栗と焚き火と洞爺湖キャンプ
仲洞爺キャンプ場(10月20日〜22日)
先週末のカヌークラブ支笏湖納会キャンプではうどん係に専念していたため、一度もカヌーに乗る機会が無かったかみさん。欲求不満のためか、今週末のキャンプは絶対にカヌーに乗れるところにしてねと強く要求されていた。
金曜日からの2泊キャンプの予定。しかし、週末は冬型の気圧配置になるみたいで、そうなると天気が良くなるのは道東か道南方面に限られてしまう。そこでカヌーが乗れるキャンプ場となると、洞爺湖か大沼くらいか・・・。
このどちらかですんなりと決まりそうなところだけれど、そのどちらにするかで出発日の朝まで悩んでしまった。
洞爺湖で2泊するというイメージが湧いてこないし、2泊するのならばやっぱり大沼まで行きたい。でも、今年は最後に道南のキャンプ場を回ってみたいと考えていたのに、今回大沼まで行ってしまえば、もう一度道南まで行く気はしない。天気が良いのは洞爺湖と大沼のどちらだろう。
どちらにも決めきれないまま当日の朝を迎え、前日に更新されたばかりのインターネット紅葉情報を見て、ようやく最終決断をすることができた。
大沼の紅葉はまだ色づき始めたばかり。洞爺湖は紅葉がちょうど見ごろになっていると言う。今年はまだ紅葉の風景を拝んでいないのに、紅葉の見頃の場所を通り過ぎて南下すると言うのも有りえない話である。同じ洞爺湖で場所を変えて2泊するのも面白そうだ。
こうして出発前に行き先を決めることができた。下手をすれば、車で走りながら空模様を見てどちらにするか考えると言う、情けない事態になっていたかもしれないのである。
洞爺湖まで行くのなら時間的余裕もあるので、途中で羊蹄山麓の半月湖に寄り道した。
前回ここに来たのは3月、スノーシューを履いて深い雪をかき分けながら苦労して湖までたどり着いたものである。
それが今回は、冬と違って近くの駐車場まで車で行けるので、そこから半月湖まで何の苦労も無くたどり着いてしまった。
今年初めて木々が色づいた森の中を散策し、紅葉に囲まれた半月湖の風景を満喫して、次は羊蹄山青少年野営場の入り口にある樹木園のカツラ並木を見に行くことにする。
その前に倶知安町まで戻り、「農家のそばや羊蹄山」で蕎麦を食べた。
やっぱり幌加内のほろほろ亭の蕎麦のほうが美味しいよな〜と言いながら、そこの蕎麦の味も満足できるものだった。
期待していた樹木園のカツラ並木の黄葉、残念ながら既に半分ほどの葉が散ってしまっていたものの、あたりにはカツラの甘い香りが漂い、しばらくそこで時間を過ごしたくなるような素敵な空間だった。
ついでにキャンプ場の様子も覗いてみる。
誰もいない場内、木々の葉はかなり散ってしまっていたものの、山頂に雲のかかった羊蹄山が間近に迫り、とっても良い雰囲気だ。
かみさんが、「ここでキャンプするのも良いかもね」とポツリ。
カヌーに乗れるキャンプ場と言ってたくせに、その変わり様には呆れてしまう。
ここで1泊してから洞爺湖へとの案も十分に考えられるが、今は比較的天気が良いけれど、これからの崩れが心配なので予定通り洞爺湖へ向かうことにする。
北よりの風が結構強く吹いている。
この風向きだと、湖の北側に位置する曙公園なら背後から風を受けることになるので良いかもしれない。
そう思ったものの、天気が良い時の曙公園からの風景は温か味があって魅力的だけれど、こんな日の曙公園は寒風が吹きぬける寒々とした風景が広がっていそうだ。
まずは仲洞爺キャンプ場まで行って、それから再度考えることにする。
湖畔道路沿いの樹木は所々で美しく色づいているけれど、全体としては紅葉最盛期にはまだ数日早そうな感じである。
湖は波が高く、所々で白波も立ち、まるで荒れた海の様相である。とてもカヌーどころの話しでは無さそうだ。
そうして仲洞爺キャンプ場に到着。
ここは9月30日でクローズしているので、当然キャンパーの姿も見られるわけがない。しかし、売店のシャッターは下りているものの、入り口にはリヤカーも置かれたままで、完全にクローズしているような様子でもない。
その入り口を通り過ぎて、我が家は車の進入が認められている第2サイトの方に回り、入り口のチェーンは外れたままだったので、そのまま中まで車で乗り入れた。
紅葉した木々と、落ち葉に覆われた林内、素晴らしい風景に思わず喚声を上げてしまった。
車から降りて場内を歩いていると、靴の底からブチブチとした感触が伝わってくる。地面を見ると、そこには落ち葉に混ざってドングリやトチの実が沢山転がっていた。栗の木もあるらしく、イガも沢山落ちていた。
湖岸に下りると、そこにはテントを張るのにちょうど良さそうな平坦な場所があった。
おまけにそこは南向きの湖岸なので、北からの風が遮られ、前に広がる湖面も凪のような状態になっている。暖かな陽射しも照り付け、まるで別世界である。
何時ものように初めての場所でサイト選びに迷うことも無く、直ぐにテントを張る場所が決定した。
車を近くまで移動してくると、そこは栗のイガだらけで、それを踏み潰す感触が運転席まで伝わってくる。栗のイガでタイヤがパンクすることは無いだろうけれど、あまり気持ちの良いものではない。
テントを張り終えると、直ぐに二人で栗拾いを始める。
既に誰かに拾われた後みたいだけれど、中身の入っているイガも沢山あって、あっと言う間に両手一杯、持ちきれないくらいの栗を拾うことができた。
栗を拾い終わった後、今度は一人でトチの実を集め始める。
栗は食べられるけれど、トチの実が食べられるかどうかは知らなかった。
でも、とっても大きな実で、何となく拾わずにいるのは勿体ないような気がして、意味も無く拾い集めているのである。
トチの実を拾い終わって、今度はドングリも・・・。
さすがの私も、そこまではやらなかった。実は以前も同じように、意味も無く大量のドングリを拾い集め家まで持って帰り、少しだけ工作に使って残ったドングリを家の周りに撒き散らしたことがあった。
すると翌年、そこらじゅうからドングリが芽を出してきて、ひどい目にあったことがあるのだ。その時に生き残ったドングリが、今では大きくなり過ぎて、毎年剪定するのに苦労しているのである。
場内を一回り歩いてみる。
落ち葉のたまった炊事場の蛇口をひねってみると、驚いたことに勢い良く水が流れ出してきた。もしかしたらと思ってトイレも覗いてみると、鍵は開いているし、水洗トイレの水も流れるではないか。
水は、来る途中で羊蹄山の湧き水をポリタンク一杯に汲んできて、トイレは隣接する「来夢人の家」のを借りようと考えていたので、これはラッキーだった。
一応ここでキャンプすることを「来夢人の家」に断っておくことにする。週末にトラクター展示会のイベントがあるので、それまで水落ししないで開けているとの話である。9月でキャンプ場はクローズしているけれど、どうしても泊まりたいというキャンパーは泊めているそうだ。
クローズ中でも、オープン期間と同じく一人400円の料金はしっかりと徴収されてしまった。まあ、この料金でこんな快適なキャンプ場を使わせてもらえるのだから、安いものである。
テントに戻って寛いでいると、隣にキャンパーが一組やってきたのには驚いてしまった。クローズ中のキャンプ場でしかも平日、他に誰も来るわけが無いと頭から信じ込んでいたのだ。
年齢不詳な男性2名と女性1名のキャンパー、彼らは林間に寝るためだけのテントを設営して、その他は全て湖岸にセットするというスタイルである。
気にしないようにしても、どうしてもその姿が視界に入ってしまう。我が家の場合、今時期のキャンプでは他に誰もいないという状況に慣れきっているので、他にキャンパーがいるだけで何となく落ち着かなくなってしまうのだ。
直ぐ後ろから川の音が響いてくるので、隣の話し声が聞こえてくるわけでもなく、敢えて気にしないようにした。
時折風が強まると、テントの後ろから栗が落ちる音が聞こえる。たまに様子を見に行くと、また結構な量の栗を収穫することができる。
子供の頃、私の住んでいた十勝の田舎には栗の木が殆んど無くて、栗を拾った経験も無い。だから、大人になってからこうして栗拾いができると、もう嬉しくてしょうがないのである。
暇さえあれば、テントの裏に行って栗拾いをしている有様だ。
木の実は沢山落ちているけれど、場内に枯れ枝等はあまり無かった、この辺が、春先のキャンプ場と秋のキャンプ場の大きな違いである。
春先なら、雪で折れた枝などが場内に大量に落ちているのに、ハイシーズンを過ぎた今時期は、殆んど全てが燃やし尽くされてしまい、細い枝さえも落ちていない。
そんな状況はあらかじめ予想できていたので、二日分の薪は家から持参してきていた。それに、僅かだけれど場内で拾えた枝等を加えれば、今夜の焚き火に不自由はしない。
小樽の鱗友朝市で仕入れてきたシャコを肴にビールを飲む。これからが旬のシャコは身が詰っていてとても美味しい。
今夜の夕食はダッチオーブンで作るキムチ鍋だ。かみさんに、「キムチ鍋なら、わざわざダッチオーブンでなくて普通の鍋で作れば?」と言ってみたけれど、考えてみれば何もしないで焚き火の上に吊るしておくだけで料理ができてしまうのがダッチオーブンの魅力である。
「ダッチオーブンの特性を生かした料理」何て堅苦しいことは考えずに、焚き火の横に常にダッチオーブンを吊るしておけば、お湯を沸かすのにさえ利用できちゃいそうだ。
夕陽が、テントサイトやそこから見える山肌を赤く染め染め始めた。
仲洞爺から見る今時期の夕陽は、ちょうど洞爺湖の中島の陰に沈む。夏の時期ならこの南向きの湖岸からでは夕陽を直接眺められないかもしれない。
闇が降りると、中島と有珠山の黒いシルエットの間に温泉街の明かりが光の帯となって浮かび上がった。
月明かりも無く、天の川の姿もくっきりと見える。しかし、場内の照明灯の光が湖岸部分にまで射しこんでくるので、星を眺める場所としてはあまりよろしくない。
次第に日中の強風も治まり、白波が立っていた湖面も温泉街の明かりがそこに映るくらいにまで穏やかになってきた。明日は中島までのカヌーツアーに出る予定なので、8時半にはテントの中に入って少し早めに寝ることにする。
ところが直ぐに、対岸の温泉街から大気を揺らすような花火の音が聞こえてきた。
「あれ?温泉街の花火って平日も打ち上げるんだったっけ?」
こんなに大きな音が聞こえては、大人しくテントの中で眠っているわけにもいかない。音の割には、遠くの温泉街の花火はとても小さくしか見えない。
実際にホテルに泊まってその花火を見たのは、もう何年前になるだろう?その頃を思い出しながら、「今のは○○ホテルの前かな〜。そろそろサンパレスの前まで来たからこれで最後かな」などと言いながら、小さな花火を楽しんでから眠りに付いた。
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今夜は冷え込みも強くなっていた。
「今何度くらいだろう?4度かな?」、「私は5度だと思う!」
何時もの私達夫婦の気温当てゲームである。その時の気温は4度で、私の勝ちだった。このゲームではお互いに1度の誤差くらいで気温を当てることができるので、殆んど人間温度計みたいだと我ながら感心してしまう。
今時期としたらこれでも暖かな方だろう。焚き火にあてっていても背中がジンジンと冷えてくるような感覚が無い。それでもやっぱり、自然と焚き火に近づいてしまうので、その熱で顔がヒリヒリしてきた。朝の時間も含めれば、1日10時間も焚き火の前で過ごしていることになるので、完全な焚き火焼けになりそうだ。
2mの薪もようやく二つに折れて、それぞれ焚き火台の中に納まる大きさにまでなった。そのまま焚き火台に乗せておけば朝までには灰になっていそうだけれど、それでは勿体ないので焚き火台から出して火を消しておくことにした。
途中で起こされないように、今夜は温泉街の花火が終わるのを待ってからテントに入る。
ビールとワインを飲みすぎたせいか、深夜1時頃に気分が悪くて目が覚めた。
「ちょっと外の空気を吸いに出たら。」と、かみさんが優しい言葉をかけてくれる。
でも実は、外に出たがっていたのはかみさんの方なのである。その理由は、今夜はオリオン座流星群が見られる日だったからだ。冬の星座であるオリオン座は、今時期は深夜にならないと空高く上ってこないので、流星群が見られるのも深夜になる。
先に目が覚めていたかみさんは、それで起きるかどうか迷っていたらしい。
トイレから戻ってくると、私の体調など全然気にもかけてくれないで「凄いわ!もう7つも見ちゃった。ほらっ、また流れた!凄い!流星痕まで残ってる!」と興奮していた。
私も空を見上げたが、既に流星痕は消えてしまっていた。ようやく頭もスッキリしたので、椅子を持ち出して本格的に流星観察の体勢に入る。しかし、いざ準備をするとなかなか流れてくれない。
かみさんは「あっ!また流れた!」と喜んでいるが、眼鏡をかけていると視野が狭いので、こんな時には絶対に不利なのである。
私たちの目の前を、何食わぬ顔でキツネが横切っていった。まさか明かりの消えた暗闇に人間がいるとは、思ってもいなかった様子だ。
ようやく私も1個だけ流れ星を見られたので、火が無くて寒いし、それで満足してテントに入ることにした。
朝目覚めると、昨日の朝と違って川の音しか聞こえてこない。外に出ると、今回のキャンプで初めて見る静かな洞爺湖の湖面が広がっていた。
かみさんが一人でカヌーで漕ぎ出していったので、私はその間に焚き火に火をつける。見ていると少しは真直ぐに進むようになったみたいだ。
今回のキャンプでかみさんがカヌーにこだわっていたのは、こうして一人でカヌーに乗ってみたかったからなのだろう。でも、この様子では独り立ちするにはまだまだ時間がかかりそうである。
一旦戻ってきたので、次は私が前に乗って二人で漕いでみた。
スターンに乗るのと比べたら目の前には殆んど何も無く、水面が有るだけ。カヌーがちょっと揺れただけでヒヤッとしてしまう。これで空知川の三段の瀬を下るなんて信じられない世界だ。
カナディアンのバウに乗るのはとっても怖いものだと思い知らされて、かみさんをちょっと尊敬してしまった。
湖岸の紅葉が本当に美しい。同じ湖岸でも場所によってはそれほど色づいていないところもあり、キャンプ場から見えるあたりの紅葉が一番美しいみたいだ。
中島を明るく照らしていた朝の光がようやく私達のところまで達してきた。
空には雲一つなく素晴らしい青空が広がっている。
キャンプ最終日にこんなに天気が良くなるなんて、全く皮肉な話である。
中島までのカヌーツアーに出かけるのにも最高の条件だったけれど、今日はコックリ湖探索の予定だったので、中島ツアーは諦めることにした。
ダッチオーブンのローストチキンの残りに水を加え、余っていたキャベツなどを全てその中に入れて、再び焚き火の上に吊るす。
昨日燃え残った2mの薪の残骸も、ようやく灰になりそうだ。
もしかしたらこれがシーズン最後のキャンプになるかもしれないので、暖かな秋の陽射しを浴びながら、キャンプ道具を何時もよりも丁寧に片付ける。
ポツリと顔に冷たいものが当たったのを感じて空を見上げると、つい先ほどまで素晴らしい青空が広がっていたはずなのに、いつの間にか雲が空全体を覆ってしまっていた。
ここでテントを濡らしてしまっては、シーズン最後の片付けにならないので、慌ててテントを撤収する。
そして全ての撤収を終えた頃、静かな湖面には雨粒による小さな波紋が沢山できていた。
コックリ湖探索も諦めて、そのまま札幌まで帰ることにする。
途中の中山峠では雪も舞って、本格的な冬が直ぐそこまで近づいてきていることを思い出させてくれた。
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