やがて見覚えのある岩肌が見えてきた。
前回の青山キャンプのこともあるので、もしかしたら先客がいるかもしれないと考えていたが、やはり今時期にこんなキャンプ場までやってくる物好きはいないようだ。
緑とロックの広場に到着、今回はテントを張る場所に迷うこともない。去年のうちからその場所はすでに決まっているのだ。
広々とした芝生広場からは一段低くなった、野外卓と野外炉がセットになった川沿いのサイトである。この場所が無ければ、それほどこのキャンプ場に泊まろうという気にはならなかったかもしれない。
しかし、いざテントを張ろうとすると、その周辺はかなりデコボコの地面で、かろうじて一カ所だけ平らな部分があった。
野外卓も、二つある内の一つは、周囲の地面が陥没してしまい傾きかけているような有様だ。
場内の草もかなり伸びてきており、炊事場やトイレ等の立派な施設が何となく浮いてしまって見える。
たぶん、最初にここが作られたときはかなり立派なキャンプ場だったのだろう。
去年の秋に訪れたときにも感じたのだが、ここには忘れ去られたキャンプ場という雰囲気が漂っている。
もっとも、こんな雰囲気は私は嫌いではない。
道内各地に次々と作られている立派なオートキャンプ場も、そのうちに利用者がいなくなってぺんぺん草でも生えるようになれば、廃墟の中でのキャンプといった風変わりなキャンプが楽しめるかも知れない
そうなれば、どんどん私好みのキャンプ場が増えてくるのにと、儚い願いを持っているのだが・・・。
隣に頑丈な野外卓があるおかげで、テント張り終えればそれだけで快適な生活スペースが完成だ。
キャンプ場の施設に多くは求めないが、この野外卓だけはもっと増やしてもらっても良い施設だと私は思っている。
テントの前に生える新緑の木々が、とても良い雰囲気だ。後ろを振り返ると、緑に包まれた景色の中でそこだけが赤茶けた色を晒している岩肌が、良いアクセントになって見える。
一息ついたところで、上大滝を見に行くことにする。
道路脇に車を止めて、急な階段を滝まで下りていくと、その途中にブナの巨木が生えている。去年の秋に来たときは、すでに葉を落としてしまい、丸裸のブナだったが、今日は美しい薄緑色の着物を羽織って出迎えてくれた。
雪解け水で水量を増した上大滝は、前回来たときよりも豪快に見える。
三脚にカメラをセットして、一生懸命ピントの調節などをやっていると、ブヨ集ってきて頭の周りを飛び回る。蚊とかブヨって、人が何かに集中しているときに限って、それを邪魔しにくる本当に憎らしい奴らである。
そこからの帰り道、何となく腕がかゆいなと思って見てみたら、二の腕部分が腫れて血が出ていた。長袖の上着を着ていたのに、知らないうちにブヨが潜り込んできたみたいだ。
今年のキャンプでの初虫さされだった。
それにしても風の強い日だ。周りを山に囲まれているのに、そんなことは関係なく風が吹き付けてくる。
風があるのと無いのとでは、気分的に全く違う。テントサイトでくつろいでハーッと大きくため息一つ、風が吹き付ける中では、なかなかそんな感じにはなれない。
前日まで雨が降っていたため、そこらで拾い集めた薪はかなり湿っている。
薪を探している時に、たまたま板状の着火剤が落ちているのを見つけた。たぶんそれは去年の秋からそこに落ちていたものだろうが、それでもまだ使えそうに見える。
試しに火を付けてみると、赤々とした炎をあげて燃え始めたので、すぐに小枝をその上に乗せた。一応自宅から乾いた薪も用意してきてたので、それを数本加えて後は場内で拾った湿った薪を乗せる。
これで立派なたき火の完成である。
するとかみさんが、バーベキューハウスの中で拾い集めた燃え残りの炭を持ってきた。燃え残りと言いながらも結構な量である。それをたき火の中に加えると、良い感じで火が熾きてきたので、ちょっと早いがそのまま焼き肉を始めることにする。
拾った着火剤に拾った薪と炭、貧乏くさい焼き肉だよなーと笑いながらも、使えるものは何でも利用するという我が家のリサイクル精神でバーベキューを楽しんだ。
肉を食べ終えると、そのまま薪を足して、今度はたき火タイムである。
ところが、ここの野外炉は横の煉瓦の部分が厚くて、せっかくのたき火の熱が遮られてしまい全然暖かくないのだ。しょうがないので、車からたき火台を降ろしてきて、そこに火を移した。
空を見上げると、細い月がカラマツ林のシルエットの向こうに沈もうとしている。
今日は曇りがちの天気だったが、いつの間にか空も晴れてきたようだ。
ここのキャンプ場は照明がやたらに明るい。我が家以外に誰もいないキャンプ場が煌々と照らされている様子はちょっと異様だ。
でも、この明るさが無かったとすれば、さすがにちょっと怖いかも知れない。遠くで聞き慣れない動物の鳴き声が響いた。
思わずかみさんと顔を見合わせ、「今の鳴き声って、キ、キツネよね」、「う、うん、そうだ、き、きっとキツネだよ」と、無理して心を落ち着かせた。
明るいわりには、空には結構な数の星が瞬いている。この照明が消えれば、凄い星空が広がっていそうだ。
星を観るために、明かりの届かないところまで歩いていくことにした。キャンプ場入り口の道を逆に進んでいくと、ようやく回りの木に光が遮られ星がよく見えるようになった。
真っ黒な木のシルエットに両側から挟まれたその隙間には、驚くくらいに美しい星空が伸びていた。然別湖で見た星空に匹敵するくらいの美しさだ。
その道をもっと奥まで進めば、もっと美しい星空が見られるかも知れない。ところがかみさんはそれ以上先に進もうとはしなかった。
その先に有るのは漆黒の暗闇、さすがに私も怖じ気づいて、その闇の中へ歩いていくことができず、あきらめてそこで引き返すことにする。
つくづくと、キャンプ場の全ての明かりを消すブレーカーがどこかに有れば良いのにと思ったものである。
その頃にはようやく昼間の風も治まり、最後の静かな焚き火を楽しんで、明日の川下りに備えて早めの眠りについた。
穏やかな朝だった。
薄い雲がかかっていたものの、次第にその雲も晴れて、朝の光が新緑をより一層美しく照らし出している。
ゆっくりと朝の一時を楽しみたかったが、前回に続いて今回も早めに出発しなければならない。
テントの結露を雑巾で拭き取りながら急いで乾かし、8時にはキャンプ場を出発して、川下りのスタート地点八雲町へと向かった。
最近は慌ただしいキャンプばかり続いているので、そろそろ同じ場所に2泊くらいする、ゆっくりとしたキャンプがしたくなってきた。
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