見聞録のBBSでの書き込み、そのタイトルは「ぜぇーったい見るぞ流れ星!!」。
ずいぶん気合いが入ってるなー、なんて思いながら微笑ましくその書き込みを読んでいたが、「まてよ、俺って星空キャンプのページで8月13日を流れ星キャンプのおすすめ日って煽っておいて、自分では1回もこの日の流れ星を見たことが無いんじゃないの?」と、自虐の念に捕らわれてしまった。
この日のペルセウス座流星群は、初冬のふたご座流星群と並んで、一年の中でもっとも活発に活動する流星群として知られている。
特にペルセウス座流星群の方は子供達の夏休み時期とも重なり、夏のキャンプ最大の楽しみの一つと言って良いだろう。
しかし、如何せん私の場合、この時期にキャンプへ行くこと自体が無いし、大体は田舎へ帰って親孝行というパターンだ。夜になっても、ビールで酔っぱらってしまっているので、外でゆっくり流れ星でもといった優雅な気持ちには全くなれない。
こんな事で良いのかー!
自分の目で一度は確かめておかなくては、ホームページの中で紹介する資格はない!
強い衝動に駆られ、急遽お盆キャンプの決行を決めたのであった。(本当は、ただキャンプへ行きたい虫が騒ぎ出しただけの話しなのだが。)
とは言っても、さすがにこの時期の混雑しているキャンプ場へ行く気にはならない。
もしかしたら、ここならば空いているかも知れない。そんな勝算が有ったので、突然のキャンプ決行となったのである。
そのキャンプ場は青山農場キャンプ場。これも最近の見聞録BBSで仕入れた情報である。
何となくその存在は知っていたが、あらためてその話を聞くと、ここは完全に盲点になっていたことに気が付いた。
考えてみると、すぐ近くには一番川などの人気キャンプ場があって、わざわざこんな何もないところに泊まるキャンパーなんてそんなにいるはずがない。それに札幌からも1時間有れば着いてしまうような便利さ。それでいて周りには人家がほとんど無いような山奥に位置している。
その書き込みを見た時、何時かは泊まってみようと思ったが、そのチャンスはすぐにやって来たのである。
お盆休みは15日しかとらない予定だったが、13日午後からならば何とか休めそうだ。
前日になって恐る恐るかみさんにお伺いをたてる。
「明日は午後から休んで、流れ星を見にキャンプへ行くぞー!」、今回は何時になく強気に切り出してみた。
「何言い出すのよ、突然。何処に行っても混んでるだけじゃない!」
「あっ、いやっ、も、もしかしたら空いてるかも知れないキャンプ場があって、そ、それに天気悪かったら行かないこともあるし・・・」
「それじゃあ、明日のお弁当はどうするの!」
「あ、そ、そのー、もしかしたら行かないってこともあったりするので、で、できれば作ってもらえれば嬉しかったりして・・・」
最終的に反対されないことは解っているのだが、突然のキャンプの話を提案する時は何時も緊張するのである。
当日はまずまずの天気、朝から曇り空だったが午後からは晴れてくるとの予報。翌日は曇りマークになっていたが、夜にさえ晴れてくれれば今回のキャンプの目的は達成される。
流れ星だけを目的にしているので、出発も午後の3時とかなりゆっくりである。
ここのキャンプ場についてインターネットで検索してみたが、ヒットするのは様々なグループのオフ会の話だけである。つまり、普段は利用者が少ないので仲間内だけで盛り上がるにはちょうど良いキャンプ場、と言うことになるのだろう。
心配なのは、そんなグループのオフ会にぶつかってしまわないだろうかと言うことだけだった。
北に走るにしたがって次第に天気も良くなってきた。
道民の森に続く道だが、ここを走るのは本当に久しぶりだ。最後に一番川のキャンプ場に泊まったのは6年前だから、それ以来になる。
一番川キャンプ場への曲がり道を過ぎてしばらくするとコープ札幌指定農場の看板を見つけ、そこから砂利道へ入った。
この道で良いんだよなー、と思いながら坂道を登ると突然立派な建物が目の前に現れた。何でこんな場所にこんな施設が?と言った印象である。
ふと横に目をやると、テントが一張り張られていた。ただの牧草地の一角、テントがなければそこがキャンプサイトであることに気が付かなかったかも知れない。
もっとも、立派な炊事場とトイレが有るので見ればすぐに判るのだが。
その一張りのテントはファミリーキャンパーのものだった。団体キャンパーがいなくてホッとしたが、まさかこんな場所にファミリーキャンパーがいるとも思ってなかったのでちょっとビックリである。
草深いに場内に車を乗り入れる。
何本かのタイヤの跡が草の中に残っていた。その跡から想像しても、最近の利用者はごく僅かな数なのだろう。
先客に敬意を払って、彼らとは反対側の一番奥に車を進めると、そこだけ草が短くなっているテントを張るのにちょうど良い場所があった。
車から降りてみると、遠くの山まで見渡せてなかなか眺めの良い場所である。それほどパッとしない場所を想像していたので、これは思わぬめっけものである。
ただ、車から荷物を下ろし始めると、アブの手荒い歓迎を受けてしまった。何故かアブ達は車に向かって体当たりをするようにぶつかってくるのである。
普通のアブに混ざって、一見スズメバチのような巨大なウシアカアブも飛んでくるので、これははっきり言って恐怖である。でも何故か、彼らの標的は車だけみたいで、人間にはそれほど興味を示さないみたいだ。
テントを張り終える頃にはアブ達の攻撃も止んだみたいだ。
ホッと一息ついてビールで乾杯、改めてあたりを見渡すと 、我が家のサイトのすぐ前にはチモシーの穂が風に揺れる牧草畑が広がり、真っ青な青空の下とんぼ達が優雅に舞っている。横の草むらからは虫の鳴き声も聞こえてきて、気分はまるで秋の高原キャンプである。
その後、他のキャンパーがやって来る気配もない。お盆休みが始まったこの時期、多分他のキャンプ場は何処へ行っても超満員のはずである。
それなのにここは一体何なんだ。こんなに快適なキャンプ場にキャンパーは2組だけ、前回の朱鞠内湖キャンプに引き続き、またしてもキツネにつままれたような感じだ。
草むらの向こうに見える牧場の堆肥舎のような屋根と、隣りにそびえ立つ場違いのようなな立派な建物が気になるが、久しぶりに見る抜けるような青空がそんなことを忘れさせてくれる。
後でそれらの建物を調べてみたら、堆肥舎だと思ったのは牧場の倉庫、それも壁ははがれ落ち、中にはしばらく使われていないような機械類が転がっていた。
立派な建物の方も、窓には板が打ちつけられ、しばらく前から使われていないような雰囲気だ。その奥にある牛舎には牛が数頭飼われていたので、牧場としての機能はまだ残っているようだ。
それでも、何となく打ち捨てられたような感じがする場所で、宮崎駿の映画のワンシーンに出てきそうな気がした。
しばし牧草畑の中に寝転がったりしながら、トンボをカメラで追い回した。
西日に照らされたススキの穂が青空を背景にキラキラと光っている。
愛犬フウマも、チモシーの穂の中を短い足でピョンピョンとうさぎのように飛び跳ねながら走り回り、とっても楽しそうだ。
人も犬も心が洗われるような気分である。
バーベキューを楽しんでいるうちに、日も沈んであたりは次第に暗くなってきた。
今回は自宅から薪を用意してきていたので、焚き火台を使って焚き火をはじめることにする。
ふと空を見上げると、天頂に星がポツンと光っていた。「一番星みーっけ!」
でも、良く見ると何となく動いているみたいだ。「なーんだ、人工衛星か!ずいぶん明るい人工衛星だなー。」
それを見ていた妻が、「ちょっと動き方が変じゃない・・・。」
確かに、スーッと動いていた光が突然止まり、しばらくそのまま動かずにいたかと思うと急に左右に揺れたり、後ろに戻ったり。
こ、これは!もしかして・・・。天頂で不思議な動きをする光、超常現象を目撃しているのだろうか。
興奮しながら空を見上げていたが、次第に冷静さを取り戻してくると、ちょっとあることが気になった。この光って本当に動いているの?試しに固定されたテントのポール越しにその光を見上げてみたが、どうも動いているようには見えない。
妻も同意見だった。「他の星も同じように見えるわよ。」
何のことはない、上空の空気の揺らぎで星が動いているように見えただけみたいだ。それとも、二人してビールで酔っぱらってふらついていただけなのだろうか。
そんなちょっとした騒ぎが落ち着いたころ、空は暗さを増してはくちょう座の姿がはっきりとしてきた。先ほどの騒ぎの原因になった光は、こと座のベガだった。
ランタンの灯を消して、そろそろ本格的に流れ星観測をすることにした。このために、今回はサマーベッドを用意してきたのだ。
海水浴へ行かなくなってからは、しばらく物置の中で埃にまみれていたサマーベッド、久しぶりに役にたってくれそうだ。ところが、いざその上に寝転がろうとすると、表面が水滴だらけになっていた。いつの間にか夜露が降りはじめたみたいだ。
しょうがないので、上下とも雨具を着込んでその上に横になる。やっぱり流れ星観測には、この体勢がベストだ。
でも、思っていたほど星が流れてくれない。専門のサイトで調べたところでは、ピーク時には1時間で50〜70個の星が流れると載っていたのだが。
その時妻が、「あっ、流れた!」と声を上げた。ムムッ、またしても先を越された。いつものことだが、かみさんの方が不思議と流れ星を沢山見るのだ。
またしても妻が声を上げた。「あっ、また流れた!今の見えなかったの?」
どうやら流れ星は低い位置に出現しているみたいだ。サマーベッドに寝転がって真上を見上げている私の視野に、低い位置の流れ星は入ってこない。
次第に東の空が明るくなってきて、十六夜の月が昇ってきた。空が明るくなる前に、何とかして流れ星を見なくては。
焦って空を見上げていても、時々目の錯覚かと思えるくらいの流れ星が一瞬視界をかすめるだけだ。
月明かりがなければ、そんな流れ星もはっきりと見えるのかもしれない。恨めしく思って月の方に目をやると、夜空にくっきりと浮かび上がる月の横に赤い星が寄り添うように光っていた。
火星だ!今月の27日に何万年ぶりかで地球に大接近するという火星が、月の明かりに負けないくらいに光を放っている。
火星大接近の話はテレビや新聞の記事で目にするくらいで、最近はその姿を実際には見ていなかった。大接近と言っても、普通の星がちょっと明るく見える程度だろうと、正直言ってそれほど期待している天体イベントでは無かったのである。
ところがその火星、空全体の星々が月の明かりに遮られてその姿を消していく中で、満月1日過ぎの明るい月のすぐ隣りに浮かびながら、堂々とした姿を誇示していた。
そんな姿に感動して、夢中でカメラを向けていると、私の変わりにサマーベッドに寝転がった妻が、「あっ、また流れたわよ!」と声を上げている。
ちょっと焦りを感じたが、この月と火星の並びあった姿も今しか見られないものだ。しっかりとカメラと目に焼き付けた。
満足して、ようやく流れ星の方に視線を集中する。しばらくして、ようやく北斗七星を切り裂くように流れた流れ星を発見。とりあえずはこれで一応の目的は達成だ。
あたりにはいつの間にか霧が出ていた。気温もかなり下がってきているようだ。長袖シャツの上にトレーナーを重ね着して、その上にレインウェアーを着てかろうじて寒さをしのげる状態、温度計を見ると10度まで下がっていた。とても夏真っ盛りのキャンプとは思えない。
サイトの草も夜露に濡れて、トイレまで歩くだけで足がびしょ濡れになってしまう。幸いゴアテックス製の靴を履いていたので何とかなったが、普通のスニーカーを履いてきていたら悲惨な状態になっていたかも知れない。
あたりは月明かりに照らされとても明るい。そんな中を霧が静かに流れ、とても幻想的な風景だ。
月に火星に流れ星、とても充実した時間を過ごしてテントの中に潜り込んだ。
久しぶりに、キャンプでぐっすりと眠って、目を覚ますとテントの中が既に明るくなっていた。
テントから出てみると、朝靄をついて太陽の光があたりを照らしていた。
草に付いた水滴がキラキラと光り輝いている。
キャンプのこんな朝が大好きだ。
朝靄に霞む風景を楽しみながら、朝のコーヒーを味わった。
テントに付いた水滴を拭き取って、それが乾くまでそこら辺を散歩する。
牧場の中に続く1本の砂利道、道ばたにはススキがたなびき、オオハンゴソウの黄色い花が一瞬の華やかさを演出している。
他にも名も知らぬ花々がひっそりと草陰に花を咲かせ、彩りを添えていた。
子供の頃は何時もこんな景色の中を歩いていたような気がする。
妙に懐かしさを感じる青山の風景だ。
テントサイトまで戻ってくると、コープクリナーズと車体に書いた車が近づいてきた。
後30分遅くやってきてくれたら帰ってしまっていたのになー、なんて考えながら二人分の料金600円を気持ちよく支払った。
立派な水場と水洗トイレがあって、オートキャンプもできるこのキャンプ場、草は伸び放題、トイレの中も虫だらけではあるが、とてもリラックスできるキャンプ場だ。
満ち足りた気分で、そろそろお盆の渋滞が始まる時間の札幌へと戻ることにした。
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