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至高の旭岳雪中キャンプ

旭岳山麓(3月9日〜10日)

 今年のキャンプ始めは久しぶりにオホーツクの流氷キャンプへ行ってみようと、去年の暮れ頃から考えていた。
 そのために、2月に入ってからは流氷の接岸状況と休みの予定と天気予報の三つを毎日のように見比べながら、流氷キャンプ決行日を何時にするか考え続けていたのに、肝心の流氷が全然接岸してくれない。
 2月の始め頃に一旦接岸したものの、その後はずっと陸から離れたままだ。強い北風が一度でも吹けば直ぐに接岸するはずと思っていたけれど、いつの間にかオホーツク海自体から流氷が殆ど消えてしまっていた。
 こうなると何時までも流氷キャンプに拘り続ける訳にもいかないので、次の候補地として考えたのが去年も初キャンプで泊まっている旭岳である。
 その話をかみさんに提案したところ、もともと流氷キャンプに乗り気でなかったものだから「私も同じこと考えていたの!」と直ぐに話はまとまってしまった。

ラーメン蝦夷の味噌ラーメン そうして仕事を休んだ金曜日の朝、曇り空の札幌を出発。天気予報は曇りのち晴れになっているので、そんな暗い空も気にならないくらい、今年の初キャンプに心は弾んでいた。
 高速道路で一気に北上するうちに天気予報どおりに青空が広がってきた。ETCの通勤割引が適用されるギリギリの距離になる深川インターで高速を降り、その後は一般道で東川町へ。
 ここで昼食の予定だったけれど、まだ11時前で早すぎるので道の駅に入ってみる。東川町の道の駅は本物の地場産品が沢山売られているので、見ているだけでも楽しいし、購買意欲もそそられる。お土産用にうどんや蜂蜜、キャンプで食べるために寄せ豆腐まで買ってしまった。
 道の駅を出る頃には11時を過ぎていたので、駐車場に車を停めたまま近くの蝦夷と言うラーメン屋に入った。
 ネットで調べると評判が良かったので目星を付けていたのだけれど、味噌もしょう油もかなりしょっぱめで、かみさんの評価は芳しくなかった。私としてはまずまずの味だと思う。
 その後は、大雪旭岳源水でペットボトルに水を汲み、一路旭岳温泉を目指す。

 今時期ならば、この付近まで来ると道路沿いのトドマツなどがその枝葉にたっぷりと雪を積もらせて、如何にも冬山らしい風景が広がっているはずなのに、数日前の気温が高くなった時に雨でも降ったのか、白い衣を脱がされた丸裸の木々が寒々と立っているだけである。
 昨日まで冬型の気圧配置になっていたので旭岳にもたっぷりと雪が積もっているはず、との私の予想は完全に外れてしまったみたいだ。
 おまけに山に近づくに従ってどんよりとした雲が広がり始め、旭岳の姿もその雲の中に隠れてしまっている。
ジャンボソリ それでもロープウェイ駅の駐車場まで来ると10cm以上のフワフワのパウダースノーが積もっていて、周りの木々もそれなりに白く雪化粧していた。
 ロープウェイ事務所に一晩駐車場に車を停める断りを入れて、いよいよソリに荷物を積み込み旭岳山麓の森の中へ出発である。 スキーコースの中をソリを引いて歩いていると、上から滑り降りてきたスキーヤーに「キャンプするんですか?」と声をかけられた。
 北海道では除雪用に使われるジャンボソリに荷物を積んでスキーコースを歩いている犬連れの夫婦を見れば、普通の人からは「こんなところで一体何をしているんだ?」と思われるはずのところを、すんなりと【キャンプ】と言われたのが嬉しくて「はい!キャンプするんです!」とにこやかに答えた。
 すると次の一言が「ホームページ見てますよ〜」だった。
 「あ・・・、やっぱり」と言った感じである。
 でも、その後にすれ違ったボーダーやスキーヤーも皆、笑顔で「こんにちは」と挨拶してくれる。旭岳まで遊びに来るような人は、私達夫婦のこんな馬鹿みたいな遊びを何の違和感も無く受け入れてくれる、広い心を持った人達ばかりなのかもしれない。
 最初の急な坂にさしかかる。今回はソリが良く滑るように底にワックスを塗ってきたのだけれど、この作戦は失敗だったようである。平らなところを引っ張る分には良いのだが、坂道を引っ張り上げる時にはソリが滑り落ちないように余計に力を入れなければならない。
ソリを引っ張ってひたすら登り続ける それも半端な力ではなく、夫婦二人がかりで全身の力をこめなければソリが上ってこないのだ。
 二人で必死に引っ張りながら「こんなことしている私達って馬鹿みたいよね!」と、周りの人間よりも自分達のほうが自分達の行動に呆れているような有様である。
 その坂を上り終えたところで一休み。呼吸を整えて再び登り始める。
 去年テントを張った付近までやってきたけれど、今年はもう少し上まで登って第一天女が原と呼ばれる場所まで行くつもりだった。
 そこを通り過ぎて更に登り続ける。すると目の前に、殆ど絶望的に思われるような急斜面が現れた。さすがにそこをソリを引いて登るのは不可能と思われたので、スキーコースにソリを残して森の中へ入ってみた。
 テントを張るのに良さそうな場所は有ったけれど、文句なしに決められるようなところでも無く、それにそこから見上げる斜面の上がどうしても気になってしまう。
 スキーコースに戻って、無理と思われるその斜面にチャレンジしてみることにした。すると案の定、斜面の途中でどうしてもそれ以上ソリを引き上げられなくなってしまった。
 そこで、山スキーで急斜面を登る時のように斜面に対してジグザグにソリを引っ張ることにする。
 そうしてやっとの思いで坂を登りきると、そこには平らな雪野原が広がっていた。どうやら第一天女が原へ到着したようである。駐車場を出てから、かれこれ1km程の道のりだった。

テント設営地を踏み固める そこから、誰の足跡もない森の中へと分け入る。新雪が20cm以上は積っているようだ。スノーシューでその中を歩くと、積った雪がそのまま全て舞い上がりそうなフワフワのパウダースノーである。
 これまでパウダースノーと言う言葉をしょっちゅう使ってきたけれど、この様な雪こそ本当にパウダースノーと言えるものなのだろう。
 アカエゾマツに囲まれた狭い場所を通り抜けると、そこにはちょうど良いスペースがあって、しかもその先が下り坂になっているので眺めも良い。直ぐにそこを今日のテント設営場所に決めて、スキーコースに残してきた荷物を取りに戻った。
 まずは設営場所を踏み固める作業にとりかかる。気温が低いので簡単には雪が固まらず、体重がかかるようにスノーシューで飛び跳ねながら何度も歩き回って、ようやく整地完了。
 家の庭木を剪定した時に出た枝を1m程の長さに切りそろえて持ってきたので、それをペグ代わりに使ってテントを設営。
 今回はかみさん用のテントも別に設営することにして、それを張り終えると、フウマが待ってましたとばかりにその中に入ってしまった。
 昔は立派なアウトドア犬だったのに、歳をとるに従ってすっかり軟弱犬になってしまって、テントの中で寝ている様子はまるで「もうこんなことには付き合ってられないわ!」と言った風情である。
 そうして今夜の寝場所が出来上がった。

サッサとテントの中に入ってしまったフウマ   寝床完成!

 相変わらず空は雲に覆われ、乾いた雪もサラサラと降り始める。去年の旭岳キャンプと全く同じ展開になっている。
 去年は一時だけだったけれど太陽も顔を覗かせ、その瞬間だけは素晴らしい光景が広がった。今日はそんな様子も全く無く、これでは去年より条件が悪いかもしれない。
 まあ、そんなことには慣れっこになっている私達夫婦なので、別に気落ちすることも無く森の中の散歩に出かける。
 森の中には巨大な雪饅頭がそこら中に出来ていた。根返りで倒れたアカエゾマツの根がその中に埋まっている。多分2年前の巨大な雪饅頭台風18号で倒れたものなのだろう。
 白い小さな丘のように見えて面白い風景なのだけれど、雪のない時期の様子を想像するとちょっと悲惨な状況かもしれない。

 散歩から戻ってくると、既にテントの上には薄らと雪が積っていた。喉が渇いたので1本だけ持ってきていたビールを飲む。
 スチール製のシェラカップにビールを注ぐと、その瞬間にビールのシャーベットが出来上がった。
 雪面をしっかりと踏み固めたつもりだったけれど、そこでイスに座ろうとするとその足が雪の中にズブズブとめり込んでひっくり返ってしまう。
 夕食のメニューは我が家の雪中キャンプ定番のキムチ鍋である。鍋の蓋を開けるとテントの中に真っ白な湯気がもうもうと立ちこめる。
 かみさんは別のテントで寝るから良いけれど、このテントで寝る自分としてはもう少し遠慮して湯気を出して欲しい気がした。
 でも、冬のキャンプでこうして狭いテントの中で飲み食いしていれば、どっちみちテントの中は結露が酷くなってしまうので、途中からは雑巾でテント内部の結露を何度も拭き取りながら過ごすことになるのだ。
 いつの間にかテントの外では雪が激しく降り始めていた。かみさんがテントの外に出て、その様子をデジカメで写してきたので、液晶画面で確認したら、去年も全く同じような写真が写っていた事を思い出して笑ってしまった。
 今回は白ワインを1本だけ持ってきたけれど、何処に入ったかも分からないうちにあっと言う間に空になってしまった。私はそれで十分だったけれど、かみさんは「寒い時はもっと重たいワインにしないと飲んだ気がしない」と息巻いている。
 飲み物が無くなってしまうと他にすることも無いので、8時にはそれぞれのテントに分かれて寝ることにする。
 フウマはどちらのテントで寝るのかと思っていたら、最初に入ったかみさんのテントが自分の今日の寝場所だと思っているらしく、サッサとそちらの方に移っていってしまった。
 雪もいつの間にか止んでいた。
 この様子ならば明日の朝は素晴らしい青空が広がっているかもしれない、と密かに期待しながらシュラフの中に潜りこんだ。

狭いテントの中で時を過ごす   外は大雪

 夜中に何度か目が覚め、その度に時計を見るけれど、なかなか時間が経たない。冬のキャンプでは、ひたすら朝が来るのが待ち遠しいのである。
 3時頃目覚めた時に温度計を見るとテント内の気温はマイナス8℃まで下がっていた。思わずぶるっと震えてシュラフの中に頭まで潜りこんだけれど、一度寒さを感じてしまうとなかなか眠れないものである。
夜明け前 昨日は8時に寝たのだから、睡眠時間としてはもう十分に取れている。日の長い時期ならその時間に起きても良いのだけれど、冬の今では起きたところでどうしようもない。
 4時過ぎにようやくウトウトすることが出来て、再び目覚めた時は5時になっていた。隣のテントからもゴソゴソと動く気配が感じられる。
 冬のキャンプではシュラフから抜け出すのに相当の覚悟が必要である。
 直ぐに上着を羽織っても、その上着がまたギンギンに冷えているのだ。テントのファスナーを開けると、白い氷がハラハラと落ちてくる。
 そしてまずガスストーブに火をつける。ノブが凍り付いているので、ペンチで挟んで無理やり回さなければならない。ボッと言う音と共に炎が上ると、心の底からホッとした。
 一足先にテントから出たかみさんが「月が出てるわよ!」と喜んでいる。
 期待通りの展開である。
 先週が満月だったので、本当はその時にキャンプをしたかった。でも、満月から5日過ぎた月でも十分に満足である。
 私も直ぐにテントから出てみると、夜明け前の群青色の空をバックに、形が歪になってしまった月がアカエゾマツの尖った木々のシルエットの上で冷たい光を放っていた。
 まずは温かいコーヒーを入れて体を暖めることにする。ペットボトルに入れてあった水は完全に凍り付いていたけれど、あらかじめ寝る前にパーコレーターに水を入れておいたので、どんなに凍っていてもそのままストーブに乗せれば溶けてしまう。
 体が少し温まったところで、周りを少し歩いていみる。昨日はその姿を見られなかった旭岳だが、今朝はその荒々しい姿を間近に仰ぎ見ることができる。
 その他にも、大雪山系の山並みがアカエゾマツの森のすき間を通して遠くに眺められる。
遠くに見える山頂を朝陽が照らしている かみさんが感嘆の声をあげているので、私もその場所まで登ってみると、その遠くの山の頂が朝日を浴びて白く輝いているのが見えた。
 もっと眺めの良い場所を探して移動していると、今度は別の山の尾根の部分が朝日で染まっている様子が見えてきた。
 しかし、どんなに歩き回っても、この近くではそれ以上眺めの良い場所は無さそうだ。
 そこでスキーコースをもう少し上まで登ったところ、眺めの良さそうな尾根筋が見えたので、深雪をラッセルしながらそこまで登ってみる。まるで冬山登山をしている雰囲気である。
 そこを登るに従って、大雪山系の山並みが次第に尾根の上に浮かび上がってくる。息を切らしながらその尾念の上に立った瞬間、思わず感嘆の叫びを上げてしまった。
 眼下に広がるアカエゾマツの森、そしてその先には真っ白な山並みが延々と連なって見えている。手前に見える山の更にその上に、朝日が当たった真っ白な頂を見せているのは、遥か遠くの十勝岳や忠別岳の姿だろうか?
 私達が居る場所にまで陽が当たるのはまだ時間がかかりそうだけれど、それらの山々は先ほど見たときよりも、更に朝日の当たっている範囲が山頂から麓の方へと広がってきていた。
 初めて出会う風景だった。
 登山者ならば、山の上で野営した時にはもっとダイナミックな朝の風景を楽しめるのだろうけれど、私にとってはこれでも十分に感動的な風景である。
 茫然とそこに立ち尽くしたまま朝の光が広がっていく様を見続けていると、眼下のアカエゾマツ林の先端にもようやく陽が当たり始めた。
 私達の場所からは太陽はまだ山陰に隠れているけれど、その横に幻日が見えているのにかみさんが気が付いた。
 自然が織りなす朝の風景にただひたすらに魅入られる。

素晴らしい光景に声も出ない   次第に麓まで朝の光が降りてくる

 山の朝の風景をたっぷりと満喫してテントまで戻る。途中で振り返ると、この天気も長くは続かないよと言わんばかりに、太陽の周りにはくっきりとした暈がかかっていた。
 そう言えば予報では、今日の夜から荒れ模様の天気になってくるはずである。
 テントまで戻ると、寒くて朝の散歩には付き合ってられないとテントの中で留守番をしていた軟弱犬フウマが、尻尾を振りながら飛びついてきた。
 長い時間、一匹で山の中に置き去りにされて、さすがに不安を感じていたのだろう。
 テントサイトにもようやく日が射してくる。
フウマのお出迎え 外に置いてあった私の腕時計PROTREK、マイナス10度までしか表示されないので、未だに測定不能のままだ。
 それでも朝食はテントの外に出て太陽の陽射しの下で食べることにする。狭いテントの中で食べるよりも気持ちが良いし、それに太陽の光に照らされていると、不思議と寒さを感じないのである。
 それに、強烈に辛いキムチ鍋の残りで作ったうどんを食べると、体の中も温まってくる。食べ終わる頃には時計の温度計も、ようやくマイナス9度を表示していた。
 テントの中を一通り片付けてから、フワフワの雪が新たに降り積もった森の中の散歩に出かける。
 真っ青な空の下で見る真っ白に雪化粧したアカエゾマツの森は本当に美しい。
 私の場合、正しい雪中キャンプと言うものはこんな風景の中でするものだと言った昔からの強い思い入れがあった。
 そうして雪中キャンプを始めるようになってから、少しずつ理想のスタイルを追い求めながら色々な場所へ出かけて、去年の4月に美瑛自然の村に泊まった時、ついに自分の理想としていた雪中キャンプを実現することができたのである。
 その時は究極の雪中キャンプと表現したけれど、今回のこのキャンプはそれを上回るような素晴らしさで、至高のキャンプと言っても良いだろう。
 同じような森の風景でも、人間の手の加えられた場所と自然のままの森の中とでは気分的にも全然違う。
 それにアカエゾマツの木々の間から仰ぎ見る旭岳の姿が、神々しいまでに美しい。場所によってはアカエゾマツの森の上に旭岳が聳えて見える。
 大きな雪饅頭があると意味も無くその上に登ってしまう。
 かみさんはフワフワの雪の上に倒れこんでスノーエンジェルを描いている。でも、出来上がったそれは、どう見てもエンジェルとは思えなかった。
 フウマも雪面に残されたアニマルトラックを見つけると、雪の中に鼻先を突っ込みラッセルしながらその跡を追いかけている。

素晴らしい風景   スノーエンジェル?

 それぞれが真っ白な冬の森の散歩を満喫してテントまで戻ってきた。名残惜しいけれど撤収の時間である。
 こびり付いた氷を叩き落しながらテントを撤収。ソリに荷物を積み込んでそこから出発する時は、住み慣れた我が家を去るような寂しさを感じてしまった。
 そこから駐車場までの道のりは、登ってくる時の苦労を考えるとあまりにも快適である。ソリを引っ張る必要はないし、坂道ではその上に乗って滑り降りることもできる。
 そうやって楽しく歩きながらも、駐車場までの距離がかなりあることを思い知って、そんなところをソリを引っ張って登ってきた自分達夫婦の行動に改めて呆れてしまうのであった。
湯元湯駒荘でゆったりと温泉に浸かり帰途へと付く。
至高の雪中キャンプで幕を開けた我が家のキャンプ、今年一年どんなドタバタキャンプを繰り広げることになるのだろう。

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名残惜しい撤収   帰りは楽ちん

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