今回のキャンプは、キャンプと言うよりも歴舟川の川下りがメインの目的である。。
となると、キャンプ地はここしかないしょって感じのカムイコタン農村公園キャンプ場、一緒に下るメンバーも当然そこを予約することになった。
しかし、私が密かに泊まってみたいと考えていたキャンプ場は別にあるのだ。
今年になってから、ほとんどカヌーが行動の中心になってしまい、我が家らしいキャンプを楽しんでいない。
秋の静かなキャンプシーズンが始まったというのに、わざわざ混雑しているキャンプ場へ泊まる気にはなれない。
他のメンバーには申し訳無いが、我がままを言わせてもらい、我が家だけ晩成キャンプ場へ泊まることにしたのである。
このキャンプ場は去年の歴舟川下りの後にちょっとだけ下見をしたのだが、その太平洋を見下ろすロケーションにすっかり魅せられてしまった。
太平洋を眺めながら静かに秋の一日を過ごす、本当はそんなキャンプをしたかったのだが、今回はかなりのハードスケジュール、ゆっくり出来るのかちょっと心配だった。
雨の中の川下りを終えて、大樹町まで戻り買出しを済ませ、再び同じ道をキャンプ場へと向かった。
下っている途中から降り出した雨も何とか上がり、雲の切れ間から顔を出した太陽が、濡れたアスファルトを乾かしてくれる。
途中、牧草畑の中で羽を休める丹頂鶴の姿を見ることもできた。
キャンプ場の受付は晩成温泉の施設で行なう。ここの温泉も川下りの疲れた体を癒すためには最高のお湯である。
そこに到着すると、温泉の駐車場の横にテントを張っているキャンパーがいた。
こんな場所にテントを張って怒られないんだろうかと不思議に思いながら受付に向かった。
晩成キャンプ場はキャンパステントが並んだAサイトとオートキャンプ可能なBサイトが温泉施設をはさんでちょっと離れた場所に作られている。
今回は当然Bサイトを利用するつもりだった。
受付でその旨を伝えると、そこに座っていたおばちゃんが平然とした顔で、「もうお客さんが少ないのでBサイトは閉鎖しました。その代わりに駐車場の横を使えるようにしているのでそこにテントを張ってください。」と言い放ったのである。
な、何だって、遥々こんなところまでやってきて、何が悲しくてそんな殺風景な駐車場の横にテントを張らなければならないんだ。
「そ、そんなー、何とかBサイトを使わせてください。」
「そうは言っても、水場もトイレも閉鎖してしまったんですよ。」
「良いんです、水やトイレが無くても気にしません、寝るだけで良いですから。」
「そんな事言っても、食事はどうするの。」
な、何でそんな事まで説明しなきゃならないの。
「全然問題無いです。水はここから汲んでいくし、トイレもその度にここまで来る事にします。だから、お願いします。」
おばちゃんは隣に座っているおじちゃんと、困ったように顔を見合わせている。
何で私がそうまでしてBサイトに泊まろうとしているのか、全く理解できないのだろう。
キャンパーは寝るところと水とトイレだけ有れば満足するはず、それが一般的な常識なのかもしれない。
するとおばちゃんが
「今日はAサイトの方に一組だけ予約が入っていて、そちらの水場とトイレは開けているので、そんなに言うのならそちらにテントを張ればどう。」
や、やったー、本当は前回下見して気に入った場所はAサイトの方だったのである。しかし、通常は常設のキャンパステント専用なので、持込のテントは張れないはずだ。
「あ、ありがとうございます。」
そこで、隣のおじちゃんが
「いや、あそこは・・・」
ま、まずい!
「いやー、助かりました、わざわざ札幌からここまでやってきた甲斐がありました。本当にありがとうございますー。」
やっと泊まらせてもらうことが出来て、お金を払っていると一人の女性が受付にやってきた。
「あのー、今日泊まりたいんですが、電源が取れるところが必要なんです。それと馬もいます。」
受付のおじちゃんとおばちゃん
「・・・」
「で、でんげん取れるとこなんてここには無いし、それに馬って・・・」
「馬は大丈夫なんです。でも、電源が無いと困るんです。もう他に行くところは無いんです。何とかしてください。」
「だ、大丈夫って言ったって、それならばどこかの農家へ行った方が良いんじゃないの。」
「それでも良いです。それじゃ近くの農家紹介してください。」
「し、しょうかいって言ったって・・・」
「色んなキャンパーがいて大変ですね。」
おばちゃんに一声かけて、さっさと受付を出てきたが、その馬を連れて電源を必要としているキャンパーがその後どうなったのかは知る由も無い。
やっと一年越しの願いが叶い、あこがれの場所にテントを張ることができた。
Aサイトの一番奥、眼下には生花苗沼と太平洋が広がっている。
風が強い日ならばテントを張るにはちょっと厳しそうな場所だが、幸いその日は無風で、雨上がりの雲の切れ間から差し込む西日がサイトを優しく照らし、テントを張り終えてホッとする時間が訪れた。
その日は朝の5時半に札幌を出発し、雷が鳴り響き雨が降り続ける中の歴舟川を下るというかなりハードな1日だったが、その分だけ、キャンプ場での安息の時間は本当に心と体を芯から癒してくれる。
温泉にゆったりと浸かり、疲れた体に温泉の成分が染みこんでくるのが感じられた。
温泉から戻ってくると、すっかり辺りは暗くなっていた。
すぐにバーベキューを始める。
雲の切れ間に月の姿が見え隠れしている。静かな夜だった。
太平洋の波の音だけがかすかに響いてくる。
ビールの酔いが疲れた体に回ってくる。
明日は再び歴舟川を下るために8時にはキャンプ場を出発しなければならない。
早めにテントに入り、眠ることにした。
太平洋独得の波長の長い波の音が心地よい子守歌代わりになってくれた。
翌朝5時に目を覚ました。
それほど気温も下がらず、暖かい朝だった。
真正面の太平洋から朝日が昇ってきた。
昨日、妻がいつの間にか拾ってきた他のキャンパーが置いていった薪の束を使って焚き火を楽しむ。
出発が早いので、私は焚き火をする気までは無かったのだが、妻はやっぱり薪があって焚き火のスペースもあってとなれば、黙ってはいられないようである。
焚き火に当たりながらゆっくりとコーヒーを飲み、いつもながらの我が家のキャンプの朝の風景である。
その充実した時間が終わると、すぐに撤収の準備に入った。
テントは夜露と内部の結露でびしょ濡れである。
雑巾で水滴を拭き取り、生乾きのままテントを畳んだ。
来週のキャンプで乾かすことにしよう。
歴舟川に向かう前に、最初にテントを張るつもりだったBサイトの方を見に行ってみた。
ここもなかなか素晴らしいサイトである。
9月中旬の3連休というキャンプするには最高の時期に、こんなに素敵なサイトを閉鎖してしまうなんて、何とも勿体ない話である。
何とかしてまたここにテントを張りに来たいな、そう思いながら晩成キャンプ場を後にした。
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