滝上町に着く頃には昼近くになっていたので、そこで昼食をとることにした。
滝上町は初めて訪れる街である。芝桜でも有名だが、花は既に終わっていた。町の中央を流れる渚滑川が小さな渓谷を作っていて、これが結構良い眺めである。紅葉の時期はさぞかし素晴らしい眺めを楽しめるだろう。
ここをカヌーで下れるかな等と考えながらその付近をぶらついていると、「天手古舞」と言う食事どころを発見した。出発前にインターネットで検索してこの店の名前は知っていた。メニューの内容が全て有名人の名前になっていると言う風変わりな店らしい。
店内に入ると結構な賑わいで、店の内装も田舎の町にしては結構洒落ている。
早速メニューを開いてみると、「土井たかこ」だとか「みのもんた」・「毛沢東」などと言った名前がずらりと並んでいる。一応その横には本当のメニューの内容がカッコ書きで書かれているが、名前とメニューは全然関係無さそうだ。
私は吉幾三(トロロめし定食)、かみさんは栃東(しめじそば)を注文。かみさんはさすがに恥ずかしがって、本物のメニューの名前で注文していた。
混んでいるためか結構待たされたが、その間店内の壁に貼られたサラリーマン川柳のような短冊を見て時間を過ごす。
味はまあまあ、値段はちょっと高め、量はかなり多めと言ったところである。かみさんが注文したしめじそばは、「しめじが1パックそのまま入っているみたい」、とのことだった。
滝上の渓谷公園キャンプ場もついでに見に行ったが、公園の中の一体何処がテントサイトなんだろうと迷ってしまった。パークゴルフ場に隣接したわずかな芝生部分がどうやらサイトらしいが、そこにテントを張る勇気は私には無いだろう。
そうしてようやく本来の目的地である陽殖園へと向かった。
細い山道をしばらく登り、本当にこんな場所にあるのだろうかと心配になり始めた頃にようやく陽殖園入り口に到着。質素な門を入ると、質素な小屋の前でおじさんが笑顔で出迎えてくれた。
「ここは初めてかい?何でここのことを知ったの?」
「BE-PALです。」と答えると、嬉しそうな顔をして「それじゃあここのことは良く知っているね。5時まで開いているから時間をかけてゆっくり見て来て下さい。」と言われた。
実は、BE-PALに連載されているのは知っていたけれど、私はBE-PALの記事は転覆隊以外はほとんど読んでいないのである。時計は既に2時を過ぎていてなるべく早くキャンプ場に入りたいのに、5時まで見て行けと言われても困ってしまう。
おじさんをがっかりさせては悪いので、なるべく時間がかかるようにゆっくりと園内を歩く。
最近は園芸植物よりも野の花のほうに興味が移ってしまっているので、浮島湿原を歩いたあとではここの花を見ても何も感じないのである。
家に帰ってから改めてBE-PALの連載を全て読んでみたが、あらかじめ予備知識を持って、もっと時間に余裕があるときに、直前に浮島湿原に寄り道などしないで真直ぐにここに来ていたら、もっとここの植物を楽しめただろう。
結局1時間ほどで受付まで戻ってきた。
「あれ?もう戻って来ちゃったの?」とがっかりしたような表情のおじさんに、かみさんが「犬を車で待たせているものですから。」と申し訳無さそうに挨拶した。
実はこの後、先ほどの天手古舞で見た地元のローカル新聞に、個人の敷地にあるルピナスの丘がこの週末だけ特別公開されるとの記事が載っていたので、そこにも行ってみようと考えていた。さすがにもう時間が無いのでキャンプ地へと向かうことにしたが、滝上町はなかなか面白そうな町である。
オホーツク海に近づくにしたがって青空が広がり始めた。海キャンをするのならやっぱり青空の下が嬉しい。
ただ心配なのが、さるる海水浴場のオープンが7月からとなっていることだった。併設しているバンガローが6月からオープンしているので、多分トイレや水場も使えるだろうと勝手に想像していたのである。
国道から興部町沙留の市街地へと入る。数件の家がある程度の小さな集落だろうと思っていたら、大きな町なのでちょっとびっくりした。
これはもしかしたら大外れのキャンプ場かも。不安を感じながら町外れまでやってくると、海水浴場のバンガローが見えてきた。海岸は防波堤から下がったところにあったので、これなら周りの人家を気にしないで海だけ眺めてキャンプを楽しめそうだとホッとする。
ところが、そこのトイレや炊事場の建物はシャッターが下りたままで、周りには砂が吹き溜まっているような有様だった。
かみさんが、「水さえ汲んできたらここでもキャンプできるんじゃない?」と言ってきたが、このような事態はあらかじめ想像できたので、第二候補地として日の出岬キャンプ場を予定していたのである。
直ぐにそこに向かうことにしたが、それでもやっぱり心配事があった。日の出岬キャンプ場はペット禁止なのである。
ここで追い返されてしまったら、久しぶりのキャンプ難民となってしまう。今時期なら利用者も少ないので、まさかペットがいると言う理由だけで宿泊を断られることは無いだろうとは高をくくっていたものの、最近のご時勢だからどうなるか分からない。
「もし断られたら、受付の前で大喧嘩始めたら良いかもよ。」二人で作戦会議を開きながら、日の出岬へと車を走らせた。
現地に到着して、受付で「犬がいるんですが泊まらせてもらえますか?」と恐る恐る聞いたところ、優しそうなお兄さんが「あっ、それは関係ないですから」との返事。
「キャンピングガイドのペット禁止マークは何なんだ!」と思いながらも、ホッとして受付を済ませた。 先客はトイレの隣に夫婦連れらしいテントが一張りだけ。何でこんなところにテントを?と思ったが、多分設営時に風が強くて、トイレを風除け代わりに使ったのだろう。
我が家はステージのような建物の直ぐ前にテントを設営することにした。風もほとんど吹いていないので、海に向かってテントの入り口を向ける。
観光客向けの駐車場や食事施設が隣接しているし、ロケーション的には大して期待していなかったキャンプ場であるが、我が家のテントを張った場所からは海も見下ろせてなかなか良い眺めだ。
それになんと言っても、上空に広がってきた青空が素晴らしい。これだけでも、ロケーション度が星2つ分くらいはアップする。
設営を終わって岬の方に行ってみると、エゾカンゾウやヒオウギアヤメ、センダイハギにハマナスなど、今時期の原生花園を彩る植物があちらこちらで花を咲かせていた。
原生花園のような華やかさは無いものの、こんな風に何気なく野の花が咲いている風景が大好きである。
足元を良く見ると名も知らぬ花に混じって小さなスズランも花を付けていた。薄い表土の下は直ぐに固い岩盤になっているのだろう。それでも必死に花を咲かせている姿に余計に感動してしまう。
太陽がかなり西に傾いてきた。日の出岬とは言うけれど、今時期は海に沈む夕陽も楽しめそうだ。
その前にまず夕食を済ませる事にする。レトルトご飯と、家で作ってきたカレーを温めるだけと言う質素な夕食だが、今日みたいにキャンプ場到着が遅くなったときはこれに限る。
太陽がステージの建物に隠れてしまったので、日が当たる場所まで移動してカレーを美味しくいただいた。
その後は岬に移動して、サンセットショーが始まるのをゆっくりと待つ。あたりの風景が次第に赤みを帯びてきて、野の花たちも赤く染まった。
キャンプ最初の夜からこんなに素晴らしい夕陽を楽しめるとは思ってもみなかった。
|