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森の中での雪中キャンプ

白金いこいの森(3月5日〜6日)

 冬のキャンプと言えば、私の好みではオホーツクでの流氷キャンプが一番である。しかし、かみさんは「流氷はもうそろそろ良いんじゃない」などと言う。
 そのかみさんの好みは、朱鞠内湖でのワカサギ釣りキャンプである。これには私の方が「毎年毎年朱鞠内湖ばかりじゃな〜」と渋ってしまう。
 そこで今年は少し趣向を変えて、森の中での雪中キャンプにチャレンジしてみることにした。
 昔、流氷を見に行ったときに能取岬の森の中にテントを張ったことはあるが、これは私のイメージしている「森の中での雪中キャンプ」とはちょっと違っていた。そこは所謂雑木林、エゾマツやトドマツの見上げるような巨木、両手を廻しても届かないような太い白樺、そんな木々が生い茂るのが北海道の森である。
 その森の中で雪中キャンプをするのが、かなり以前から私の一つの夢となっていたが、先日訪れた旭岳の麓に、まさにこの夢を実現できる最高の森を発見した。いずれはここでもキャンプをしてみたいが、先々週に旭岳温泉の旅館に泊まったばかりで、同じ場所に続けて行くのはあまり気が乗らない。
 同じような雰囲気の森が美瑛町の白金温泉付近にもあるのは以前から知っていたので、今シーズン初の雪中キャンプの場所はここに決定した。
 実は、旭岳温泉の帰りにも立ち寄って下見は済ませてあったのだ。その下見の結果、ここの森は旭岳とは違ってマツが密集気味なのでテントを張れるような場所が無さそうだ、それならば少しでも森の雰囲気が味わえる白金野営場を利用しよう、と言う結論になった。
 天気が良ければ、サイトから直接十勝岳の姿も望めそうだし、最高のキャンプを楽しめそうだ。

 ところが土曜日の天気予報では2日間とも雪の予報が出ていた。おまけに朝起きたときから喉は痛いし、何となく体の節々も痛んで、私が熱を出すときの前兆現象に似ている。さすがにちょっと弱気になってしまったが、次第に札幌上空に青空が広がり、体調も回復してきたので、予定どおりに出発することにした。
 札幌が晴れていたとしても目的地の天候とは何の関係もないのだが、これはやっぱり気分の問題である。
 それに、深い森の中でシンシンと雪が降れば、それはそれで私の憧れのキャンプシーンの一つでもある。

除雪終点
  荷物満載のソリ
除雪終点   荷物満載のソリ

 美瑛駅前の「ラーメンのひまわり」でラーメンを食べて、1時半頃には現地に到着した。
 温泉街を通り過ぎてそのまま進み、道路の除雪が終わっている突き当たりの場所で車を停めて、後はそこから荷物を運ぶ。そのまま進めば、美瑛自然の村キャンプ場まで続く道である。
 今回のキャンプで一番気を使ったのは、何時も雪中キャンプの時に使っている荷物運搬用ソリに1回で積みきれる荷物に制限すると言うことである。それならば、車からかなり離れた場所でもテント設営が可能になるのだ。
 夫婦それぞれ新しいザックを購入したので、鍋、食器、食料品その他小物類はその中に詰め込む。ソリに乗せるのは、マット・シュラフ・衣類を入れた大型バッグにテント、シート類、小型テーブル2基、ガソリンランタン、愛犬用シュラフなど。
 ガソリンランタンはかさばるけれど、テント内の暖房として冬のキャンプには欠かせない。最近は雪中キャンプの時でも持ち歩くようになったキャンプ用椅子は、今回は諦めることにした。それでも結局、オーバーズボンやグローブ等を入れた小型バックはソリに積みきれず、手に持つことになってしまった。
 バッグパッカーになるのはまだまだ遠い先の話しである。
 スノーシューを履いてソリを引っ張る。道路の中央にはスノーモービルの通った跡が残っていたのでソリを引くのも楽である。
 野営場の入り口らしい場所は直ぐ近くに見える。ところが近づいてみると、建物のように見えたのは目の錯覚で、それはただの木の影だった。そんなことは大して気にもならず、真っ白な雪の中をひたすら先に進む。それでも、何か変だな〜という小さな不安が芽生えてきた。
 十勝岳は完全に雲の中に隠れてしまっているが、その付近ではかろうじて雲の切れ間から時々日が射してくるまずまずの天候だ。
橋を渡ってさらに奥へ。
 一歩進む毎に不安の芽も、歩みを合わせて大きくなってくる。
 絶対におかしい。もう5〜600mは確実に歩いている。白金野営場はこんなに奥までは入らないはずだ。荷物をそこに置いて、地図を確認しに私だけ車まで戻ることにした。車に戻って地図を見ると、何と、キャンプ場入り口は除雪してある道をもっとずーっと戻った場所に有ったのである。
 注意していれば直ぐに気が付くはずなのに、キャンプ場は除雪されていない道路の向こうにあると勝手に思いこんだいたのだ。
 再び荷物のところに戻って、同じ道をまた引き返す。体中、汗びっしょりである。
 何も無理してキャンプ場に泊まる必要もないだろう。そう思えてきた。

森への入り口
  森の中のサイト
この森の中にベストサイトが   森の中の開けた場所

 その付近の森は木の密度が濃すぎて、テントを張るにはあまり良い場所とは言えない。でも、それ以上前に進む気力は無くなってしまっていたので、進行方向を90度変更して、真っ直ぐに森の中に突っ込むことにした。
 すると、道路から少し入っただけの場所に、おあつらえ向けの小さな広場が現れた。針葉樹が周りを囲んで道路側からの視界は遮られ、日の光を遮らない程度の間隔でシラカバがポツポツと生えている。
 私が理想としていた森の中のキャンプサイトに限りなく近い場所だった。
 早速スノーシューで念入りに雪を踏み固める。気温は低いものの、それである程度は雪も固まりそうだ。能取岬の時は完全な乾いた粉雪で、いくら踏んでも全く固まらず苦労させられたことがある。
 朝日の昇る方向を確認してテントの向きを決める。冷え込んだ朝、森の中では僅かな日の光でも無駄にすることはできない。
 近くの枯れたマツの枝を折ってペグ代わりに利用する。表面がザラザラしているので、それほど締まっていない雪でも、手で差し込むだけで意外なほど効くのである。
 普段のキャンプと違って、雪中キャンプの時はテントを張り終えただけで嬉しくなってしまう。まさか飲む機会は無いだろうと思いながらも持参してきたビールは、マイナス5度の気温の中でもとっても美味しかった。
 夕方近くになると、粉雪が舞い始めた。
 かみさんがマツの枝を1本折って欲しいと言う。ほうき代わりに使うというのだ。枝1本くらいなら良いだろうと、太めの枝をナイフで切り取る。
 次第に降り方が強くなってきた。テントの入り口越しに見える雪の舞う森の風景がとても美しい。
 サラサラという雪の降る音も耳に心地良く聞こえてくる。
 その心地よさが、突然バサッ、バサッという不粋な音で破られてしまった。かみさんが、先ほどのマツの枝でテントに積もった雪を豪快に払い落としているのだ。
 入り口を閉めて、今度はメッシュの窓越しの風景を楽しむ。細かい雪なのでメッシュの窓からも、結構雪が入ってくる。
 そのメッシュの窓も直ぐに雪の花で塞がれてしまうので、雪を楽しむのはそれまでにした。
 一晩中このままの勢いで降り続けると、テントが潰れてしまうかも知れないと、今度はそれが心配になってきた。
 夕食はいつものキムチ鍋と、食後のワインの肴にはチーズフォンデュー。今回は椅子を持ってこなかったので、インナーテントの中で過ごして前室では火を使うだけだ。こんな使い方をするのならば、広すぎる前室部分はただの無駄なスペースになってしまう。
雪中キャンプ用の別のテントが欲しくなってしまった。
 夜中には雪も止んだので、今夜は安心して眠れそうだ。

雪の花
  夕食風景
メッシュの窓の雪の花   夕食風景

 深夜3時頃、何となく体の表面が冷たく感じて目が覚めた。温度計を見るとマイナス5度である。我が家のシュラフは快適睡眠温度域がマイナス4度まで、使用可能温度域がマイナス15度までとなっているので、まあこんなものだろう。
 隣で寝ている愛犬フウマも、寒さに耐えられないのか、やたらに寝返りをうっている。昔はも吹雪の中で真っ白になりながらも外で寝ていたのに、室内犬になってからはすっかり軟弱になってしまったみたいだ。そのうちに「私もダウンのシュラフが欲しい」なんて言い始めそうで、ちょっと怖い。
 明け方になると気温も少し上がったみたいである。
 テントを出てみると、新雪が10cmほど積もり、真っ白に雪化粧した森の木々達が我が家のテントを囲んでいた。
 キャンプをしているときに雪が積もったのは、11月の一番川で一度経験しただけで、雪中キャンプではこれが初めての体験である。
 一番川の時も感動したけれど、冬の森の中でのキャンプでこんな朝をむかえるのが私の夢だった。こんなキャンプができたらもう思い残すことはない、とまで言ったらちょっと大げさだろうか。

 朝のコーヒーを飲んで、森の中のスノーシュー散歩に出かける。
 道路へ出る私たちが付けた道の跡にはキツネの新しいフンが落ちていた。道路を挟んだ反対側の森は、そこら中がシカの足跡だらけである。折れて地上に落ちたマツの枝は、見事なまでにその樹皮を食い尽くされていた。
 獣道を辿りながら森の中を歩き回る。突然、キューンという鋭い鳴き声が森の中に響き渡った。エゾシカの警戒の声である。
 森の奥、木々の陰をゆっくりと横切るエゾシカの姿が目に入った。人の目をはばかる様子もなく国道沿いの牧草畑で群れをなしているエゾシカの姿には何も感動しないが、このような森の中で目撃するその姿には神々しささえも感じてしまう。
 野生の獣の臭いを感じるのか、フウマが風に向かって鼻をヒクヒクさせている。
 マツカサが鈴なりになっているマツの梢では、沢山の小鳥たちがその実を求めて飛び回っている。
 生き物たちをはぐくむこの森の素晴らしさに、改めて感動を覚えた。
 短足老犬のフウマが雪の中の散歩に疲れてきたようなので、テントまで戻ることにする。

雪の朝
  シカの住む森
雪の朝   シカの住む森

 朝食はキムチ鍋の残りで作った雑炊である。
 テントの入り口を全開にすると、その奥まで朝の光が差し込んで来る。森の中ではときおり木々の枝から雪が舞い落ち、その雪が太陽の光でキラキラと輝き何とも言えずに美しい光景だ。たまに強い風が吹いてくると、森の空間はその雪の耀きに埋め尽くされる。
朝のひととき ここまで期待したとおりの演出をされると、何だか申し訳ないような気分になってしまう。

 空は再び雲に覆われてきた。
 ちょうど良い潮時なのでそこで撤収することにする。全ての荷物をまとめてソリに積み込み、感動の森に別れを告げた。
 これでやっと暖かな車の中に入れると解っているフウマは、つい先ほどまでのヨレヨレの足取りがウソのように、先頭になって元気に駆けていく。本当に解りやすい犬である。
 車に戻って荷物を片づけていると、バスに乗った団体さんがやってきた。スノーシューで森を歩く体験ツアーのご一行のようだ。撤収がもう少し遅かったら、危うくこのツアーの皆さんの見せ物にされるところだった。
 帰りの温泉は、なりふり構わず一晩過ごした後のみすぼらしい姿のままで立派なホテルには入りたくないとかみさんが言うので、そのみすぼらしい姿でも安心して入れそうな銀瑛荘という旅館の日帰り入浴を利用する。
 風呂は貸し切り、小さな浴槽からは茶色く濁った源泉が惜しげもなく溢れ出し、そこに身を沈めると体の芯から温まることができた。

 私が夢に描いていた森の中での雪中キャンプは、まるでおとぎの国で一晩過ごしたような気持ちになれる最高のキャンプであった。

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