今回のキャンプは、カヌークラブの例会で湧別川の白滝村付近を下ることになっていたので、利用するキャンプ場も白滝高原キャンプ場と言うことになる。
ここには、以前に2回ほど泊まったことがあるが、隣接して新しくオートキャンプ場が作られたという話なので、その様子を見るのも楽しみだった。
あの場所に、一体どのようなキャンプ場が作られたのだろう。
オートキャンプ場というような名前は、絶対に似付かないような場所だ。最初にその話を聞いたときは、「白滝村よ、おまえもか」と言った気持ちになったものである。
そんな気持ちを抱きつつ、札幌を出発した。
旭川紋別自動車道が部分オープンして、道央自動車道から愛別まで一気に走ることができるようになった。
秋にはまた、上川町付近まで延長されるという話である。しかも暫定開通区間なので、無料で走ることができるというのも嬉しい。札幌からオホーツクへ出るまでの時間が、これでかなり短縮されることになり、遊びに出かけるときの行動範囲もぐっと広がりそうだ。
途中の浮島インターから白滝村までも旭川紋別自動車道が部分開通していて、ここも無料区間になっているが、それに乗ってしまうとキャンプ場までかなり逆戻りすることになるので、曲がりくねった国道の方を走ることにする。
キャンプ場に到着すると、昔からあるフリーサイト付近はすでにテントで一杯になっていた。クラブではそこにテントを張る予定になっていたのに、どうするんだろうと思いながら駐車場に車を入れると、ちょうどそこの前で先着したメンバーがビッグタープを建てているところだった。
そこは多目的広場になっていて、本来はテントを張れるところではないみたいだが、団体での利用と言うことで許可してもらったようである。
確かにこの方が、周りのキャンパーにそれほど迷惑をかけることも無さそうなので、好都合だ。
他のメンバーはそのビッグタープの周りに思い思いにテントを張っていたが、我が家はせっかくだから新しいオートサイトにテントを張ることにする。
そちらのテントはただのねぐらで、生活の場はこちらのビッグタープの下と言うことになるのだが、1000円余計に払ってでも新しいキャンプ場に足跡、いや、テント跡を残しておきたいのである。
先にサイトを決めるために場内をぐるりと回ってみた。夏の太陽がかんかんと照りつけているので、できるだけ日陰にテントを張りたい。
場内には木立が結構あるものの、その陰がサイトにかかっているような場所は見あたらない。しょうがないので、場内の一番奥のサイトに決定して受付へ向かう。
ここのオートキャンプ場は去年から完成していたようだが、今年のキャンピングガイドにはその紹介はまだ載っていなかった。
バンガローは別にして、元々がそれほどキャンパーの多い場所でもない。昨日まではほとんど利用者もいなかったのに、今日になって突然キャンパーが沢山やってきたと言って、受付のお姉さんがビックリしていた。
受付を済ませて、砂利道の通路を奥へと進む。
真新しいトイレと炊事場の建物が、新しく作られたオートキャンプ場という雰囲気を感じさせるが、草が伸び放題のサイトがそれを打ち消している。
こんな様子を見て、「草刈りもしないで、ひどいキャンプ場だ」なんて怒り出す人もいるかも知れない。でも、私にとっては、綺麗に刈り込まれた芝生よりも、こんな風景の方がずっと安らぎを感じるのである。
たったそれだけのことで、このキャンプ場がすっかり気に入ってしまった。
各サイトも、低木で仕切られただけで車の駐車スペースもない。この中をどうぞご自由にお使いくださいと言った感じだ。ここに車を停めて、ここにテントを張って、無理矢理、型にはめられたようなキャンプをさせられる他のオートキャンプ場と比べると、とても好感が持てる。
サイトの広さも申し分ない。
オートキャンプ場が作られても、白滝はやっぱり白滝のままでいてくれた。
サイトの地面は火山灰で、芝がまばらに生えているような状態だ。サイトによっては雑草の方が多いところもある。
カンカン照りの中でテントを張り終え、シュラフやマット類だけをその中に入れる。
広々としたサイトの隅っこに、ポツンとテントだけが張られた様子は、何となく殺風景に見えてしまう。今回は寝るためにしか使わないテントなので、まあしょうがないだろう。
クラブで張ったビッグタープまで戻り、そこに椅子やテーブル類を降ろした。木陰の中に入るとヒンヤリとした空気に包まれ、やっと落ち着くことができた。
そのまま木の下で、途中のコンビニで買った冷やし中華を食べる。
この日は午後から、明日の川下りのための下見をすることになっていた。
その下見の区間は、今回の例会の中ではチャレンジャーコースとして、自信のあるメンバーだけが下ることになっている場所である。
果たして、比較的初心者でもそのコースを下ることができるかどうか、その判断材料として危うく人身御供にされるところだった。
私はその人身御供の立場に一瞬魅力を感じてしまったのだが、かみさんの強い反対により、おとなしくカメラマンに徹することにする。
場所は湧別川の支流、支湧別川である。スタート地点の橋の上から皆のスタートを見送った。
くっきりと見える川底の石の綺麗なこと、でも、その先に見える岩や倒木のおかげで「俺も下れば良かったー」なんて考えは全く浮かんでこなかった。
皆の勇士を撮してあげようと、車を走らせながら川へ降りれそうな道を探していたが、直ぐに白滝村の市街地まで来てしまった。
このチャレンジャーコースは、その区間のほとんどが民家の直ぐ裏を流れるような感じなのだ。
適当な道を見つけて入っていく。高速道路下のボックスを抜けると、その道は茂みで行き止まりになっていた。
その茂みの向こうに、川が流れているようである。
藪をかき分けて川まで出てみると、「ゲッ、や、やっぱり下らなくて正解だったかも・・・」と思わせる流れがそこにはあった。
川幅が細く、岩がらみで、正面の崖に流れがもろにぶつかっている。
自分が下っていて、こんな場所に差し掛かったら、思わず顔が引きつってしまいそうだが、今回は気楽なカメラマン、面白い写真が撮れそうだと逆に、笑みが浮かんできた。
やがて、緑のジャングルの向こうからメンバーが下ってくるのが見えた。最初の方はベテランのメンバー、まるで問題なく皆スイスイと下っていく。
そして次に、私と一緒に入会した初心者メンバーがやってきた。
彼らは最近、一人乗りのカナディアンカヌー、いわゆるOC1と呼ばれるカヌーに乗り換えてきたのだ。
最初の頃は夫婦仲良く普通のカナディアンに乗っていたのに、次第にホワイトウォーターの魅力に取り憑かれ、奥さん子供を見捨てて、一人で川で遊んでいるのである。
そんな羨ましい、いや、憎らしい奴らには、是非とも豪快な沈をしてもらわなくては。
期待できそうなポイントにカメラを向ける。ところが、その期待もむなしく、ファインダーの中をSさんがスーッと通り過ぎていってしまった。
しょうがないので次の獲物にカメラを向ける。すると、突然ホイッスルの音が響いた。
「エッ?どうしたの?」
後ろを振り返ると、先ほど無事に通り過ぎたと思ったSさんが、その先の崖にしっかりと張り付いていたのだ。
「あ〜ん、シャッターチャンス逃しちゃった〜。」
結局その場所での沈は、それだけ。
そこから先はこの区間のクライマックス、函になっている部分だ。そこへ消えていくメンバーを見送って、次の撮影ポイントを探すために車に戻った。
脇道を探しながら、まちの中をゆっくりと移動する。
住宅地の直ぐ裏を流れている川なのに、川の中からは全くそれを感じないという話だ。たまに上を見上げると、はるか上の方に民家の一部が覗いているのでビックリするというのである。
ようやく川に出られそうな道を見つけて、そこに入っていくと、片側が護岸されてその脇を車が走れるようになっている場所があった。川を下っていて、初めて人工物を意識するような区間だろう。
そこに面白いポイントを発見!
かろうじてカヌーが1艇すり抜けれる程度の幅で落ち込みになっている箇所があった。我が家のカヌーならば絶対に通り抜けられないような狭さである。
またまた笑みが浮かんできた。ここなら、皆さん派手にやってくれるはずだ。
その瞬間を楽しみにしながら、のんびりとタバコをふかしていると、顔に冷たいものが当たった。陽は射しているものの、空を見上げると怪しげな雲が広がってきている。キャンプ場方向の空も霞んでいる。
「ゲゲッ、テントの中が蒸し風呂にならないように入り口とかを全て開けてきたんだ!」
一瞬迷ったが、たとえ降っても通り雨程度だろうと決めて、そこでもう少し待つことにした。なんと言っても、目の前で繰り広げられる沈シーンを見逃すわけにはいかないのだ。
やがて遠くにメンバーの姿が見えてきた。ちょうどその付近が函の出口になっているみたいだ。
ところが、そこに留まったまま全然下ってくる気配がない。痺れを切らしてそこまで行ってみると、先ほど沈シーンを撮影させてくれたSさんが、疲労困憊で遅れているとのことだった。
陸からは見えないこの函の中で、Sさんはどんな困難に遭遇していたのだろう。
しばらくして、ヨレヨレになったSさんが下ってきた。
「大丈夫ですかー、この先にはもっと面白い場所がが待ってますよー。」と励ましの声をかけて、カメラを抱えて急いで例のポイントまで戻った。
先にカヤックのベテランメンバーがそこに挑むが、皆、ものの見事にひっくり返されている。ただ、その下の波に揉まれながらも、平然とロールで起きあがってくるのだ。
もしも私がカヤックを始めたとしても、未だに逆上がりさえできないような運動音痴の私には絶対にエスキモーロールなんてマスターできないだろうと思えてしまう。
ちょうどその時、狭い道路に別の車が入ってきた。慌てて、自分の車を移動させていると、かみさんの「Sさん、凄〜い」という声が聞こえてきた。
「エッ、まさか!」
なんと、ベテランメンバーが全員ひっくり返されたその落ち込みを、Sさんはあっさりと下ってしまったのだ。
ここは素直に賞賛して、次の被写体を狙うことにする。
ところがである、後の2艇のOC1はあろう事か、その落ち込みの手前でカヌーを降りて、岩の上をズルズルとカヌーを引っ張って歩き始めたのだ。
沈シーンだけを楽しみに、こんな場所でひたすら待ち続けていたというのに、なんて礼儀知らずな奴らだ。
しょうがないので、その下に続く瀬を彼らが気持ち良さそうに下る姿をカメラに納めて、一足先にキャンプ場まで戻ることにした。
心配していた雨もそれほどひどくならずに上がったみたいだ。
キャンプ場へ続く真っ直ぐな道路に、周りに広がる畑の風景、これが白滝の景色だ!
思わず車を停めてカメラのシャッターを切った。
キャンプ場へ戻ると、留守番をしていてくれた方が、周りに置いてあった荷物を全てタープの中に片づけてくれていた。
我が家のテントも見に行ったが、外は濡れているものの、テントの中まで雨は入らなかったようである。
誰もいなかったオートサイトには、トレーラ2台とテントキャンパー3組が増えていたが、それでもがら空きの状態だ。
相変わらず、サイトの一番奥に我が家のテントだけがポツンと建っている。
また車でビッグタープのところに戻りながら、何でこんな離れた場所にテントを張ったんだろうとちょっと後悔してしまった。
それぞれが夕食の支度を始めた。メンバーの一人が大量にホタテと北海シマエビを持ってきてくれたので、遠慮なくそれをごちそうになる。
別の一人がダッチオーブンでで作ってくれた、丸ごとタマネギとベーコンの煮物も絶品である。一応、自分たち用の炭は熾したが、ほとんど他の人からのもらい物で腹が一杯になってしまった。
以前はこのような団体キャンプにはなかなか馴染めなかったのだが、最近はようやくマイペースで楽しめるようになってきた。
後は、調子に乗ってお酒を飲み過ぎないように自重しながら飲んでいれば良いだけだ。それほど酒に強い訳じゃないので、あまり飲み過ぎるとせっかくのキャンプの爽やかな朝が苦痛の朝になってしまうのである。
雷の音が聞こえてきた。
天気予報では夜にかけて天気が崩れるとのことだが、どうやら予報通りの天気になりそうだ。
そのうちにポツポツと雨が降り出した。日中のような通り雨でもなさそうである。皆、タープの下に避難し始めた。
モンベルのビッグタープであるが、さすがにその下に20人以上の人数が入ると椅子を並べる隙間さえ無いくらいだ。
雷と雨はますますその強さを増してきた。場内を真昼のような明るさに変える稲光、タープの縁からは滝のように水が流れ落ちてくる。そんな中、新たに到着する人もいたりして、ますますテントの中は窮屈になってきた。
雨具だけはなぜかテントの中に置いてきてしまったので、傘を借りてテントまで戻ることにした。
短パン姿のお父さんが、一生懸命スクリーンテントの中で荷物の片づけをしている。虫除けには効果抜群なスクリーンテントも、このような雨を防ぐには向いていないようだ。
我が家のテントはどうやら無事のようだ。下地が火山灰なので水はけも良く、テントの中にも水は流れ込んでいなかった。
それは良いのだが、バッグの中にはかみさんと息子が使っていた雨具しか入っていない。何で、何年もキャンプに来たことのない息子の雨具が入っていて、俺のが無いわけ?
まあ、文句を言ってもしょうがないので、息子が6年生の頃に来ていたつんつるてんの雨具を着込んでタープまで戻る。
すると、ちょうどもう一張りのビッグタープが張り終わったところだった。ところが、それを待っていたようにあれほど強く降っていた雨もピタリと止んでしまった。
それでも、これで椅子の間隔を広げてゆっくりと寛ぐことができる。
やがて、また雷の音が頭上に響きだした。そして、稲光に続いて猛烈な雨が降り始める。
楽しい夜である。できることならば、静かなキャンプ場でこの光と音と水の競演をゆっくりと楽しみたかった。人間の饗宴の方に気をとられてしまい、せっかくの目の前で繰り広げられている自然の猛威を楽しむ余裕が無いのである。
気が付くと時間は午前1時になっていた。最近のキャンプでの我が家の就寝時間午後9時を大幅に過ぎてしまっている。
饗宴はまだまだ続きそうな気配なので、宴の輪をそっと抜け出して、テントに戻ることにする。
雨と雷の音で、これならば深夜に場内を車で走っても迷惑をかけることは無さそうだ。砂利道をそろりそろりと車を走らせ、テントまでたどり着いた。
濡れた服を脱いで乾いたテントに潜り込むと、ホッとしてそのまま直ぐに眠ってしまった。
そんな時間に眠っても、朝は4時に目が覚めてしまう。このままでは寝不足になるので、もう少し眠ろうと努力するが、テントの中が朝の光に照らされ明るくなると、ついに我慢できなくなって一人で起きだすことにした。
テントの外に出てみると、東の空にわずかな雲の切れ目ができて、そこから少しだけ太陽が顔を出しているだけだった。
朝靄に包まれた高原の風景を期待していたのに、ちょっとがっかりである。イスもテーブルも全てビッグタープの方に置いてあるので、寛ぐ場所もない。
少し周りを歩いただけで、再びテントの中に潜り込んだ。
かみさんが寝付くことができたのは3時頃だという。それじゃあ、ほとんど寝ていないようなもので、今日のハードな川下りに対応できるのか、心配になってしまう。
それでも、再び太陽にテントを照らされると、かみさんもとうとう観念して起きることにしたみたいだ。
キャンプで遅い時間まで寝ていられ人が本当に羨ましい。
顔を洗ってビッグタープまで戻ると、既にほとんどの人が起きているのにビックリした。
かなり遅くまで、しかもかなりの量のお酒を飲んでいるはずなのに、なんて元気な人たちなんだろう。全く感心してしまう。
そのころには、爽やかな青空も広がり始め、快適な高原の朝となった。
それにしても、昨日の雨で川はかなり増水していそうだ。
果たして今日の川下りはどうなるのだろう。
上空の青空とは反対に、心の中には雨雲が浮かんでいた。
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