カヌークラブでの釧路川例会に合わせて道東の未利用キャンプ場の開拓、これが今回のキャンプのテーマである。
クラブ例会の宿泊地はシラルトロ湖近くの温泉付き別荘住宅となっていた。クラブメンバーの親類が所有しているものだそうで、源泉かけ流し・24時間入浴可能の温泉があるというのが何とも魅力的である。
しかし、滅多に泊まる機会のない温泉付き別荘の屋根の下で眠ることより、テントの薄い布一枚を通して野外で眠ることの方に魅力を感じてしまうのが、私のおかしな性格なのである。
1泊目の目的地は阿寒湖畔キャンプ場だ。道内有数の観光地であるが故に、いつもは足早に通り過ぎるだけの場所だったので、たまにはここに泊まって周辺をゆっくりと歩いてみようと考えたのである。
9月に入って最初の3連休、初めて泊まるキャンプ場に釧路川源流部の川下り、出発日が近づくにしたがってワクワクドキドキで仕事も手に付かなくなるのが常なのに、今回はまるで気分が盛り上がってこない。
その大きな理由が当日の天候だった。週間予報を見続けていると、次第に雨の確率が高くなってきて、前日の予報ではとうとう全道的に大雨の予報に変わってしまった。
日曜日はせっかくの中秋の名月なのに、それも見られない。
我が家が阿寒湖を通る時は何時も天気が悪くて、雨が降っていたり、濃い霧に包まれていたり、今年のGWには雪まで降っていた。おかげで我が家の阿寒湖に対するイメージはとても暗いものしか無いのである。
そんな暗い場所で、しかも雨の中でのキャンプと考えると、気持ちが弾むはずがない。未だかって経験したことのないような落ち込んだ気分で札幌を出発した。
今回のキャンプでは、フウマは留守番である。
釧路川のダウンリバーは時間がかかりそうで、天気も悪いと言うのが理由だったが、その雰囲気を感じ取ったフウマは、朝から玄関ドアの前に座り込み、絶対にそこから動こうとしない。
餌で気を引き、一瞬のフウマの隙を突いて家から脱出した。
道東までは4DAYSチケットという高速道路の割引チケットを利用する。このチケットは、札幌から夕張までの往復、そして道東道全線4日間乗り放題を含んで3000円というものである。まともに往復するだけで7000円の料金がかかるのだから、かなりお得な割引制度だ。
高速道路を乗り継ぎ、12時前に足寄町に到着。
「まんぷく十勝」と言う雑誌を参考に、丸三真鍋に立ち寄って蕎麦を食べる。
松山千春のBGMが静かに店内に流れ、さすが足寄って雰囲気を感じさせてくれるが、肝心の蕎麦の味は可も無し不可も無しと言ったところだ。
この「まんぷく十勝」、十勝方面で遊ぶ時に持ち歩けば役に立つこと間違い無しである。
足寄から阿寒湖まではゆっくりと走って1時間。
空はどんよりと曇ってはいるものの、雌阿寒岳の頂上まで見通せることができる。我が家が訪れた中では、これでも一番天気に恵まれている方かもしれない。
阿寒湖の手前で白藤の滝に寄り道した。
森の中の細い砂利道を進むと10台ほどは駐められそうな砂利敷きの駐車場がある。そこから5分ほど山道を下ると白藤の滝にたどり着く。赤茶けた柱状節理の断崖から水が勢いよく流れ落ち、近くに寄ると水しぶきが飛んでくる。
岩の色と同じく、流れ落ちる水も茶褐色に濁っているので清涼感は今ひとつである。雨で増水している影響かとも思ったが、もともとそんな色をしているのがこの川の特徴らしい。
私たちが帰る頃には観光客らしい人も結構やって来た。手軽に自然のままの滝の姿を楽しめるので、人気のあるスポットなのだろう。
ところが、駐車場に戻ってきても我が家の車が1台止まっているだけだ。今の人達は歩いてここまでやって来たようである。
何でここまで入ってこないんだろう?不思議に思いながら林道を戻ると、その入り口の道路際に4、5台の車が駐車していた。
その車を見て納得。我が家の場合、藪の中を抜けるような道でも平気で車を乗り入れるが、そこに止まっているようなピカピカの車では、道路脇から小枝が1本飛び出しているだけでも、車で進むのを諦めてしまうのだろう。
午後2時前にキャンプ場に到着。
このキャンプ場は一度だけ下見で訪れたことがあり、見聞録のキャンプ場紹介にも載せている。その時のイメージでは、道路が直ぐ近くを通っていてその通行音は煩そうだが、サイト自体はトドマツややシラカバの樹木に囲まれ、然別湖のキャンプ場にその雰囲気は近いと感じていた。
管理棟で受付を済ませる。カウンターの上に「ペットはご遠慮下さい」の小さな立て札があったが、今回は人間だけのキャンプなのでそれも気にならない。
今回のキャンプは我が家のミニマム装備である。
二人でリュックを背負い、テントとタープを手に持って設営場所を探す。この装備なら、駐車場から遠く離れているサイトでも、さほど苦にはならない。
確か前回の下見の時は、一番奥のサイトが良い雰囲気だったはずだ。しかしそこは、道路とサイトを隔てる林が薄いので、車の姿が見えてしまう。道路と反対側も、高圧線の下に沿って樹木が皆伐されているので、歯抜けの森状態だ。
どうひいき目に見ても、然別湖のキャンプ場のイメージは何処にも感じられない。
かみさんが「オンネトーの方が良かったんじゃない?」とポツリと呟いた。
私も同じ気分だったが、それほどレベルの低いキャンプ場でもない。ここに絶対テントを張りたいと思わせるようなポイントは見つからなかったが、「まあ、ここでしょうがないっか〜」とかろうじて妥協できそうな場所を見つけて、そこにテントを設営することにする。
やや小高くなっているので、雨量が多くなっても浸水の心配は無さそうだ。雨に備えて久しぶりにタープも張った。最近は殆ど使用する機会のないタープなので、ペグの数がギリギリしか入っていなくてちょっと焦ってしまう。周りの立木を利用できなかったら、ペグが足りなくなるところだった。
ひとまず、雨をしのぐ一晩の住処が完成したので、阿寒湖の森を散策してみることにする。
この付近には、ホテルの宿泊者以外が無料で駐められる駐車場と言うものが見あたらない。410円を払って散策路入り口の有料駐車場に停めようと思ったら、受付のおばさんが車のダッシュボードに置いてあったキャンプ場での駐車証明書を見て、無料で駐めさせてくれた。
キャンプ場の駐車場も同じような有料駐車場になっているので、要はどちらかでお金を払えば済むらしい。
森の中の散策路へ足を踏み入れると、ようやく自分の落ち着くことのできる居場所を見つけたような気がしてホッとした。温泉街の喧噪もこの森の中までは届いてこない。
その散策路は小さな山を越えて湖岸の泥火山「ボッケ」まで続いている。「ボッケ」は観光名所の一つになっているが、このあたりの散策路を歩く人は殆どいないようだ。
途中、地元の人らしい老婦人とすれ違っただけである。
観光地の遊歩道だけあってサイン類もしっかりと整備されている。
エゾマツとトドマツの違い、凍裂したトドマツ、倒木更新等、本物の樹木を前にその説明がされているのでとても解りやすい。
散策路から少し脇にそれると、そこは落ち葉が積み重なってフカフカのクッションのようだ。コケに覆われて朽ちかけている倒木があるかと思えば、去年の台風で倒れたばかりのような新しい倒木も見受けられる。
その倒木の中の一つは地上数メートルの高さから見事に折れていて、その折れ口を見ると幹が完全に空洞になっていた。
自然の力と森の美しさに感動しながら歩いていると、聞き慣れない鳴き声に気が付いた。前を歩いていたかみさんが突然立ち止まる。
かみさんの指さす方向を見てみると、エゾリスがトドマツの幹に張り付いていた。慌ててカメラを取り出そうとすると、そんな人間の行為をあざ笑うかのように軽やかに幹を駆け上がっていってしまった。
やがて硫黄の臭いが漂ってきた。周りの樹木の種類も変わってカツラの巨木が目に付くようになる。
階段を下りていくとボッケに到着。泥の沼からボコボコと音を立てて泥が吹き上がっている。
確か中学生の頃の修学旅行でここを訪れているはずだが、そんな昔のことを思い出す訳もなく、初めて見る光景を素直に楽しんだ。
そこからは湖岸沿いの道を通って温泉街まで歩く。何故か観光客とは一人も出会わなかった。阿寒湖は今日も曇に覆われ、私の頭の中にあるイメージどおりの寒々とした風景である。
駐車場まで戻る途中にあるエコミュージアムにも寄ってみた。ここでは、展示フロアの床一面が阿寒湖周辺の航空写真でできているので、展示物よりそちらの方に興味を惹かれる。
その航空写真でキャンプ場の場所を見てみたら、道路と高圧線の伐採跡と駐車場に取り囲まれ、周りの原生林から切り離されてキャンプ場が孤立しているのが良く解った。
これだけ素晴らしい自然環境の中、一番つまらない場所にキャンプ場が作られているのが何とも勿体なく感じてしまう。
そこを出るとポツポツと雨が降り出してきた。覚悟はしていたものの、やっぱり雨を見ると気分も落ち込んでしまう。
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