神威岬を後にして、次は枝幸町で食料品の買出しをする。
大型スーパーの西條に入って鮮魚コーナーを覗いてみたが、札幌のスーパーと大して変わりの無い品揃えだ。活きの悪そうなイカが並んでいたので産地を見てみたら、函館産のイカだった。
旅先で買い物するのに、こんな大型スーパーは便利だけれど、買い物の面白みは全く無い。でも今夜の我が家のメニューは焼肉だったので、こんな時はスーパーの方が安心して買うことができる。
ついでに昼食も枝幸町内で済ませようと、ネットで検索したラーメン屋を探したが、残念ながら休業日になっていた。
何も知らない街で食べ物屋を探すときは、その店構えくらいしか判断基準が無い。ネットで調べてあったラーメン屋は、店構えだけで判断するとしたらとても足を踏み入れる気にはならないような店だったりする。
結局適当な店が見つからず、道の駅にお土産を買いに寄るつもりだったのでそこのレストランで昼を食べることにした。
枝幸町付近を走っていると、山の頂上に立つ展望台らしき建物が目に付く。「三笠山展望閣」の看板を道路沿いに見つけたので、多分これのことだろうと思ってちょっと寄り道してみる。
頂上まで登っていくと、そこはスキー場のリフトの終点にもなっていたので、冬の間はレストハウスとして使われているのだろう。
枝幸の市街地を一望できるけれど、オホーツク海の眺めなどは期待したほどでもなかった。
そうして道の駅マリーンアイランド岡島に到着。職場へのお土産を購入した後、レストランでかみさんはラーメン、私はカニの卵とじを食べる。かみさんが頼んだラーメンは道の駅オープン10周年とかでこの日は半額サービス。
ラーメンの味はともかく、かみさんはこの半額で食べられたと言うことがとっても嬉しかったようだ。
そろそろオホーツク海ともお別れしなければならない時が近づいていた。
今日の宿泊予定地は、歌登町の健康回復村の中にある「いこいの森キャンプ場」である。見聞録のホームページで紹介しているキャンプ場の中で、唯一写真が載ってないのがここだったりする。
9年前に初めてここを訪れたとき、あまりの暑さと蜂が多いのに閉口して、テントを張るのを諦めそのままウスタイベのキャンプ場に移動したことがあった。
今回はそのルートの逆を辿って、ウスタイベに泊まった後にいこいの森に向かうこととなる。
群青色のオホーツク海に別れを告げて、歌登健康回復村まで20kmの道路標識に従って山間部へ向かう道へと入った。
ラジオのニュースを聞いていると、昨日は北海道でも久しぶりに気温が上がり滝上町で道内の最高気温29.9℃を記録し、今日も内陸部ではかなり気温が高くなるだろうとのことである。
滝上町と言えば一昨日に訪れたばかりの町で、その時はそんなに気温は高くなかったはずだ。昨日は一日オホーツク海沿いをウロウロしていたので、暑さなど全く感じなかった。
車の温度計を見ると17度と表示されている。風が吹くと肌寒ささえ感じるくらいの気温である。
暑いのは苦手な私たち夫婦、歌登は内陸だけれどオホーツク海から20kmしか離れていないのだからそんなに暑くはならないだろうと高をくくっていた。
車を走らせるにつれて、デジタル表示されている外気温が少しずつ上昇してくる。歌登の市街地に入る頃には22度にまで上がっていた。
かみさんが、「25度を越えたら死んでしまうわよね。」と冗談を言う。
死ぬとは少しオーバーかもしれないけど。、の暑い時期にあまりキャンプに出かけなくなった我が家にとって、25度は快適なキャンプを楽しめるかどうかの境目になっているのだ。
そこから目的地まであと数キロ、どうやら25度を越えることは無さそうだと安心していたところ、急に温度が上昇し始めた。カチッカチッと音が聞こえてきそうな感じで1km走る度にデジタル表示が1度ずつ増えていく。
限界ラインの25度をあっさりと通り越して、キャンプ場に到着したときには27度まで達していた。
「ほんとに死ぬかも・・・。」
ここのキャンプ場は、健康回復村のホテルやゴルフ場の横を通り越して山道をひたすら億へと進み、その道の終点、本当の山の頂上のような場所にわずかばかりのサイトが作られている。
恐る恐る車のドアを開けたところ、むせ返るようなセミの声とモワッとする熱気に包まれた。今年初めて体験する、夏の暑さである。
「27度くらいで何を大げさな」と、道外に住んでいる人には笑われそうだが、昨日までフリースの上着を着ていたのというのに、この突然の暑さにはさすがに体が順応できない。
9年前に初めてここを訪れてテントを張らずに引き返したときと同じような状況である。その時と違うのは、スズメバチがブンブンと飛び回っていないことくらいだ。
さて、何処にテントを張ろうか?と言っても、テントを張れそうな平らな場所は4ヶ所くらいしかないので迷うほどのことも無い。
それなのに、私とかみさんの意見は衝突してしまった。
私が選んだのは、園路沿いの周りに何も無くて一番眺めがよさそうな場所。かみさんが「そんなところにテントを張ったら干からびてしまうわよ!」
かみさんが選んだのは、そこから一段低くなったところの木に囲まれた崖っぷちのサイト。崖っぷちと言っても、木が茂っているので眺めは良くない。それに今現在は、その場所も太陽の陽射しに晒されている。
何時もはかみさんの意見を尊重することの方が多いのだけれど、今回は一方的に「そんなところにテンとなんか張れるか!暑いのは今だけなんだから、こっちにテントを張るぞ!」と私の意見を貫き通した。
暑さのせいで、お互いにちょっと苛立っている。
このような暑い日に蚊やブヨにたかられながら慣れないテントの設営に汗を流すお父さん、その横で早く遊びたいとか我が儘を言う子供たち、何もしないで横に立っている奥さんの表情は次第に険しくなりついには大声で子供たちを叱りつける。
夏のキャンプ場では良く見かける風景だが、私たちでもこんな日にテントを設営しているとイライラしてしまうのだ。
それにしても強い陽射しである。最近の我が家はタープと言うものを持ち歩かなくなってしまったので、フライシートの張り出しだけでしか日陰を作れない。
そのわずかな日陰の中に入っても、太陽に熱せられたテントの熱が直接伝わってくるので、全く涼しく感じない。
かみさんはさっさと自分の椅子を炊事棟の中に持ち込んで、そこで涼んでいた。私は自分の意見を通してそこにテントを設営した手前、意地でもそこを離れないつもりでいたが、あまりの暑さに直ぐに降参して炊事棟の中に逃げ込んだ。
暑いと言っても、日陰にさえ入れば涼しさを感じられる程度の暑さである。
直ぐに温泉に入りたかったけれど、この陽射しの下でフウマを車の中で待たせることもできないし、温泉から出た後でまた汗をかきそうなので、日がもう少し傾いてくるまで待つことにした。
ところで今回のキャンプ旅行で、大きな問題が生じていた。
それは、二人でそれぞれ持ち歩いているデジカメの電池が両方とも切れかかっているということだった。専用の充電地を使うタイプなので、普通の乾電池が使えないのが辛いところである。
予備の電池も持ってきていたのでそれで十分だろうと思っていたら、1日目にして最初の電池が切れてしまったのである。
二日目からは、こまめにスイッチを切ったり、余計なものは写さない様にと気を使っていたのに、とうとう三日目になって電池切れ警告ランプが点灯し始めた。
何で充電器を持ってこなかったのだろうと後悔しても後の祭りである。
それに加えて、明日からの天気が急に悪い方に変わってきていた。でもこれは、逆に好都合だったかもしれない。
最近は写真撮影がすっかり趣味のようになっているので、カメラ無しでキャンプをするのはとても味気ない。かと言って、デジカメの電池が切れたからと言う理由だけで、キャンプの日程を1日短縮すると言うのも馬鹿みたいだ。
そこに雨という要素が加われば、十分にキャンプを中止する理由が成り立ちそうだ。
そんなことを考えながら、明日朝の天気予報を見て最終判断をすることにした。
改めて場内を歩いてみると、私たちが何処にテントを張るかで迷っていた場所以外にもサイトが作られていることに気がついた。車止めが設置されている先がキャンプ場だと思っていたら、その手前にも芝生面が平らに造成されているところがあり、場内の案内図を見るとその付近もキャンプ場として色塗りされていた。
その中の一箇所だけ木陰になっているサイトがあり、見晴らしも結構いい場所だった。私は、何で最初にここに気が付かなかったのだろうと悔しがったが、かみさんは「そこにテントを張っても、駐車場に近すぎて落ち着かないわ!」との一言。
結局、何処のサイトを選んでも、かみさんとは意見が衝突していたのかもしれない。
森林館と言う無人の建物に入ってみた。主な樹木の幹と葉が展示されていて、木の名前を覚えるのに役に立つ施設である。
私たちが展示物を見ていると、他に誰もいないはずなのに自動ドアの開く音が聞こえてきた。あれ?と思いながら振り返ると、カチャカチャと爪の音を立てながらフウマが入ってきたのには笑ってしまった。
展示されている樹木の臭いを1本1本嗅いで回って、まるで本当に展示物を見ているみたいである。
しばらくすると、再び自動ドアの開く音。どうやら展示物を見るのに飽きてしまったフウマが、出て行ったようである。我が物顔で振舞うとは、フウマのこんな様子のことを言うのだろう。
場内には他にも、以前は管理棟として使っていたような建物が建っていて、ご自由にお使いくださいとの張り紙がされていた。
台所やトイレもあって、立派な薪ストーブまで置かれている。他に誰もいない時ならば、無料のバンガローとして使えそうな感じだ。
気温も少し下がってきたので温泉に入りに行くことにする。
健康回復村のグリーンパークホテルではなくて、その近くの民営の「朝倉温泉」に入った。グリーンパークホテルは朝倉温泉から湯を引いているみたいなので、どうせなら源泉に近い方に入った方が良い。
赤褐色に濁ったお湯にはびっくりしたが、なかなか良い温泉である。
サイトに戻ってビールを飲む。セミの声に包まれ、真っ青な夏空を見上げ、温泉に入った火照りを冷ましながら飲むビールは、極楽の味がした。
涼しくなってきた場内を少し散歩する。
周辺の林内は下草が綺麗に刈られて、良く手入れされた森となっている。ホウノキが花を咲かせ、マタタビの白い葉が一際目を引く。
シラカバとミズナラが手を回して寄り添うように立っている姿を見つけ、かみさんが「これは夫婦の木という名前にしましょう」などと、勝手に名付け親になっている。
森の中を歩いていると、名前の知らない木が沢山ある。我が家も色々な図鑑を持っているが、何故か樹木図鑑だけが無い。学生の頃に林学も少しは勉強したのだから、そもそもその時に買っていなければならない類のものである。
今回持ってきていた花の図鑑と鳥の図鑑、これに樹木図鑑までそろえれば、森の中の散歩がもっと興味深いものに変わるのだろう。
かみさんは炊事棟の中に籠もってポトフ作り。ビールも持ち込んで、「まるでソロキャンプしているみたい!」ととても楽しそうだ。
その間に私はバーベキュー用の炭熾し。
今回のキャンプで初めてのバーベキューである。
肉を焼く臭いに鼻をヒクヒクさせるフウマ。フウマにしてみれば、「やっぱりキャンプはバーベキューでしょ!」と言ったところだろうか。
あれほどうるさかったセミの鳴き声が夕方になるとピタリと止んで、ようやく鳥たちのさえずりが聞こえてくるようになった。
アオバズクの鳴き声が周りの山にこだましている。
日中の暑さと賑やかさから比べたら、信じられないくらいに静かで穏やかな夕暮れである。
夕食を終えて焚き火の時間がやってきた。
私がテントの近くに焚き火台をセットしていると、かみさんが「こっちでやりましょうよ」と言ってきた。そこは、最初にかみさんがテントを張りたいと言っていた場所である。
今回はその意見に素直に従うことにしたが、かみさんはそこの崖っぷちサイトがお気に入りのようである。そこは雑木が茂って見通しが悪いので、そのあたりをもう少し整理したらもっと快適なサイトに変身しそうだ。
千畳岩の海岸から拾ってきた流木で焚き火を始める。
よく乾燥していて、とても軽い流木である。さぞかし景気よく燃えてくれるだろうと思っていたら、これがなかなか手こずらされた。
どうも、流木はそれ自体で燃え上がることが無くて周りからの炎で燃やされるものらしい。焚き火台に2、3本入れただけでは直ぐに炎が消えてしまう。そこで、これでもかと言うくらいに焚き火台の上に積上げて団扇で扇いでやったら、一気に豪快に燃え上がった。
やはり流木での焚き火は、焚き火台などは使わずに川原とか海岸とかで豪快に燃やすものなのである。
やがて夕陽が、稜線の樹木を美しいシルエットに変えながら山の向こうへと沈んでいった。こうして毎日違った表情の夕陽を楽しめるというのもキャンプの醍醐味の一つだろう。
薄い雲が広がってきたので、昨日のような素晴らしい星空は楽しめないだろうと諦めていたが、あたりが暗くなるにしたがって今夜も頭上で星が瞬き始めた。
キャンプ場のトイレや炊事場は、使うときだけスイッチで照明を点けるようになっている。そのほかに照明は一切無いので、ここでは真の闇を楽しむことができる。
それまで煌々と周りの樹木を照らし出していたガソリンランタンを消したところ、あたりは真っ暗闇となった。
真っ黒な樹木の影に囲まれた空は、そこだけが星の明かりで明るく見える。ベンチの上に寝転がって、今日も星空散歩を楽しむことができた。
もしかしたらこれが最後の夜になるのかな。そう考えながら眠りに付いた。
三日目の朝、さすがにもう日の出前に起き出すことはできなかった。
テントから出ると、思った以上に青空が広がっていて、Tシャツ姿のままでも寒さを感じない。今シーズンのキャンプで初めて体験する暖かな朝だった。
天気予報を確認してみると、天気が崩れるのが早まり昼過ぎには雨が降り始めるとのことである。
もしも今日もう1泊するとしたら、松山湿原を見た後に岩尾内湖か白滝高原へ行くつもりでいた。どちらのキャンプ場も、その気になれば札幌から1泊で泊まりに来られる場所である。そんなところに無理して雨の日に泊まることもないだろう。
デジカメの電池が切れてしまってしまったと言う現実から目をそらして、あくまでも他の理由を考え出そうとしている自分であった。
結局、松山湿原を歩いた後はそのまま札幌まで戻ることに決定した。これまでの三日間で素晴らしいキャンプを体験できたので、そう決めても特に悔いは残らない。
そうと決まればキャンプ最後の日をゆっくりと過ごしたかったのだけれど、気温が高くなる前に撤収を済ませたかったし、天気が崩れる前に松山湿原に行きたかったので、何時もと同じく朝食を終えると直ぐに撤収開始となってしまった。
我が家の道北キャンプは、何故か最終日に雨に祟られることが多くて、今回と同じく1日早く切り上げて帰ってきたこともあれば、雨の中でも最後まで頑張ってキャンプしたこともあった。
9年前にここを訪れてその後ウスタイベに泊まったときも、次の最終日は土砂降りの天気。それでも、何とかもう1泊しようと、白滝高原のバンガローに転がり込んだものである。
昔のそんながむしゃらさは失ってしまったが、デジカメの電池さえ残っていれば、今でも雨降りのキャンプを楽しむくらいの気持ちは残っているのだと最後まで思いながら歌登を後にした。
最初の日に訪れる予定だった松山湿原は、結局最終日に訪れることになった。
2年前に初めてここを訪れたときは10月末で、湿原の植物も既に枯れてしまっている時期だった。今回はワタスゲに覆われた湿原の風景を頭に描いていたのに、そのワタスゲは木道沿いにポツポツと咲いている程度である。
タチギボウシの葉がかなりの面積で群生していたので、この花が咲く頃が松山湿原が一番華やかに彩られるのだろう。
これと言って見るべきものはなかったが、かえってその方が良かったかもしれない。もしもこれで、花の咲き乱れる素晴らしい光景が広がっていたりしたら、電池の残り少ないデジカメを抱えて途方に暮れていたかもしれない。
最後の電池で、数枚の花のない湿原の風景を記録することができた。
今回は浮島湿原と松山湿原の二ヶ所を歩いてみたが、植物の多さや沼の多さなど浮島湿原の方が歩いて楽しい場所である。
この日の昼食は、これもキャンプ最初の日の昼食をここで食べようと考えていた美深町内の井上食堂に入ることにした。
この食堂はテレビ番組のズームイン朝でも紹介されたことがある店で、そのメニューのバリエーションが凄まじいのである。
たとえばラーメンは、スープ、味、油脂、茹で方、そして麺のメーカーまで指定して注文することができる。その他にソフトクリームも有名で、同じくこれもさまざまなバリエーションで注文できるのである。
その程度の予備知識を持って店に入ったのだが、壁に貼られたそのメニューを見てしばらく固まってしまった。
白紙の紙を渡され、それに自分で注文内容を記入しなければならない。
とりあえずラーメンを頼むことにしたが、どの組み合わせが良いのかなんて初めての人には絶対に分からないだろう。
私は豚骨ベースのしょう油、かみさんもオーソドックスなしょう油ラーメンになるように組み合わせを考えて、何とか無事に注文することができた。
注文するのにこれだけ疲れる店も始めてである。
で、肝心の味の方はどうだったかと言うと豚骨スープのしょう油ラーメンはまあまあ、かみさんが頼んだしょう油ラーメンはスープが変に甘くて、全然美味しくなかったとのことである。
組み合わせに失敗したのか、もともとのスープがだめなのか、その真相は別にして、話の種に一度は入ってみても面白い店である。
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