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虫の音に包まれたひつじの丘キャンプ

星に手のとどく丘キャンプ場(9月14日〜15日)

 インターネットでキャンプ場の検索をしている時に偶然目にした「星に手のとどく丘キャンプ場」という名前。
 「何これ?初めて聞く名前だなー、それにしてもネーミングがやたらストレート過ぎるかも。」
 興味が湧いてきて、さらに検索してみたら「北海道キャンピングガイド」を出版しているRISEのBBSでこのキャンプ場のオーナーの書き込みを発見した。
 「星を観せるキャンプ場なので真っ暗です。」
 そんな内容に興味が湧いてさらに調べたところ、そのキャンプ場の場所へ私は去年行っていたのである。
 その時の名前は「ラベンダー羊ヶ丘」、穴場のラベンダー園を探してここへ行ったのだが、ポニーがいたりジンキスカンを食べられるような食堂があったりと、想像していたのとはあまりにもイメージが違いすぎて、かみさんなんか駐車場に停めた車から降りようともしなかった。
 「エーッ、あそこか・・・」
去年のベベルイの丘 でも、そのあたりからみた丘の風景はとても印象に残っていた。その時に撮した丘の写真を改めて見てみたが、なかなか良い風景だ。その丘に沈む夕日もここのキャンプ場の売りになっているようだ。
 「星の見える」という部分にはそれほど興味は湧かなかったが、ここの丘に沈む夕日の光景はかなり魅力的だ。
 ホームページのBBSの中で早速ここを紹介したが、その時は、誰かここに泊まって感想でも聞かせて下さい、といった程度の考えしか持っていなかった。
 するとすぐに、このキャンプ場のオーナーからメールが届いた。ずいぶん反応が早いなーと思いながらメールを読むと、どうやらBBSの書き込みを見てメールをくれたわけではなさそうだ。凄い偶然だなーと思ってそのメールに返信すると、さらに丁寧なメールが返ってきた。
 こうなると、実際に泊まらないわけにはいかなくなってきた。
 ちょうど空知川での川下りの予定が入っていて、キャンプ場もそこからだと結構近くだ。ただ、前の週にキャンプへ行って、次の週もキャンプを予定しているので、川下りの日もキャンプへ行けば3週連続のキャンプになってしまう。
 最近はキャンプへ付いて来ることもなくなって何時も留守番をしている息子だが、さすがに3週連続で親だけが遊びまわっているのは子供にも良くないと、かみさんがかなり渋っていた。
 しょうがないので、次週のキャンプを中止するという条件でかみさんを納得させる。この次週のキャンプ、1日休みを取って2泊3日で然別湖北岸野営場へ行くというものだった。
 このキャンプ場は9月一杯でクローズしてしまうので、この機会を逃せばもう今年は泊まることができない。果たして、然別湖を犠牲にして行くだけの価値のあるキャンプ場なのだろうか。甚だ疑問には感じたが、オーナーから届いたメールにすっかり心を動かされてしまい、川下りが終わった後に星に手のとどく丘キャンプ場へ行くことが決定した。

 今回の川下り&キャンプでは台風が最大の問題だった。日本海を台風14号が北海道を目指して突き進んで来ているのである。
 幸い14日朝には北海道を通り過ぎる予報になっていたが、朝起きてみると猛烈な強風が吹き荒れていた。玄関前のフラワースタンドは強風でひっくり返って、せっかく大きく育った花がメチャクチャになっていた。
 そんな中を朝7時に札幌を出発。高速道路では強い横風を受けて、車の屋根に積んだカヌーが吹き飛ばされそうだ。ラジオからは、美笛キャンプ場で場内の樹木が倒れ、下敷きになった男性が意識不明の重体というニュースが流れてきた。
 とても他人事とは思えない衝撃的なニュースである。
 途中で弱まりつつあった風も、空知川の集合地点に着く頃には再び強くなってきていた。向かい風のため川下りも中止、ベテランメンバーは国体コースと呼ばれる部分だけを下ることになったが、川の水も増水していたため我が家は川下りを断念することになった。
 しょうがなく、キャンプ場に近い麓郷へドライブに行くことにした。麓郷へは黒板五郎の丸太小屋しか無かった頃に一度だけ行ったことがあるが、その頃はまだ観光客も少なかったような気がする。
 現在はどこへ行っても観光客で一杯だ。北の国からのドラマは大好きだったが、観光地化されたロケ地を観ることには大して興味がない。それでも時間をつぶすために、観光客と一緒になって一通りの観光スポットを見て回った。
 昼には、かみさんがテレビで紹介しているのを見たという麓郷のラーメン屋「とみ川」に入った。全ての食材を地元産のものにこだわっているという店だが、なかなか美味いラーメンである。特に炭火焼きチャーシューと煮たまごは、他では味わえないような美味しさだった。

キャンプ場入り口 遅い昼食を済ませていよいよキャンプ場に向かう。その頃には風も大分弱まり、キャンプには支障のないくらいになっていた。
 一年ぶりに訪れた羊ヶ丘はそのままの姿だった。木柵の中のポニー、手作り風のブランコに丸太で作った物置のような建物、奥に見える真新しいバンガローがなければ、とてもここがキャンプ場とは思えないだろう。
 受付らしい建物を探したが、そんなものはどこにもない。ジンギスカンを焼く臭いがあたりに漂っていた。
 その臭いの元である焼き肉ハウスのような建物に入ってみると、気さくな雰囲気の男性がこちらを振り返った。どうやらその人がメールをくれたここのオーナーのようだ。
 挨拶を交わしてキャンプの受付を済ませる。その後にわざわざサイトまで案内してくれた。
 一番奥にカラマツの林が広がり、それをバックに木の色もまだ鮮やかな4棟のバンガローが建っている。キャンプ場ははそのバンガローの前の牧草畑だ。
 牧草を刈った跡がテントサイトになっている。このやり方は音別町の個人経営のキャンプ場である「YAMANONAKAカムイミンタラ」と同じだ。
 車から降りるとうるさいくらいの虫の音に包まれた。周りの草の伸びた牧草畑の中から、コオロギやバッタの鳴き声が湧き上がるように響いてくる。
 これは嬉しかった。秋になって家の周りでカンタンが鳴き始めると、無性に虫の音に包まれた場所でキャンプをしたくなってくる。虫の音を聞きながらテントの中で眠るのが、私のささやかな夢なのだ。ところが、そんなキャンプ場は意外と少ない。思わぬ場所で願いが叶ったという感じである。
 サイトの中には石で囲んだ焚き火スペースの付いている場所が2カ所だけある。これも焚き火好きオーナーのこだわりということだ。
 焚き火スペースといっても、石を円く並べただけの簡易なもの。それでも、何処かから石を拾ってきて、それを一生懸命一人で並べているオーナーの姿を想像すると、とてもありがたく感じてしまう。
 我が家が選んだ場所の焚き火スペースは、本当にただ石が並んでいるだけで、その中央は草が伸びたままだ。それが完成して以来、我が家が最初の利用者ということになるのだろう。
ベベルイの丘の眺め テントを建てていると、可愛らしい顔のコオロギがその上に這い上がってきた。
 設営を終えてゆったりとくつろぎ、改めてそこからの風景に目をやった。このキャンプ場ご自慢のベベルイの丘が目の前に広がる。丘を眺めるのに目障りかもしれないと考えていたバーベキューハウスなどの建物も、妙にその風景の中にとけ込んでいる。
 キャンプ場を作る場所を探すために道内を見て回っていたオーナーが、一番気に入った風景というだけのことはある。
 虫の声に混じって、ここで飼われている羊の鳴き声が聞こえてきた。
 とてものどかな時間だ。

 まだ時間も早いので、そこから見える丘まで行ってみることにした。
 丘の上に続く道を車で一気に上りきる。そしてそこから振り返ると、素晴らしい風景に息を呑んだ。
丘の上からの眺め 丘の斜面一杯に広がるパッチワークのような畑、そこにアクセントを添えるポプラ並木、雄大な十勝岳連峰の裾野の森に張り付くように、キャンプ場の姿が小さく見えた。
 一週間前には美瑛の丘のドライブを楽しんできたばかりだが、ここから見る風景はそれに勝るとも劣らないものだった。
 丘を降りてキャンプ場に戻ってくると、二組のファミリーがバンガローに到着していた。
 子供達が楽しそうに牧草畑の中を走り回っている。コオロギを捕まえたりして、本当に楽しそうだ。
 それを見ていると、我が家も虫かごを用意してくれば良かった、なんて本気で考えてしまう。
 我が家の周りにはカンタンは沢山いるが、何故かコオロギは全然いないのだ。ここで沢山捕まえて持って帰り、それを家の周りに放せば、繁殖してくれるかもしれない・・・。
 あー、虫かご持ってくれば良かったー。

 次第に雲が広がってきて、残念ながら今日はベベルイの丘に沈む夕日を楽しむことはできなさそうだ。
 オーナーがやって来て、各キャンパーにミニコン一杯の薪をサービスしてくれた。
 これは嬉しい。一応家から薪は用意してきてはいたが、付近では薪を拾えそうな場所もなく、せっかく直火で焚き火を楽しめる場所なのに、このままではみみっちい焚き火しかできないところだった。
 おかげで、薪の残りに気を使うようなこともなく、心おきなく焚き火を楽しむことができそうだ。
 今日の夕食は家であらかじめ作ってきたカレーを温めるだけという、超手抜きメニューである。本来ならば、空知川の激流でもみくちゃになり、キャンプ場へ着いてからはとても夕食の準備なんかしていられない、という状況になるはずだったのである。
焚き火 夕食を終えて、いよいよお待ちかねの焚き火タイム。まずはその前にトイレを済ませ、万全の体勢で焚き火に着火することにしよう。
 と、ところが・・・。
 トイレから戻ってくると、かみさんが勝手に火を付けて既に焚き火を始めてしまっていた。
 そ、そんなー。せっかく、まだ誰にも使われていなかった焚き火スペースの、記念すべき最初の火入れの儀式を自分でやろうと思っていたのに・・・。
 「だって、早く焚き火したかったんだもん。」
 私よりも焚き火好きな妻なので、本当に困ったものである。
 バンガローに泊まっているファミリーの子供達は、異常なほどにハイテンションになっている。虫の声を聞きながら静かに焚き火を、なんて思っていたのに、子供達の叫び声に虫たちも驚いているみたいだ。
 空を見上げると雲の切れ間に、星が一つだけ瞬いているのが見えた。
 「星に手のとどく丘」というキャンプ場の名前に、最初は少し違和感を抱いていた。富良野の市街地からそれほど離れているわけでもなく、この場所でそんなに素晴らしい星空が楽しめるはずはない、そう思っていたのである。
 「星空を観せるために場内には照明は一切ありません。」
 オーナーの考えはまさにその通りだった。遅い到着のお客さんがあったみたいで、バーベキューハウスの窓から明かりが漏れているが、それ以外は本当に真っ暗だ。
 バンガローのファミリーが煌々とランタンを灯しているが、それがなければ真の闇が広がるはずだ。
 気になっていた街の明かりも、丘の切れ間に遠くの中富良野の街の灯が見える程度で、背後に迫る十勝岳連峰側には遥か彼方まで人工の明かりは一切無いはずである。空の暗さも一級品だ。
 これならば、月明かりのない晴れた夜にここに泊まれば、本当に星に手が届くかもしれない。

 静かに焚き火を楽しんでいると、オーナーが遊びに来てくれた。
 チロチロと燃える焚き火を囲んで、7年前から自分でキャンプ場を作ろうと考え道内を歩いて廻った話しなどを聞かせてもらう。
 私も一時期、どうせならば自分で本当に好きなキャンプ場を作ってみたいなんて考えたこともあるので、彼の考えがとても良く理解できる。私はそれがただの漠然とした夢だったが、それを実行に移してしまう行動力には敬服してしまう。
 本当にキャンプ好きな人間と話していると、とても楽しい。「星を観るのには焚き火の明かりも邪魔になるんですよねー」という彼の言葉を聞くと、キャンプが大好きなことが良く解る。
 キャンプ場を作ったおかげで、大好きなキャンプへ行けなくなってしまったという話しには思わず笑ってしまった。
月の夜 いつの間にかバンガローのファミリーも静かになっていた。二組のうちの一家族は、今回が初めてのキャンプだったということだ。それを聞くと、子供達の異常な盛り上がりようも良く理解できた。
 きっと楽しくてしょうがなかったのだろう。初めてのキャンプでこんな場所に泊まったら、彼らもキャンプ大好きファミリーになってしまうのだろう。
 空の雲はいつの間にか晴れて、カラマツ林の黒いシルエットの向こうから満月を少し過ぎた月が昇ってきた。明るい空の中で、火星も負けないくらいに光を放っている。
 真っ暗闇の中で、バンガローの窓から漏れる明かりだけがポッカリと浮かび上がり、おとぎ話の世界のようだ。
 オーナーの自宅は丘を下ったところにあるということだが、キャンパーがいる時は一緒にキャンプ場で夜を明かすということだ。
 今日はバンガローが1棟空いているのでそこで寝れるが、空きがなければ車の中しか眠れる場所がない。オーナー稼業も楽では無いようだ。
 さあ、今夜は虫の声を聞きながらテントの中で眠れるぞ。
 期待しながらシュラフの中に潜り込んだが、すぐに眠ってしまい結局虫の音なんか全然楽しむ時間など無かったのである。

キャンプ場の朝 丘の朝の空気はとても美味しかった。
 羊たちに朝の挨拶をする。何故か羊たちは訴えるような目で私たちを見ていた。どうやら餌をねだっているようだ。
 近くの箱にドッグフードのような餌が置いてあり、一袋100円で自由に買えるようになっている。面白そうだからと、かみさんがそれを買ってお椀のような入れ物に入れて羊の前に差し出した。
 すると、柵を乗り越えそうな勢いで羊たちが群がってきて、必死になってその餌を食べようとする。まるでピラニアのいる川に肉を放り込んだような状況だ。ビックリしてパニックになっているかみさんの様子がやたらに面白い。
 既に刈り取られた後のラベンダー畑からは、ほのかな香りが漂っている。そのラベンダー畑の横は雑草に覆われていたが、良く見るとそこにも小さなラベンダーが植わさっていた。
 忙しくて草を取るヒマもないとオーナーがぼやいていたが、キャンプ場の土地を手に入れたと思ったら、一緒にラベンダー畑、羊やポニー、焼き肉ハウスまで一緒に付いてきて、それらの世話までしなくてはならず本当に大変そうだ。
 真新しい小綺麗なトイレも、電源コードは隣の倉庫から地面を這わして引いてきているだけ。
 オートサイトももっと増やしたいということだし、まだまだやることは一杯ある。忙しく動き回るオーナーの姿がとても楽しそうに見えた。

 一年中色々なキャンプ場へ出かけ、そのキャンプ場によって全く違った時間を楽しむことができる。
 ここ「星に手のとどく丘キャンプ場」でのキャンプも、これまで感じたことの無いような、ほのぼのとした優しい気持ちになれるキャンプだった。
 次回こそ、満天の星空の下でここにテントを張ってみたいものだ。


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