまった。
 何時来てもこの橋の上から見るヌビナイ川の美しさに感動するのだけれど、今回の新緑と桜の花に彩られたその風景はこれまで見た中でも最高の美しさである。
 途中の崖の上から見た河畔のカラマツ林の新緑も目に眩しい。やや増水気味なのに、水の透明度も何時もと変わらない。
 来年は絶対にこの時期のヌビナイ川をカヌーで下ろうと心に決めて、今日はとりあえずキャンプ場へ戻ることにする。
 またポツポツと雨が落ちてきたので、大急ぎでテントを片付けて、キャンプ場を後にした。

けいせき橋からの眺め   新緑のヌビナイ川

 今日の目的地は、大樹町豊似にある太四郎の森である。15年以上前にその土地を買い取ったオーナーが、手入れをしながら管理している森で、カタクリやオオバナノエンレイソウが森の中一面に咲くことで近年評判になってきているところだ。
 今年のGWに両親を連れてここを訪れた時はエゾノリュウキンカが見頃だったけれど、その他はカタクリが少しとアズマイチゲが咲いている程度だった。太四郎の森に到着すると、オーナーは他のお客さんを案内しているところだったので、太四郎の森自慢の東屋で一休みさせてもらう。
太四郎の森 その東屋の前に展開するオオバナノエンレイソウとシラネアオイがまるで乱舞するかのように咲き乱れる風景に、本日2度目の「お〜っ!」の声が漏れてしまった。
 直ぐ下を湧き水が流れ、周りをエゾノリュウキンカに囲まれたこの東屋に座ると、ちょうど目線の高さに花が咲いている風景を楽しめる。。
 カタクリの花は下を向いて咲くので、その花をちょうど良い角度で見られるように計算して、この東屋の床面の高さを決めたとのこと。今はカタクリに代わって次の花が咲いているけれど、本当に目の前で花が楽しめると言った感じである。
 その後、オーナーに案内されて森の中を巡る。もう「お〜っ!」の連発である。昨日見て回った群生地も素晴らしかったけれど、やはり人の手が入っているところの方が見た目の美しさだけに限っては優れている。
 ただ、花を踏まないようにオーナーの後を一列になって歩かなければならず、こうして花を見るのは正直言って窮屈に感じてしまう。
 確かに写真写りは良いけれど、私はやっぱり、管理が行き届かなくても、自然のままに花が群生しているような風景の方が好きである。
 その後次々と見学者が訪れオーナーもその応対に忙しそうなので、お礼を言って早々に太四郎の森を後にした。

雪の残る日高山脈 次第に天候も回復してきて、空はまだ曇っているものの、遠くの雪を被った日高山脈の白い山並みが見渡せるようになってきた。その手前の新緑に色付き始めた山並みとのコントラストがとても美しい。
 昨日はそんな風景が存在する事さえ全く気が付かずに、暗い雲の下をひたすら走っていたのである。
 昨日も走った黄金道路を南下しながら、今回の旅最後の目的地である豊似湖へと向かう。
 北海道には秘湖と呼ばれる湖が5箇所ほどあるが、この豊似湖もその中に含まれている。他の秘湖には全て行った事があるけれど、ここだけはまだ未踏の地として残っていたのだ。
 なかなか寄りづらい場所にあるので訪れる機会が無かったけれど、ようやく今回その姿を見ることができそうだ。
 国道沿いに豊似湖まで9.2kmと書かれた小さな看板が立てられている。そこから山の中へ向かって走っていくと、直ぐに道路は細い砂利道へと変わる。
 途中で現れる「豊似湖まであと何キロ」と書かれた看板を見ながら、そろそろあれかなと心配になってきた。
 実は「北海道でキャンプ」と言うホームページに5月の連休にここを訪れた時の情報が載っていて、それによると豊似湖の2km手前で道路が通行止めになっていたと言うのだ。
 もしも通行止めがまだ解除されていなかったとしても、2kmくらいなら車道を歩いてでも豊似湖まで行こうとの覚悟はしていた。
 幸いなことに通行止めの柵に遮られることも無く、入り口の駐車場までやって来れた。札幌ナンバーと本州ナンバーの車が2台停まっている。
豊似湖への道で ここからなら、豊似湖までは僅か200m。2km歩くことを考えれば、その分ゆっくりと豊似湖を探勝することができる。
 途中の道路際もそうだったけれど、この付近一帯は岩だらけの地形である。そしてそれらの岩は全て、分厚い苔に覆われているのだ。
 まさに秘境といった雰囲気が漂っている。
 その苔に覆われた岩場の中に、エゾオオサクラソウがあちらこちらに群落を作って咲いている。昨日見たエゾオオサクラソウはオオバナノエンレイソウの群落の中での脇役でしかなかったけれど、今日は見事に主役の座を務めていた。
 一面の苔色の世界の中にそのピンクの花が一際鮮やかに映えて、その風景を自分一人で演出しているようである。
 観客の私達はその演出の見事さに、お決まりの「お〜っ!」の声を上げてしまう。
 緩やかな坂道を登り終えると、目の前に静かな佇まいの豊似湖が姿を現した。
 一周1kmの小さな湖である。そのまま反時計回りに湖を一周する。はっきりとした遊歩道が付けられているわけではなく、湖岸の岩場を歩く感じだ。
 人間は何とか歩けるけれど、短足犬のフウマは大変である。倒木の下をくぐったり岩を乗り越えたり、どうしようもなくなって湖の中を泳いだり。それでも必死になって付いてくるところが健気で可愛い。
道のない湖畔を歩く その付近の険しい岩場にもエゾオオサクラソウが花を咲かせていて、心を和ませてくれる。
 反対周りで歩いてきた、年配の3人連れとすれ違った。対岸の方は遊歩道が整備されていて歩きやすいとの話である。
 二人の男性から少し遅れて年配の女性がその後を追って必死に歩いていたけれど、フウマよりも大変そうで、無事に戻れるのかと心配になってしまう。
 湖の奥までくると、ようやくなだらかな地形の場所に出てきた。そこは枯れ川となっていて、雪解けの時期や大雨が降った時だけ水が流れるのだろう。
 豊似湖から外へ流れ出す川は無いので、湖の水位もかなり変化するようだ。その付近の岸辺の様子から、春先はもっと水位が高かったのだろうと想像できる。サンショウウオの卵が、まだ干からびていない状態で土の上に取り残されていた
 それに水の中から生えている様に見える樹木もあるので、夏になれば今以上に水位が下がるのだろう。
 周辺の美しい風景に、もう「お〜っ!」の声も出なくなり、代わりにため息が出るばかりだ。
 苔生した倒木、新緑に染まるまだ若々しい木々、林床で花を咲かせる一面のフッキソウ、人間の手が全く入らない自然の営みの様子がそのまま目の前に広がっている感じだ。
 倒木に腰掛けて昼食にする。フウマは大喜びだ。何せ、これだけを楽しみに必死になって険しい道のりを歩いてきたようなものなのである。
 フウマだけでなくブヨも大喜びで集まってきたので、慌てておにぎりを頬張ってそこから逃げ出した。
 その先の遊歩道は丸太階段を登って一旦尾根の上へと出る。高い場所から見下ろす豊似湖は見事なまでのコバルトブルーに染まっていた。
 そこからは観音岳までの登山道が続いていて、途中の沼見峠からは豊似湖の姿も見られるようである。そこまで登っていたら帰りが遅くなりそうなので、今回は湖一周だけで我慢することにした。
 紅葉の時期にも是非もう一度訪れてみたい湖である。

枯れ川の流れ込み付近   コバルトブルーの湖と新緑

 こんな山道を歩いた後のフウマは要注意だ。体中にダニが付いているのである。
 噛み付く場所を探しながら、フウマの長い毛の間をモゾモゾと這い回っている。一度噛み付いてしまうと取るのも大変なので、車に乗っている間にかみさんがフウマの体をチェックする。
 こうして今回の旅行中、軽く20匹以上はフウマの体に付いたダニを退治していただろう。
  豊似湖までの林道沿いには猿留川が流れているが、これがカヌーに乗る人間の目で見ると垂涎ものの川である。川の水は限りなく透明で、流れの激しいところでは水しぶきが宝石のようにキラキラと輝いて見える。
 その川にかかる橋の上で車を停めると、外へ出たかみさんが「お〜っ!」と叫ぶなり、そのまま川原まで駆け下りて行った。
 邪魔にならない場所に車を停めて、もう一度橋の上へ行ってみるとかみさんはもう裸足になって川の中に入っていた。本当に美しい流れである。
最後の記念撮影 途中でエゾシカにも出会った。車の窓からフウマがワンワンと吠えたものだから、シカ達はビックリして森の中へ逃げ込んでいく。
 シカ達には気の毒だったけれど、真っ白なお尻が四つ、ピョンピョンと跳ねながら森の奥へ消えていく様子がとても可笑しかった。
 空にはようやく、久しぶりに見るような青空が戻ってきた。
 真っ青な空と海を背景に、最後に黄金道路の駐車場で記念撮影。
 美しい風景をたっぷりと味わって、もうお腹一杯。とても1泊2日とは思えないほどの、中身の充実した今回のキャンプだった。

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