今年最後のキャンプは、シーズンが始まったばかりの頃から、11月17〜18日のしし座流星群の飛ぶ日にしようと決めていた。
ところが、いつの間にかしし座流星群のピークが現れるのは19日の未明と言うことに変わってしまっていたのだ。
これまでのしし座流星群の出現を正確に言い当てていたアッシャー博士の予測と言うことなので、かなり正確なようである。
ここ数年、大騒ぎした割には大したことが無かったので、今年はいやが上にも期待が高まる。
当初は、予定通り週末にニセコサヒナあたりにキャンプに出かけ、帰ってきた夜に再び厚真大沼野営場へ出かけてしし座流星群を観測するという、かなりなハードメニューで考えていた。
しかし、息子が中学3年生最後の期末試験を直前に控えており、そんな状況で親だけが遊び歩いている訳にもいかないと言うことで、月曜日未明のしし座流星群観測に全てをかけることに変更した。
後は天気だけが問題である。
天気予報ではまずまずの天気と言うことになっていたが、日曜日は朝から曇りで時々雪もちらつくような状況だ。
午後3時のアメダス情報を見ても道内はほとんどが曇り空になっている。
まあ、そんなことを気にしていてもしょうがない。とりあえずは現地に行かなければ何も起こらないのだ。
夕食を済ませ7時半に雪のちらつく札幌を出発した。
千歳付近まできても、まだ天候は回復しない。ちょっと不安になってきたが、厚真大沼に近づくにしたがって暗い夜空に星の明かりが見え始めた。
目的地について車から降りると、澄み切った夜空に一面の星空が広がっていた。最高の流れ星観測日和である。
そのまま車の中で仮眠して、午前2時前に目覚まし時計の音で目を覚ました。
車の窓を開けてみると、到着時の晴れ渡った星空が、いつの間にか雲に覆われてしまっていた。
それでも、広がっているのは薄い雲で、その切れ間からいくらかは星空も顔を出していた。
ちょっと落ち込んだ気分で車から出て、焚き火の準備をしていると、妻の歓声が聞こえた。
「すごい!沢山流れている」
慌てて空を見上げると、本当だ、次から次へと流れ星が飛び交っている。
焚き火にあたりながらワインでも飲んで、のんびりと夜空を眺めようと考えていたのだが、 そんな暇を与えてくれないような間隔で星が流れ続けている。
とりあえずは焚き火に火を付けたが、焚き火になんか構ってられない、イスに座り込んで夜空を見上げた。
その時だった。
今までに見たことがないような明るい流れ星が現れたと思ったら、その周りがパッと光り、その光はそのまま夜空にとどまっていた。
光が消えた後も、そこにはしばらく白い雲が漂っていた。
流星痕と呼ばれるものである。初めて目にすることができた。
その後も、スッと短い軌跡を描くもの、夜空を一文字に切り裂いて流れるもの、ゆっくりと尾を引いて流れるもの、ありとあらゆる流れ星が現れては消えていく。
まさしく星が降ってくるようだ。
いくつもの星が並んで流れていく様子なんて見たことがない。
そこにいるのは我が家だけかと思ったら、星が流れるたびに林の向こうから歓声が聞こえてくる。他にも数組が流れ星を見にここにきているようだ。
「オーッ、オオーッ」
私たちも、明るい星が流れるたびに歓声を上げた。
「オーッ、オオーッ、ワーッ、ワッ、ワッ、ハハッ、ハハハハハ」
歓声がそのうちに笑い声に変わった。
他のみんなも笑っている。
目の前にくり広げられる光景に圧倒され、もはや笑うしかなくなっているのだ。
歓声を上げ続けているうちに、いつの間にか時間は4時になっていた。
雲もかなり広がってきたので、この辺で一息つくことにした。
それまで、観測の邪魔にならないように、遠く離れた場所で意味もなく燃え続けていた焚き火に、ようやくあたることができる。
流れ星観測後に一眠りしてから帰る予定でいたのだが、興奮して眠られそうにもない。そのまま焚き火にあたりながら、朝を迎えることにした。
その間にも、雲の切れ間から沢山の流れ星を見ることができた。
そのうちに雲も次第に晴れてきて、もうすぐ明るくなってくるかなと思っていた5時過ぎ、巨大な流れ星が現れ一瞬周りの風景が明るく照らし出された。
その星が流れた後には、飛行機雲のような長い一筋の雲が残され、次第に形を崩しながら1分ほど夜空にくっきりと浮かんでいた。
この日見た中で一番巨大な流れ星だったかもしれない。
次第に東の空が赤みを増し、それまで闇の中に白く浮かび上がり不気味に感じられた大沼が優しい姿に変わった。
岸辺の草達は真っ白な霜に覆われ、銀色に輝いている。
焚き火の炎は、ほとんど消えかかってきた。
明るくなってきた空には、まだ時折流れ星が流れている。
今年最後の天体ショーはそうして幕を下ろした。
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