今年のゴールデンウィークはカタクリの花を見に北へ行ってみよう。
何気なくそんなことを考えながら、GW前半は我が家の普段の行動からは考えられないような温泉1泊旅行と言うものだった。
職場でもらえる2万5千円分の利用券の期限が4月30日に迫っていて、無駄にするのも勿体ないので無理やり温泉に泊まることにした。
いつもの年ならば3月に温泉旅行へ行くのが恒例なのだが、今年の3月はキャンプで忙しかったものでついつい延び延びになってしまったのだ。
その温泉の帰り道、カタクリ前哨戦としてニセコ町の桜が丘公園に寄ってみた。
この場所はインターネットでカタクリの咲く場所として知ったのだが、実際に行ってみてその素晴らしさに圧倒されてしまった。
公園の斜面全てにカタクリやエゾエンゴサクが咲き乱れる光景は、まさに圧巻である。軽い前哨戦のつもりが、最初からメインイベントを見てしまった感じだ。
キャンプ場の候補地としては和寒南丘森林公園キャンプ場を考えていた。
ここはかなり以前から気になっていたキャンプ場で、ガイドブックの写真を見るとなかなか雰囲気も良く、おまけに和寒町の市の花はカタクリと言うことで、まさに今回のキャンプにはおあつらえ向きのキャンプ場だった。
ここに泊まるのならば是非カヌーも楽しみたいところだ。
ところが例によってキャンプ場ガイドブックにはペット禁止と書かれている。いつもならば、シーズンが始まったばかりのこの時期、そんなことは気にしないでぶっつけ本番で出かけるのだが、わざわざカヌーを持っていて泊まれないのもちょっと困る。
現地管理棟にはなかなか電話が通じないので、軽い確認の気持ちで和寒町役場の方に電話を入れてみた。
すると、5日に湖水開きを予定しているがキャンプ場にはまだ雪が残っているとのこと、「雪なんか気にしませんがペットを連れているのですが泊まらせてもらえますか?」と聞いたところ、ペットはダメですとのつれない返事。
エッ?、雪が残っていて泊まれるかどうか解らない状態だというのに、ペットがいたらそれだけで泊まれないの?
まあ、相手がお役所なのでそんな返事が返ってくることは想像がついていた。
再度現地管理棟へ電話を入れて確認する。大体が現場では臨機応変に対応してくれるものだ。しかしそこでも、ペット禁止は決まっていることだからねーとの返事だった。
ペット連れキャンパーの宿命だが、こんな対応をされるたびに本当に悲しくなってしまい、キャンプそのものが嫌いになりそうなことが良くある。
こんなキャンプ場、二度と行くもんか。気を取り直して、カタクリの咲く美しい風景に出会うことを目的に、とりあえず北に向けて出発することにした。
3連休の初日、渋滞に巻き込まれないように8時に札幌を出発、まず最初に目指したのはカタクリの群落では道内でも一番有名な旭川近郊の男山自然公園だ。
ところが、男山のカタクリは既に盛りを過ぎて、可憐なピンク色は茶色に変わり果てていた。
群落の大きさもニセコの桜が丘公園の方が勝っているような気がする。
遊歩道をもっと奥まで進めば、まだ花の残っている場所もあるみたいだが、観光客も多くてゆっくりと花を楽しむ雰囲気ではないので直ぐにその場所を後にした。
次のカタクリ候補地、旭川から和寒町へ抜ける維文峠へ向かう。
交通量も少なく、一部砂利道も残るようなマイナーな峠だが、インターネットで調べると、ところどころにカタクリの群落があるみたいだ。
確かに道路沿いのところどころでカタクリが花を付けていた。ただそれは、群落というよりも道ばたに咲いている雑草のような雰囲気だ。
まあ、それはそれで風情はあるのだが・・・
次に向かったのは和寒町の三笠山自然公園、ここでようやくカタクリ・エゾエンゴサクの花の絨毯に出会えることができた。
規模はニセコの群落とは比べものにならないが、それでも林床を埋め尽くすように咲く花々は息をのむほどに美しい。男山のように観光地化されていないので、ゆっくりと花を楽しむことができるのも良いところだ。
そこの公園に隣接するJAレストラン虹で昼食にする。JAの組合員有志が経営している店ということだが、手打ちソバは結構美味しかった。
調子に乗ってもう一カ所、塩狩峠のカタクリを見に行こうと国道を旭川方面に逆戻りしたが、結局そこも空振り。
「カタクリの花に会いたくて」これが今回のキャンプのテーマになるはずだったのだが、数日前にニセコで十分に堪能してきたし、こんな結果もそれほど気にすることもなく目的地のキャンプ場へ向かった。
目的地はふうれん望湖台オートキャンプ場、去年のGWに朱鞠内湖へ泊まったとき下見に来た場所だ。
去年は桜の開花も記録的に早い年で、このキャンプ場でも既に桜が開花していて、その風景がすっかり気に入っていたのである。
到着時間は午後1時半、途中であちこちに寄り道した割にはかなり早く着くことができた。
去年は雨の中でも数組のキャンパーがテントを張っていたので、その混み具合が心配だったが、フリーサイトにはソロキャンパーが1組いるだけだった。
桜が咲いていれば、絶対に林間芝生広場の桜の木の下にテントを張りたかったが、それがまだなのでやっぱり湖側の林間にテントを張ることにする。
妻が選択した場所はその中でも一番湖に近い部分、その分駐車場から遠くなってしまうが、冬の十勝岳で斜面の上までキャンプ道具をソリに乗せて引っ張り上げたことを考えれば楽勝・・・、でも無い。
幸いというか、その場所は風当たりも強かったので、駐車場に近い場所にテントを張ることに妻も同意してくれ、内心ホッとした。
一息ついて園内を散策する。木道沿いの小川に咲く水芭蕉にエゾノリュウキンカ、カタクリやエンゴサクもひっそりと花を咲かせている。
夕方になると風もピタリと止んだ。今年初めてのキャンプバーベキュー、鳥の囀りが耳に心地良い。
食事が終わって、センターハウスのお風呂に入りに行く。温泉ではないのがちょっと残念だが、その代わりに薬湯風呂が有った。
緑色のドロドロした感じの湯に恐る恐る身を沈めると、薬湯の成分が身体に染みこんでくるようだ。かなり効きそうな感じだが、大事な部分がヒリヒリしてくるのには参った。
テントに戻り、直ぐに集めておいた薪に火を付ける。
これが早くも今年に入って4回目のキャンプになるが、これまでは全て雪中キャンプ、やっぱり雪のないキャンプは良いなーと当たり前のことが嬉しかったりする。
満ち足りた気分でテントに潜り込んだ。すると直ぐに、テントをポツポツと叩く雨音が聞こえてきた。
天気予報通りだ。大した降りにはならず、明日の朝には雨も上がっているだろう。
小鳥たちの澄んだ鳴き声に目を覚まさせられた。時計を見るとまだ4時だ。
そのまま小鳥の声を聞きながら、暖かなシュラフの中で微睡みを楽しむ。
カンカンカンッ、カンカンカンッ、突然辺りに響き渡る大音響に微睡みも吹っ飛んでしまった。キツツキのドラミングの音だ。
耳元で太鼓を叩かれてるような感じで、とても寝てはいられない。
森の中を散策していてそんな音を聞くと、「アッ、クマゲラかな、それともアカゲラかな」、なんて嬉しくなるのだが、これではまるで目覚まし時計みたいだ。
あきらめて起き出すことにした。
気温も9℃までしか下がっていなくて、とても暖かい朝だった。
湖も完全なべた凪だ。静まりかえった湖面を、カモの夫婦が後ろに波を引きずりながらスーッと横切っていった。
小鳥たちがじゃれ合うように頭上の枝の間を飛び交っている。
焚き火の煙の臭いにコーヒーのほろ苦さ、キャンプの中で一番幸せを感じる朝の一時だった。
妻はこのキャンプ場がかなりお気に入りになってしまったようだ。
もう1泊したがっている様子だったが、次のキャンプ場に移動することに決める。
そう決めると、その後の行動は全て片付けモードに入ってしまうのが、我が家の常だ。
気が付くと全て片づけが済んでしまい、後はテントをたたむだけになっている。もう少しゆっくりすれば良いのにと自分でも思ってしまう。
結局、キャンプ場を後にしたのは9時を少し回ったばかりの時間だった。
車が走り始めて直ぐに、妻がフウマの毛の中にダニが這い回っているのに気が付いた。
慌てて車を停めて調べてみたら、5匹のダニがフウマの身体から見つかった。
それを見ると、人間の方も何だか身体がモゾモゾしてきてしまう。
春先でもダニには要注意である。
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