サイトに戻り、ビールで乾杯。
BYERの椅子でくつろぎ、青い空を見上げる。こんな空の下でキャンプをするのは何時以来だろう。
爽やかな空気を思いっきり吸い込むと、急に鼻がムズムズしてきた。目の前には、大量の花を咲かせたシラカバが生えている。
思っていたほど酷い花粉症の症状は出なかったけれど、それでもかみさんと二人で消費するティッシュの量は尋常ではない。
水際を歩いてみると、新緑の木々から木漏れ日が差し込み、鮮やかな緑の芝生に影を作る。イギリスの湖水地方、写真でしか見たことが無いがきっとこんな風景なのだろう。
造園の手法で、池の護岸を岩でなくて芝生にすることがあるが、ここでは天然の芝生護岸となっている。優しい風景に心をすっかり癒された。
夕暮れが近づくにしたがって日曜日の喧騒も次第に遠ざかり、場内には静寂が訪れてくる。こんな一時が、しみじみとしてとても好きである。
私たちの下にテントを張っていたキャンパーもいつの間にか帰ってしまい、湖岸に数人の釣り人の姿が見えるほかは広い場内に誰も居なくなった。
焚き火に火をつける。最初に燃やすのは大量のティッシュの山である。
きれいに管理されたここのようなキャンプ場では薪の現地調達も難しいだろうと、自宅から薪を準備してきていた。
今回の薪は、2年前の台風18号で倒れた我が家の庭のナナカマド。2年物の薪だけれど、ちょうど良く乾燥していて柔らかな炎を上げながらじっくりと燃えてくれる。
ナナカマドの名前は、七度かまどに入れてもまだ燃え残るところから付けられたとの説もあるみたいだが、じっくりと燃えてくれるので、焚き火用の素材としては一級品と言えるかもしれない。
そのナナカマドも小さく燃え尽きた9時頃、それぞれのテントに入って眠りについた。
今回のキャンプからスリーシーズン用の薄いダウンのシュラフに変えていたが、何度か寒くて目が覚めた。
かみさんが4時頃にテントから出てくる音が聞こえたので、「もう起きるの?」と声をかけたら、寒くて寝てられないとの返事。
もう少し朝の微睡みを楽しんでいたかったけれど、テントの中も明るくなっていたので私も起きることにする。テントを出ると既にかみさんが焚き火にあたっていた。
「だからまだ冬用のシュラフの方が良いって言ったのに!」
日中の気温が25度を超えたりしていたものだから油断してしまったが、5月はまだまだ朝晩冷え込むのである。
テントの周囲にそれほど木は生えていないのに、野鳥の声も結構賑やかに聞こえてくる。対岸の山からはキツツキのドラミングの音が湖面を越えて響いてくる。
何時ものキャンプなら、ここでコーヒーを入れて楽しい時間を過ごすところだが、今回はコーヒーを忘れてしまったので、代わりにペットボトルのお茶を飲むしかない。
我が家のキャンプで一番忘れられやすいのが、私の髭剃りとコーヒーである。これらを用意するのはかみさんの担当なので、出発間際に「髭剃りとコーヒーは持った?」と最終確認までしていたのにこれである。
これからは私の担当に変えたほうが良さそうだ。
かみさんが夜中にトイレに起きた時、場内には鹿の大群が来ていたとの話である。テントの周りにも生々しい鹿の糞が落ちているところを見ると、直ぐ近くまで鹿達がやって来ていたみたいだ。
目の前に広がる静かな湖面を見ていると、またカヌーに乗りたくなってきた。かみさんにカメラを預けて、私一人でアリーに乗り込んだ。パドルを一かきする度に、全く波の無い湖面を切り裂くようにアリーがスーッと進んでいく。
時々、魚がライズして、その波紋が湖面に映った木々の姿を揺らしている。
岸に戻ると、今度はかみさんが一人で乗ると言いはじめた。かみさんの乗ったアリーは右へ左へと湖面を迷走し、そこに映った風景を無茶苦茶にかき回して、岸に戻ってきた。
もう少し一人で乗る練習をさせたほうが良いかもしれない。
ようやく太陽が昇ってきたが、今日は薄い雲が空全体にかかってしまい、美しい日の出の風景とはならなかった。
ここのキャンプ場で唯一興ざめするのが、対岸の土取り場が視界に入ってしまうことだ。
土が抉り取られ剥き出しになった山肌、それを見ていたかみさんが「何だか人の顔に見えない?」
そういった場所に人間や動物の顔の輪郭を見つけ出すのは、かみさんの得意技である。私はかみさんから言われて、「そういえば人の顔に見えるね。」と、やっと気がつくくらいだ。
それくらいならまだ良いが、「どこかで見たことある顔だと思ったら、保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)に似ているんじゃない?」、トンネルズの石橋貴明が昔やっていたキャラである。
ここまで来ると得意技というより、離れ業と言ったほうが良いかもしれない。
場内を散歩していると、アカエゾマツの木の下に大きな松ぼっくりが沢山落ちているのを発見した。クリスマス時期には、同じようなものがツリーのオーナメントとして1個百円くらいで売られたりしている。
二人して、「1個百円、1個百円」とつぶやきながら、大量の松ぼっくりを拾い集めた。我が家に帰ると、こうやって拾い集めた色々な松ぼっくりが大量に眠っているのだ。
テントに戻る途中、真っ白な冬毛から春の毛色に変わった野うさぎが私たちの前を駆け抜けていった。
すっかり乾いたテントを気持ちよく撤収。管理人のおじさんが「寒くなかったかい?」と声をかけてきてくれた。
管理人さんの話によると、今時期の金山湖は下流にある二つのダムの水位を調整するためにたっぷりと水を貯め込むとのことである。
これまでの金山湖に対する私のイメージが一変させられた今回のキャンプ、金山湖に泊まるのならば絶対に今時期に限るのである。
キャンプ場を後にして、金山湖上流の空知川の様子を見に行く。
今回のキャンプでは空知川が湖に流入する部分をカヌーで下ってみようとも考えたが、雪解け水で増水していそうで我が家単独で下るのは無理だろうと諦めていたのだ。
思っていたとおり川は大増水。もしこの状況で下っていたら悲惨なことになっていたのは確実である。
ついでに、映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地も見てみることにした。
普段はこの前を見向きもせずに通り過ぎるだけだが、今回はすっかり観光客気分になっているので、こんな時でなければ訪れることも無いところだ。
映画に使われたその駅舎を一目見ただけで、ぽっぽやのシーンが頭の中に浮かんできた。観光用に残された映画のセットと違って、その駅舎は今でも地元の人達が利用している駅であるということが、余計にそうさせるのだろう。
南富良野の道の駅に寄ったところ、我が家の車に積んであるカヌーを見てロマンスグレーのおじさんが話しかけてきた。
「カヌーに乗るんですか。私も昔はよく乗ってました。」
「地元の方なのですか?」と尋ねると、「えっ、まあ、中富良野の方でラベンダーを作っています。」との返事。
「ん?、!」
最初は変わったおじさんだなと思っていたけれど、どこかで顔を見た気がする。
「もしかして富田さん・・・ですか?」と尋ねると、「えぇ」と照れくさそうに小さな声で返事が返ってきた。
中富良野のファーム富田創業者の富田さんだった。
まあそれはどうでも良いことで、富田さんにとっても金山湖は大好きな場所みたいだ。
もっと色々とカヌーの話とかをしたかったけれど、お互いに口下手といった感じで、私の方から「それじゃあどうも」と切り上げてしまった。
ファーム富田の富田さん、とても素敵なおじさんである。
富良野の北時計で昼食をとり、店を出ると雨が降り出してきた。
シーズン初めに楽しめた最高のキャンプ。果たして今シーズン、これ以上の快適なキャンプって楽しむことができるのだろうかと心配になってしまうようなキャンプだった。
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