美瑛川の川下りを終えて、一人で旭川21世紀の森へと向かう。
今回はかみさんが来れないので、川下りもキャンプも私一人だ。川を下り終えた後、近くでソロキャンプを楽しめそうな場所ということで選んだのが旭川21世紀の森である。
21世紀の森の他に、21世紀の森ふれあい広場や21世紀の森ファミリーゾーンと言うキャンプ場もあるらしく、ガイドブックを見ただけではその様子が良く分からない。
最終的に現地に行ってから気に入った場所に決めることにしたが、川下りに思いのほか時間がかかってしまい、ゆっくり見て回る余裕もなくなりそうだ
黄金色に染まった美しい水田地帯の風景を眺めるゆとりも無く、道路地図を頼りに、ペーパンダムの南側から目的地へ入る最短ルートを走る。
するとその途中に「この先行き止まり」の小さな看板があった。「えっ?」と思ったけれど、道路地図では太い緑色で塗られている道路が行き止まりのわけがないと考え、そのまま走り続ける。
しばらく進むと突然舗装が途切れ、チェーンが張られて本当に行き止まりになっていた。
そこからキャンプ場までは思いっきり遠回りになってしまうが、ぐずぐずしている時間も無いので、Uターンしてもと来た道を猛スピードで引き返す。
トンボの群れがフロントガラスにぶつかってくるのは可哀相だが、ガイドブックによると利用者がいないときは午後4時半でゲートが閉められてしまうというので急がなければならないのだ。
キトウシ森林公園の横を抜ける近道があったので、迂回距離はかなり短縮できた。キトウシに泊まっても良かったのだけれど、やっぱり新しいキャンプ場の方に魅力を感じてしまう。。
そうしてようやく21世紀の森の施設へ到着。樽の形をしたバンガローが並んでいる。醤油作りの樽を利用した「タルハウス」という名前で、中に入ると本当に醤油臭いという話だ。
でもそこはキャンプ場とは関係ないらしい。
さらに先に進むとようやく旭川21世紀の森の入り口を見つけた。
時間は4時40分、入り口は半分だけ閉められていたが車は通れる。何とか間に合ったみたいだ。 ところが駐車場からサイトへ入る部分は既に車止めが設置されていた。
歩いてサイトまで行くと、本州ナンバーの車が1台停まっていて、森林学習展示館の建物の庇の下に大きなテントを設営しているところだった。
そこから急な階段を上ると平坦な芝生地があって、そこが本来のテントサイトらしい。
でもそこは、テントを張りたくなるような場所ではなかった。
キャンピングガイドでは林間サイトの写真が載っていて、私もそこにテントを張るつもりでいたのだ。
芝生地の奥の林間にそのサイトがありそうだが、駐車場からそこまで歩いて荷物を運ぶのはかなり辛そうだ。
ソロ用の装備をリュックに全て詰めて来たけれど、カヌーでかなり体力を消耗していたし、早くテントを張って温泉に入りたかったので、そこまで荷物を運び気にはなれなかった。
そこでの設営を諦めて駐車場に戻る途中、ちょうど管理人らしき男性がやって来て「キャンプするのかい?」と声をかけられた。
話を聞くと、林間サイトは夏の間はテントを張らせているが、利用者が減った今時期は芝生サイトを利用してもらうようにしているとのこと。
林間サイトの照明を点灯させたら余計な経費がかかると言うのがその理由だそうだ。
荷物の搬入時は近くまで車を入れられるようなので、「照明なんか無くても良いですから、林間にテントを張らせてもらえませんか?」と言うと、管理人のおじさんは困った表情を浮かべている。こんな我が儘を言うキャンパーはあまりいないのだろう。
こちらも、ここにそれほどこだわりを持っていたわけでもないし、管理人さんを困らせても気の毒なので、「いや、別に良いです。新しく出来たふれあい広場の方を利用しますから」と言うとホッとしたようである。
ここのキャンプ場は全て無料なので気軽に泊まれるだろうと思っていたら、一応受付をしなくては駄目なのだそうだ。
ふれあい広場の方も利用者がいなければ既にゲートを閉める時間だったけれど、今日は一組予約が入っていたので大丈夫なはず、受付はタルハウスが有るところの管理棟でやってくださいとのこと。
「仕組が良く分からないキャンプ場だな〜」と思いながら、時間が無いので慌てて引き返す。
すると道路際に「ふれあい広場入り口」の看板が立っていた。「あれ?道を間違えた?」21世紀の森を出てから、道路を反対側に曲がってしまったみたいだ。
再びUターンしてタルハウスへ。テントを張るまでにこんなに気忙しい思いをしたのは始めてである。
5時ギリギリにやっと管理棟で受付をすることが出来た。申込書に名前と住所を書き込む。無料ならばこんなもの書かなくても良いのになと思いながらも、泊まらせてもらうのに文句は言えない。
最初に21世紀の森に行って駄目だった話をすると、「あそこは北海道の管理だからね〜」との返事。北海道と旭川市で管理が別になっているとは知らなかった。ますますややこやしいキャンプ場である。
「最初に受付した人に今日は他には予約が無いと話すと寂しがっていたから、隣にテントを張ってあげたら良いよ」と言われて、「はあ、そうですね〜」と言葉を濁した。
「温泉もあるから入っていったら良いよ」と進められる。とても親切な管理人さんだ。温泉は8時まで入れるので、こちらは焦らなくても大丈夫そうだ。
そうしてようやく旭川21世紀の森ふれあい広場に到着。
ここのサイトは段々畑状に4段に分かれていて、それぞれの段に駐車場が作られているので、利用者が少なければオートキャンプ風にテントを張ることが出来る。
樹木が1本も無くて眺めもそれほど変わらないので、何時ものように初めてのキャンプ場で何処にテントを張るか迷うことも無い。
一番上の段に先客のファミリーのテントが一張り、その下の段にキャンピングカーが1台停まっている。
何処でも変わりは無いと言いながらもやっぱり一番高いところが気持ち良いので、管理人さんからの親切なアドバイスは無視して、先客のテントとは反対側の端に我が家のテントを設営した。
川下りの時に着ていた汗でずぶ濡れになったウェアをどこかに干したかったけれど、立ち木も無いのでロープを張る場所が無い。
キャンプ場に隣接して広大な園地も造成されているが、そこを含めて1本の木も植えられていないのだ。確かに遮るものが何も無いので見通しは良いけれど、それは利用者が少なくて涼しくなった今時期だから言える話だろう。
夏のかんかん照りの中、ここにテントがびっしりと立ち並んでいる様子を考えると、その時のキャンパーがとても気の毒に感じてしまう。
既に日は西にかなり傾いていて、もう少しで山陰に沈みそうになっている。サイトは西に向かって低くなっているので、夕陽を楽しむにはちょうど良い。
夕暮れのそんな景色を楽しみながら、ここで冷えたビールをグビグビッと飲みたいところだが、温泉までは車で行かなければならないのが辛いところだ。
体が汗でべとべとで我慢できなくなっていたので、夕陽よりも温泉を優先することにした。
そこからペーパンダム湖に沿って車を走らせダム湖のインレット付近まで来ると、その付近は公園のように整備されていて山の斜面にはバンガローが立ち並んでいた。
この付近が21世紀の森ファミリー広場のキャンプ場があるところみたいだ。
その中に温泉施設もあるのかと思ったら、「21世紀の森の湯」の建物はそこからもう少し奥に入った場所にひっそりと建っていた。
もう少し大きな施設を想像していたけれど、小さな小屋といった外観である。キャンプ場と同じくこの温泉も無料で利用することが出来る。
隣のプレハブ小屋に受付らしき人が居たので、またそこで何か書かされるのかと思ったら、ニコッと笑って建物の方を手で示してくれるだけだった。車上荒らしなどが無いように監視してくれているみたいだ。
ここの温泉は湧き出たお湯をそのまま川に流しているためなのか、石鹸もシャンプーも使用禁止になっている。
これだけ汗をかいた後では、石鹸を使わないとお風呂に入った気がしないが、それでもようやくさっぱりすることが出来た。
キャンプ場へ戻ってくる頃には既に日も沈み、場内は暗くなり始めていた。
何はなくともまずはビール。大急ぎでクーラーボックスを開けて、氷の下からギンギンに冷えたビールを取り出してリングプルを引っ張る。プシュッという音とともに泡が吹き出し、ビールの缶を動かさずに顔の方を近づけてその泡を口で受け止め、そのままの状態で天に向かって顔を振り上げる。それと同時に、冷たいビールが一気に喉に流れ込んできた。
9月とは思えないような暖かさの中、ドライスーツに身を包んで汗まみれになりながら、予想外の激流に肝を冷した美瑛川の川下り。その後はいつもどおりのドタバタぶりを発揮しながらキャンプ場までたどり着き、最後に源泉かけ流しの温泉に入って、ようやくありつけた冷えたビール。美味くないわけがない。
静かな場内は虫の音に包まれている。隣のテントから聞こえてくる子供たちの喚声も大して気にはならない。
ただ、テレビのCMで流れている「たらこの歌」を大声で歌うのだけは勘弁してもらいたかった。
「た〜らこ〜、た〜らこ〜♪」のメロディーが妙に頭に残ってしまい、気が付くといつの間にか自分でも「た〜らこ〜、た〜らこ〜♪」と口ずさんでしまっているのだ。
ご飯を炊いて、今回のソロキャンプの夕食メニューも豚丼である。小さなフライパンで豚肉を炒めていると、ままごとをしているようで楽しくなる。
かみさんが、暖めてご飯に乗せるだけのレトルト牛丼を用意してくれていたけれど、ソロキャンプの時でなければ自分で料理することはほとんどないので、簡単でも良いから料理の真似事をして遊んでみたいのである。
夕食を終えたら今度は焚き火タイム。
ソロキャンプ用装備として全ての荷物をザックに入れて持ってきているのに、焚き火台と薪二箱は完全にオートキャンプ装備である。
その他にも、何時も持ち歩いている食器やキャンプ道具の入った箱もそのまま車に積んできたので、かみさんからは「それで何でザックに荷物を小分けする必要があるわけ?」と冷ややかな目で見られていた。
まあ、ライダーやバッグパッカーの、せめて気分だけでも味わってみたいだけなのである。
後ろを振り返ると山陰から満月に近い月が昇ってきていた。
星空の美しい夜よりも満月の明るい夜の方が、人工の照明が邪魔に感じてしまう。星ならば明かりを遮るだけでその姿を楽しめるけれど、月明かりだけに照らされて浮かび上がる独特な風景を楽しむためには、人工の照明は絶対的な邪魔者なのである。
それでも周りに広がる風景は、昼間のものよりももっと魅力的な風景に変わって見えていた。
9時には虫の音を子守唄に眠りにつく。
夜中に目が覚めて時計を見るとまだ午前1時を過ぎたところだった。もう一度寝ようとしたが、昼間の美瑛川の激流が目に浮かんできたりしてなかなか寝付かれない。
おまけにテントの近くまでやって来たキリギリスが、意地になっているかのように鳴き続けるものだからどうしようもない。1時間以上寝られないので、一度テントの外に出て気分転換することにする。
月は既に頭上高くまで上ってきていた。東の空に目をやると久しぶりに見るオリオン座が明るく輝いている。オリオン座は冬の星座というイメージを持っていたので、9月のまだ暖かな時にその姿を見ると何となく不自然に感じてしまう。
これだけ明るい月夜なのにくっきりと星が見えるのは、それだけ空気が澄んでいるのだろう。月の出ていない夜だったら、素晴らしい星空が広がっていたに違いない。
そんな風景に癒されて、今度はキリギリスの鳴き声も子守唄にして朝まで眠ることが出来た。
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