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積丹ブルーに染まった野塚キャンプ

道営野塚野営場(9月11日〜12日)

我が家の近く、ポプラの倒木 9月9日に北海道の西部をかすめて通り過ぎた台風18号の猛烈な風により、道内各地では未曾有と言って良いくらいの大被害が発生した。
 何十年もの間、風雪に耐え抜いてきた沢山の巨木が、たった一個の台風により根こそぎ倒されてしまう様は、何と表現したらいいのだろう。
 北海道の開拓の歴史が、こと樹木に関しては全てリセットされてしまったような気がする。
 北海道にこれだけ発達した台風が近づくのは、地球温暖化の影響が確実に出てきている証拠だと私は考えているのだけれど、そんな話はまだどこでも聞いたことがない。
 今回の台風をきっかけに、もう少しこの問題を真剣に考えるようにしたらどうだろうか。

 私の仕事も、この台風のおかげでかなり忙しいめにあっていたが、かろうじて週末だけは休めることになり、当初の予定通りキャンプへ出かけることにした。
 その場所は、前回の豊岡農村公園へ行った時から候補地の一つに上がっていた、積丹半島の野塚野営場である。
 かみさんは春先から、久しぶりに海キャンへ行きたいと騒いでいて、私も、海キャンをするならここしか無いだろうと考えていた。
 海水浴シーズンが終わった後でもトイレや水場が使えるような場所は、道内にそれほど多くはない。
 貴重な、春・秋シーズン向けの海辺のキャンプ場である。

 札幌から積丹までの道路沿いでも、至る所で樹木が倒れていて、道路側に倒れた樹木をチェーンソーで切断したような切り跡が生々しい。
 もっとも風が強まった9日の午前中は、道内各地の道路はどこもかしこも交通止めの状態だったのだろう。
 海岸まで出てくると、塩害のためか周辺の草木の葉は全て茶色に枯れあがり、晩秋の風景と勘違いしてしまいそうだ。
  昼頃には積丹の先端までやってきたので、積丹町日司の佐藤食堂で昼食を食べることにした。
 ここには佐藤食堂の他に中村屋とみさきという3店が軒を並べ、それぞれウニ丼ののぼりが立てられ、何処に入るか迷ってしまう。
 席に座ると、直ぐに店の女性が特製ウニ丼を勧めてきた。シーズン中は4000円以上もするエゾバフンウニのウニ丼が2500円ということでかなりお得である。
 あれ?ウニ漁ってもう終わったのでは?
 その女性の説明では、生け簀に入れてあったものだとか。
 せっかくの機会なのでそのウニ丼を注文した。私は実は、ウニ丼を食べるのがこれが初めてなのである。
 夏の北海道にやってくる大多数の旅行者は、「ウニ丼を食べること」がその目的の一つに入っているはずだ。特に積丹まで来る人ならば、「ウニ丼食べずに帰らりょか」の心境だろう。
 私の場合、ただウニが沢山乗っているだけのどんぶりを、高い金を払ってまで食べようと言う気にはなれなかったのだが、話のタネに一度くらいは食べてみなければと言う義務感に駆られて注文したのである。
 これがなかなか美味しかった。口の中でトロリととろけるウニの甘さは癖になりそうだ。
 でもやっぱり、北海道の庶民はイクラ丼で我慢するべきである。今時期ならば、千円も出せばスーパーで生筋子がたっぷりと手にはいる。ウニ丼なんてとんでもない。
 と言うことで、生ウニ丼を美味しそうに食べる私を横目でみながら、かみさんはイクラ丼を食べていたのである。

 腹ごしらえを終えたところで今回のキャンプでの目的の一つ、積丹岬の遊歩道へ出かけることにした。
 そこの駐車場の手前に積丹岬キャンプ場というのがあるが、このキャンプ場にだけは泊まる気がしない。島武意海岸の景勝地を訪れる観光客が常にキャンプサイトの前を車で通り過ぎるので、とてもじゃないがゆっくりとキャンプを楽しめるような場所ではないのだ。
 観光客がいなくなった遅い時間帯に一晩寝るだけの目的で利用するのならば、それなりの利用価値はあるかもしれない。そうして、朝早くに誰もいない積丹岬を堪能すれば良いだろう。
 駐車場に車を停めて、そこから真っ暗で頭をぶつけそうな細いトンネルを抜けると、突然目の前に素晴らしい絶景が現れる。初めてここを訪れたときは、その美しさに本当に感動したものである。
 その時は、トンネルの出口の展望台のような場所から景色を眺めただけだったが、今回は急な階段を海岸まで降りてみることにした。
 人がいなければ、そのまま海に飛び込みたくなるくらいに美しい海岸である。
 うっかりして、車から降りた後に愛犬フウマに水を飲ませるのを忘れていた。喉が渇いた状態で急な階段を下りさせられ、おまけに夏のような強い日差しが照りつけている。
 何のためらいもなく海の中に入ってその水を飲むフウマ。山や川を飽きるくらいに連れ回されているフウマだが、海の経験はそれほど多くない。 ウゲッと鳴いたかどうかは解らないが、困ったような顔でこちらを振り返った。
 可哀想なので、美しい海岸でのんびりと景色を楽しむ余裕もなく、直ぐにまた急な階段を上って駐車場まで引き返した。

 島武意海岸  島武意海岸でくつろぐ


 ペットボトルに入った水を用意して、あらためて積丹岬の遊歩道トレッキングに出発する。
 駐車場から暫くは、つまらないアスファルト舗装された急な上り坂が続く。気温もかなり上がっているみたいで、人間の方もまいりそうだった。
 灯台までたどり着くとようやく見晴らしも良くなり、積丹岬の美しい海岸美が一望に見渡せた。
 ここの遊歩道は林の中を歩くような雰囲気だと思っていたら、樹木はほとんど無く草原の中を歩くような感じだ。ススキに囲まれた遊歩道が秋を感じさせて心地良い。
 見晴らしは良いけれど、太陽の日差しがまともに照りつけてくるので、既にかなり汗をかいてきていた。
積丹岬トレイル 暑さに弱いフウマは、展望台の日陰で屍のように転がっている。フウマには可哀想だが、そこから続く気持ちの良さそうなトレイルを見ていると、そこで引き返す気にはなれなかった。
 フウマにペットボトルの水を飲ませて、再び歩き始める。
 コース上には下の海岸を見下ろせるポイントが所々にあるが、透明な積丹ブルーの海水を透して海底の様子がはっきりと覗けて、素晴らしい眺めだ。海中公園に指定されている訳が良く解った。
 灯台から30分ほど歩いて、最後のビューポイント「女郎小岩」を見下ろせる展望台に到着した。
 そこでもう一度フウマに水を飲ませようと、かみさんからペットボトルをもらおうとすると、「エッ、あなたが持ってたでしょ!」
 「何言ってるんだ、最初に水を飲ませた後は一度も持ち歩いてないぞ!」
 言い争いをする夫婦の横で、フウマは呆れた顔をして倒れ込んでしまった。
 帰り道は、ヨタヨタと歩くフウマを励ましながらの行程となったが、まもなくベンチの上にポツンと置かれたペットボトルを発見。
 このペンチって、俺が腰掛けていたやつかも・・・。
 とにかく、そこで水をたっぷりと飲んだフウマは再び元気に歩き出してくれた。
 これで周りに花でも咲いていれば、礼文島を歩いているのかと錯覚してしまいそうなくらい、楽しい道である。

 笠泊海岸  女郎小岩


 積丹岬散策を終えて、いよいよ野塚野営場へ向かう。
 ここでは、20年以上前に職場の仲間で夏の海キャンを楽しんだことがある。ロケット花火を打ち上げまくったり、近くの岩場で○ニを採りまくったりと、まあ若い頃には良くある話しだ。
 駐車場に車を入れると、そこにはサーファーの夫婦が一組いるだけでテントを張っているキャンパーは見あたらない。
 その先にも駐車場があり、そこの前には数組のキャンパーがテントを張っていた。そちらの方が、サイトの下地も芝が生えていて快適なように見える。
我が家のサイト 我が家の場合は、テントを張る場所の条件よりも、静かに過ごせるかどうかの方が重要なので、迷わずにこちら側にテントを張ることにした。
 せっかくの海キャンなので砂浜にテントを張りたい気もしたが、かみさんが嫌がるので駐車場近くの適当な場所を見つけてテントを設営する。
 砂地に雑草が生えたような感じで、ややデコボコの地面だ。ここのキャンプ場では、最初から快適なサイトなんか期待していないので、海さえ見えればどんな場所でも我慢できる。
 やや風が強かったが、夕方になればその風も治まるだろう。

 今日の夕食は炊き込みご飯にキムチ汁、その他に途中の店で食材を仕入れて酒の肴にするつもりだった。
 一息ついてから、買い出しに出かけることにする。
 果たして、ここの近くにそんな店なんかあるんだろうか?
 来る途中に余市の柿崎商店に寄ったので、そこで新鮮な海の幸でも買おうと思ったら、かみさんが「この先にも店があるからそこで買いましょう」と言うので、何も買わずに出てきたのだ。
 案の定、こんな漁港の集落に魚屋さんなどあるわけが無かった。
 「だから、柿崎商店で買っておけば良かっただろう!」
 「貴方だって、他の店で買うって言った時に反対しなかったでしょ!」
 まあいつもの事だけれど、どうも今回のキャンプでは喧嘩が多い。
 しょうがないので美国まで戻ることにする。
 発泡スチロールを店先に積み上げた小さな魚屋さんらしき店を見つけて、そこに入ってみる。夕方近いので商品は少なくなっていたが、朝イカとサンマ、それに一夜干しのイカも購入した。
 ウニとかエビとかも欲しかったが、これで何とか海キャンらしいものは食べられそうだ。

 キャンプ場に戻ってきた頃には、風も止んで、海の波も穏やかになっていた。
 ここでようやくビールをグイッとあおり、くつろぎタイムに入る事ができた。
 日は既にかなり傾いてきていて、これからが海キャンの一番良い時間帯だ。できればもう少し早い時間からこの体勢に入りたかった。まだ、心の準備が整っていないのである。
夕暮れの焚き火 戻ってきたときに、我が家のテントの直ぐ隣で若者グループがバーベキューの準備をしていてドキリとさせられたが、それほど騒がしいグループでも無かったのでホッとした。
 隣の駐車場側のサイトからは、バーベキューらしい煙が数ヶ所から静かに立ち上っている。
 近くの砂浜では日帰りキャンパーらしきグループが夕日を眺めてくつろいでいる。
 海キャンの夕暮れ時の、この何とも言えない気怠いような雰囲気が私は大好きである。
 やがて空が次第に赤く染まりはじめ、クライマックスが近づいてきた。
 カムイ岬のカムイ岩が夕日をバックにそのシルエットを浮かび上がらせている。そして真っ赤に燃え上がった夕日が、水平線の向こうにその姿を消した。
 用意しておいた薪に火を付け、夕食にする。
 日が沈んでしばらく経過したのに、西の空に浮かんだ雲は血のような赤い色をますます濃くしていた。
 やがて、その赤い雲の下に漁り火が灯りはじめる。
 赤い雲の色が闇に消える頃には、それに代わって満点の星が耀きはじめた。
 くっきりと流れる天の川、いつもはその中で簡単に見つける事のできる白鳥座だが、この日はその姿を確認するのにちょっと苦労してしまう。
 多すぎるくらいの星が輝いているせいだった。
 イカ刺し、イカ焼き、サンマの塩焼きを味わいながら、星降る夜のキャンプを満喫した。

 カムイ岬のシルエット  赤く染まる雲


 朝は、漁船が港へ戻ってくる音で目を覚ました。
 道路際のキャンプ場の割りには、夜間の車の通行音もそれほど気にはならず、ぐっすりと眠る事ができた。
 夜露も降りず、テントは乾いたままだ。朝起きてテントがびしょ濡れなのはあまり気持ちの良いものではないので、これは本当にありがたい。
積丹の朝 天気は快晴。ただ、朝日は裏の山陰から昇ってくるので、朝焼けの風景を楽しめないのはちょっと残念だ。
 夏の喧噪が過ぎ去った砂浜には、ひと夏分のゴミが散乱していそうなものだが、台風の大波が全てそれを洗い流してくれたのか、美しい砂浜が広がっている。
 そんな砂浜をそぞろ歩き、朝食を済ませて今日の目的地、キャンプ場からもその姿が見えるカムイ岬へ出かけることにする。
 観光客が押しかて来る前の、静かな時間に岬散策を楽しみたかったので、8時前には撤収を完了した。
 涼しかった朝の空気も、太陽の日差しが照りつけてくると、直ぐに夏の暑さに逆戻りした感じだ。暑さに弱いフウマには、またまた厳しい朝の散歩になりそうだ。

 カムイ岬の大きな駐車場も、さすがにこの時間帯では車が数台泊まっているだけだった。
 今回は絶対に忘れないようにと、水の入ったペットボトルを指さし確認して、駐車場から続く坂道を上りはじめる。
 最初だけは元気の良いフウマが、舗装された道を真っ先に駆け上がっていった。
 その坂を登り切ると、女人禁制と書かれた木製の小さな門があり、そこからがいよいよカムイ岬先端まで続く、絶景の道の始まりだ。
 私が、このカムイ岬の先端まで歩いたのは、それこそ30年近くも昔の話しである。そのころは、このような立派な駐車場や整備された散策路があるわけでもなく、もっと遠く離れた地点から海岸沿いに岩を乗り越えながら苦労して歩いたものだ。
 こんなことを書いていると、まるで老人の昔話のようで、自分の年を実感してしまう。
 現在は、両側をしっかりと木柵で囲まれた歩きやすい道ができているので、誰でも簡単に岬の先端までたどり着けるようになった。
 ただし、フウマにとってはそうでもなさそうだ。
 所々に、橋代わりにメッシュ状の鋼板が敷かれているところがあり、そこをフウマが渡るときは、四つ足を震わせ、踏ん張りながら歩くような状態だ。最初は何とか渡ったものの、次からはその上に乗ろうともしないので、その度に人間が抱っこしなければならない。
 両側には、まさに積丹ブルーの美しい海が広がっている。
 断崖絶壁の下を見下ろすと、青く透き通った海底の様子がくっきりと見える。玉石だらけの海岸を見ると、昔はあんな場所を良く歩いたものだと、我ながら感心してしまう。
 その場所をキタキツネが一匹、何の警戒心も持たずにのんびりと歩いていた。
 先端まで到着すると岩ツバメが向かえてくれた。
 その先の青い海の上にカムイ岩がそそり立っている。白い漁船が青い海の上に白い航跡そ描きながら通り過ぎて行く。
 疲れ切ったフウマは、岩の上が冷たくて気持ち良いのか、そこにバタンキューと倒れ込んだ。
 どこまでも続く青い空と青い海、体中で積丹満喫を満喫することができた初秋のキャンプだった。

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 カムイ岬、断崖の道  カムイ岬先端のカムイ岩

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