道東までは何回も来ているが、知床を訪れるのはこれが3回目だ。
一番最初は学生時代、知床国立公園利用実態調査とかの手伝いとだったと思うが、記憶に残っているのは、セセキ温泉に入りながらその横の岩場で採ったウニの美味かったことだけである。
次は16年前、妻の姉夫婦が羅臼に暮らしていたころのことだ。
久しぶりの知床に、そんな昔の思い出が蘇るかとも思ったが、あっさりと羅臼の街を通り過ぎてしまった。
期待していた羅臼岳は、残念ながら肝心の山頂部分が雲に隠れている。
それでも写真を撮りに車から降りたが、冷たい北風に吹き飛ばされそうになり、直ぐに車の中へ逃げ帰った。
今時期のテレビのニュースで、雪の被った峠道で震え上がっている観光客の様子が良く出てくるが、まさにそのままの姿である。
ウトロの街で昼食をとることにしたが、情報を仕入れていなかったので、何処で食べるかしばらく迷ってしまった。
狭い町中をうろうろして、ちょうど港の横に漁協婦人部でやっている食堂を見つけた。見かけはぼろだが、お客さんも結構入っているみたいで、如何にも美味いものが食えそうである。
壁に貼ってあるメニューを見て、ちょっと驚いた。焼き魚定食1200円、イクラ丼1500円、ウニ丼2300円、良いお値段だ。
手堅いところでイクラ丼を食べてみたが・・・。
はっきり言って暴利である。800円くらいならば、それほど文句言わずに食べられる、というレベルである。
有名観光地ならではの、あこぎな商売だ。
次は今回のキャンプの第一目的である能取湖のサンゴ草群生地を訪れる。
そこには大型バスがずらりと並び、スピーカーからはお決まりのご当地ソングのようなものが大音量で流されていた。お決まりの悲しい観光地の姿である。
とてもそこに近づく気にはならず、人影のまばらな対岸側から真っ赤に色づいたサンゴ草の姿をカメラに納めた。
せめて音楽だけは止めて欲しいものである。
途中、あちこちと寄り道していたので、キャンプ場に着いた時は4時近くになっていた。
今日の走行距離も軽く300kmを越えさすがにちょっと疲れ気味だ。
サロマ湖に突きだしたキムアネップ岬、キャンプ場はその先端部分にある。
なーんにも無いキャンプ場、昨日泊まったキャンプ場とのギャップの大きさに、さすがの妻も呆れているようだ。
そんな場所にテントを張る時は、何だか開拓者になったような気がする。まずは生活の場所を確保しなければならない。
そんな開拓者を待ち受けていたのは、夏の間から入植者を苦しませ続けていたであろう蚊の大群である。
もう、山では雪が積もっているというのに、サロマ湖の蚊は未だに生き残っているのだ。
体の大きさも他と比べて一回り大きいようだ。Gパンの上からでも血を吸おうとしてくる。
そんな蚊の出迎えを受けながらも、テントを張り終えてホッと一息ついた。
日は既に西に傾き、もうすぐサロマ湖が夕日に染まる時間だ。
空が紅くなり始めると、カメラを構えたキャンパーが岸辺に集まってきた。皆それぞれの思いを抱きながら、沈みゆく夕日を黙って見つめている。
この夕日を見たくてサロマ湖にやってくる旅行者も沢山いるのだろう。
太陽が沈んだあとは、夕食を済ませて近くの温泉に出かけた。
我が家の場合、寒い時期のキャンプでは湯冷めが心配で、あまり温泉に入ったりすることは無い。
だいたいがたき火で暖まりながら時間を過ごすのだが、ここではさすがに薪も集めることができない。
たき火の代わりに温泉で体を温めることにしたのである。
温泉から帰ってくると、キャンプ場の空は満天の星空に覆われていた。
ところが場内は強力な光の投光器に照らされ、その光に邪魔され星が見えにくい。昨日泊まった高規格オートキャンプ場でさえ、場内の明かりはほとんど無いと言っていいくらい暗く保たれていた。
何で無料のキャンプ場でここまで明るくする必要があるのだろうか。
設備が最小限しかないので、せめて明かりだけでもと言う配慮なのだろうが、こういうのをありがた迷惑と言うのかもしれない。
翌朝は、まさしく雲一つない青空が広がっていた。
爽やかな風が少し吹いているせいか、昨日はうるさかった蚊もどこかに姿を隠してしまったようだ。
小鳥の声、虫の声を聞きながら岬を廻る遊歩道を散歩する。どこまでも広がる空、静かに広がるサロマ湖のたたずまい、まさにこれがサロマ湖と言った風情だ。
キャンプ場の近くにもサンゴ草の群生地がある。能取湖のような派手さはないが、ひっそりとした落ち着きがそこにはあった。
一日中こんな場所でのんびりと過ごしてみたい気もするが、今日は札幌まで帰らなければならない。
後ろ髪を引かれる思いでサロマ湖に別れを告げた。
最後にサロマ湖の姿をもう一度眺めるために、幌岩山の展望台に向かった。
細い曲がりくねった砂利道を、対向車が来ないことを祈りながら登っていく。駐車場につくとそこからは展望台まで急な階段を上らなければならない。
しかし、その階段を上りきった瞬間に目に飛び込んでくる景色には、思わずワーッと声を出してしまいそうになる。
あの広いサロマ湖が眼下に一望に見渡せるのである。
備え付けの無料の望遠鏡で覗くと、さっきまでテントを張っていたキャンプ場が手に取るように見える。
サロマ湖の向こうには知床の山並みも見渡せる。
後ろに目をやると、いくつにも折り重なった山々の一番奥に白い雪を被った山並みが見える。大雪連峰だ。
ここの展望台はそれほど高い山にあるわけでもないのに、知床から大雪まで眺められるのだ。北海道の半分が見えていることになる。
その白い大雪の姿を見て、次の目的地が決まった。
道北キャンプ旅行の時に行きそびれた大雪アンガス牧場に行ってみることにした。
一気に車を走らせて、目的地に到着した。
夏に来るよりも、今回の方が正解だったようだ。
真っ青な空の下、牧場の向こうにそびえ立つ雪に覆われた大雪の雄大な姿は感動ものだった。
ここの駐車場には質素ながらトイレと水場もあり、その気になればキャンプすることもできそうである。
その後、比布町付近では黄金色に染まる水田の向こうに、先ほど間近で見たばかりの大雪連峰と、同じく雪を被った十勝岳連峰の姿が浮かび上がり、これも印象的な光景だった。
こうして三日間のミニキャンプ旅行は終わり、走行距離は1100km、さすがに運転には疲れたが、印象に残るキャンプとなったのである。
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