そろそろ紅葉キャンプの時期がやってきた。
毎年,何処のキャンプ場で紅葉を楽しむかは頭を悩ませるところだが、今年はちょっと足を延ばして紅葉の名所オンネトーまで出かけることにした。
オンネトーは一度雨の中で泊まった事があるが、雨にもかかわらずかなり良い印象を持っている。そんなキャンプ場だから、紅葉シーズンのキャンプとなればこれはもう最高に充実したキャンプができそうだ。
ところが出発間近になって、台風21号が猛烈な勢いで北海道を縦断していき、道東の方でもかなり強風の被害が出たようである。
それに出発前日には、この台風の置き土産で季節外れの高温になっていると言う。
いったい、お目当ての紅葉はどうなってしまっているのか、はなはだ心配である。
それでも出発当日は、薄曇りながらもまずまずの天候で、気持ちよく札幌をあとにした。
途中、清水町の目分料という蕎麦屋で昼食にする。結構美味しい店だったのだが、最近になって国道沿いに大きな店をオープンさせたので味が落ちていないか心配だったが、まずまずの味なのでホッとした。
それでも、ニセコ産の蕎麦を使用なんて店内に書いてあったのが、蕎麦の産地新得町が隣町なのに何故?って感じでちょっと気になった。
清水から池田までは道東自動車道を利用する。ここも、高速道路の赤字路線としてはかなり上位に入りそうなところだが、私は何時も有効に利用させてもらっている。
無駄な高速道路だと批判も大きいが、広い北海道を安全に短時間で移動するためには、私は必要な施設だと思う。
ただ、制限時速70kmを遵守して走っていると、何て無駄な道路なんだろうってことになってしまうのだが・・・。
目的地に近づくにしたがって台風の爪あとが目に付くようになってきた。
道路沿いの原生林の中では、いたるところでトドマツの巨木が根元からボッキリと折れて横たわっている。猛烈な風が吹き荒れた様子が窺われる。
しかし、木々の紅葉はそんな出来事を感じさせないように、行く先を飾ってくれている。
錦の木のトンネルをくぐり抜けてオンネトーキャンプ場に到着した。
場内には一張りのテントがあるだけで、好きな場所にテントを張る事が出来る。こんなキャンプ場で自由にテントを張る場所を探す一時は本当に楽しい。
トドマツの林間の小さなスペースに居を構えることにした。もっと広々とした快適な空間はいくらでもあるのに、我が家の場合、何時もそんな場所を選んでしまう。周りを気にせずにゆっくりとキャンプを楽しめる場所なのだ。
一休みして直ぐに焚き火を始める。
このキャンプ場では焚き火用の炉が何箇所も作られている。国立公園のど真ん中、しかも森の中という条件、そんなところで焚き火をやらせてもらえるなんてこんなにありがたい事は無い。
今回のキャンプではこの焚き火も目的の一つだったのだ。
ただ、ちょっとだけ失敗だったのが炉のすぐ近くにテントを張ってしまったこと。
さすがにここでガンガン火を燃やしたらテントに穴を開けてしまいそうだ。しょうがなく、常備している焚き火台を使用することにした。
焚き火用の薪も一応は用意してきたが、林間で十分過ぎる量を集めることができる。
数日前の雨と、林間でほとんど日が差し込まないために、集めた薪はほとんどが湿ったものだ。
しかし、少々の乾燥した薪さえあれば、かなり湿気った薪でも全く問題はない。最初に大きく燃え上がらせれば、その火で乾燥させながら次の薪をくべていくのだ。
かみさんがいつの間にか大量のガンビの皮(シラカバの樹皮)を集めてきたので、それを焚き付けにして火を付けると一気に焚き火は威勢の良い炎を上げ始めた。
最近作られたような頑丈な木製の野外卓がこれまた嬉しい施設だ。キャンプ用の華奢なテーブルと比べて格段に落ち着くことができる。
テーブルの上に乗せたコンロで焼き肉を楽しむ横から、焚き火の優しい温もりが伝わってくる。とっても贅沢なひとときだ。
ほろ酔い気分で湖畔に歩いていくと、それまで空にかかっていた薄雲がいつの間にか消え去って、満天の星空が広がっていた。
水際のベンチに寝転がって空を見上げると、一筋の流れ星が夜空を横切っていった。
湖面に目をやると湖の底深くでも星が瞬いていた。
私たちの後からやって来たライダー二人連れが近くの露天風呂へ入りに行ったようだ。
昼間は観光客が次から次へと押し寄せてくるので、とてもそこの風呂には入る気にはなれないが、この時間ならば落ち着いて入浴を楽しめそうだ。
彼らが熊さんの歌いながら風呂から帰ってきた頃、私は早めの眠りについていた。
夜中、テントの周りをダッダッダッと走る足音に目を覚まさせられた。
すると、ハアハア言いながら愛犬フウマがテントに戻ってきた気配がした。
少し前から目を覚ましていたかみさんの話によると、そんな風に何回もテントから飛び出してはキツネを追い払っていたようだ。
野生の気配をすぐそこに感じるような森の中で、フウマも五感を研ぎ澄ませて構えているのだろう。
そんなフウマの頑張りを頼もしく感じながら、すぐにまた眠りについた。
翌朝目を覚まして、五色に色を変えるというオンネトーの湖がその朝は何色に染まっているのだろうと期待しながらテントの入り口を開けた。
すると、昨夜は満天の星が輝いていた空は灰色の雲に覆われてしまっていた。空が曇ってしまうと、オンネトーの表情もつまらないものになってしまう。
がっかりしながら歯を磨いていると、ポツポツと雨まで降り出してきてしまった。
天気予報ではこの日が一番天気が良いはずだったのに、全くの予想外の雨だった。
それでもめげずに、また焚き火に火を付けた。
焚き火が勢いよく燃え始めると雨あしが強くなってきたのでテントの中に逃げ込む。
雨が弱くなってきてテントから出てみると、焚き火が燃え尽きかけている。再び薪をたして、それが景気よく燃え上がり始めるとまた雨が強くなってきてテントに逃げ込む。
そんなことを数回繰り返した。
雨がまた止んだので、湖の写真でも撮ろうと湖畔にカメラを立ててファインダーを覗き込む。
すると突然後ろから声をかけられた。
「おう、ヒデノリ」、そんな風に名前で呼ばれることはしばらく無かった。
ビックリして振り返ると、そこには十数年ぶりに会う高校の同級生が立っていた。
こんな場所でこんな時間(まだ朝の7時だ)に会うなんて本当に驚きである。
土建会社で働いている彼は、ここの近くに現場が有ると言うことだ。
ちょうどコーヒーが入ったので、焚き火のそばでコーヒーを飲みながら、久しぶりの再開に話も弾んだ。
しばらくするとまた雨あしが強くなってきたので、彼と別れの挨拶をして再びテントの中に逃げ込んだ。
そんな雨にうんざりしていると、ようやく空にも明るさが戻ってきた。すると急速に空を覆っていた雲が姿を消し、さっきまでの雨がウソのような澄み渡った青空が広がった。
妻はこのキャンプ場がすっかり気に入ったようで、もう一泊したいと言い出した。
私は次に行きたいキャンプ場も有ったので、ちょっと悩んでしまった。確かに居心地の良いキャンプ場で、ここでのんびりと時間を過ごすのも悪くはない選択だ。
しばらくどうしようかと迷いながら漫然と時を過ごしていると、次第に観光バスの行き来する音が気になってきた。紅葉最盛期の週末のオンネトーともなれば、道路が渋滞するほど観光客がやってくるとの話だ。
その雑音が決断をさせてくれた。「よし、やっぱり次のキャンプ場へ移動することにしよう。」
妻もその決断に素直に従ってくれた。
濡れたテントは次のキャンプ場でゆっくりと乾かせばいい。素早く撤収をすませ、少しだけ名残惜しさを感じながらオンネトーを後にした。
|