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湯本温泉湯治キャンプ

湯本温泉野営場(6月2日〜3日)

  前回のオヤジソロキャンプから早くも3週間が過ぎようとしている。
 先週、先々週と、仕事に疲れきった妻の顔を見ていると、なかなかキャンプへ行こうとは言い出せないでいた。
 彼女は5月は一度もキャンプへ行っていないことになるのだが、それで平気なのだろうか。仕事のことなんか、キャンプへ出かけて頭から振り払ってしまえば良いのに。
 そう思いながら、彼女の口から「キャンプ」の一言が出るのをひたすら待ち続けていたのだが、一向にその気配が感じられない。
 このままでは先にこちらの方が参ってしまいそうだ。金曜日の夜になって、3週間ぶりに恐る恐るキャンプの話しをしかけてみた。
 「あのー、明日なんだけど、キャンプなんかに行こうかなー、なんて思ってるんだけど・・・。」
 「エッ!キャンプだって!」
 「あ、いや、嫌なら別に良いんだけど・・・。」

 結果的には意外とすんなり話しはまとまったのだが、キャンプへ行くのにこんなに気を遣わなければならないのなら、オヤジソロキャンプというのも今後の選択肢の一つとして考えに入れておいても良いかもしれない。
 しかし、我が家の場合、それは絶対に許されることでは無いのだ。
 世の中には、「キャンプなら貴方1人で行って来なさい」と奥さんから冷たく言い放たれる、そんな恵まれた家庭もあるというのだが・・・。
 まあ、それでも、今回のキャンプは妻のことを思って、ハードなキャンプは避け、近間で手軽にキャンプできそうな場所を探してみた。
 その結果決まったのは、ゆっくりと温泉に浸かれそうな湯本温泉野営場である。
 初めて泊まるキャンプ場だが、去年の秋に一度下見で訪れており、その時の印象は林間にサイトが点在するおちついた雰囲気のキャンプ場というものであった。

 キャンプ場へ着く前に、久しぶりにニセコの神仙沼を訪れてみることにした。
 前日まで雨が降っていたので、沼までの道程で短足の愛犬フウマが泥まみれになるのを心配していたが、10年以上前に訪れたときとは打って代わり、現在は駐車場から沼まで全て木道が整備されていた。
 歩きやすくなったのは良いが、そのために駐車場には大型バスが止まり、ガイドさんに先導された観光客の団体がぞろぞろと歩いている。
 苦労して山道を歩き、やっとたどり着いた湿原の景色に感動した覚えがあるのだが、今の状況ではそんな感動を覚えることもできない。
 一般の観光地の一つという印象しか感じなかった。

 神仙沼からニセコの山々の景観を楽しみながら坂道を下っていくと、すぐに湯本温泉野営場に到着した。
 車のドアを開けると硫黄の臭いが出迎えてくれる。如何にも温泉地のキャンプ場である。
 6月上旬オープンと言うことになっていたので、キャンパーもそれほどいないだろうと考えていたのだが、既にかなりの数のテントが張られていた。
 無料で温泉の隣という好条件のためか、それともちょうど山菜シーズンなのでそれが目当てのキャンパーなのか、ちょっとビックリである。

 それでも自分の好きなサイトを選べるだけの余裕はある。静かに過ごせそうな場所は、必然的に駐車場から遠くなるのだが、荷物運びに我慢できるぎりぎりの場所にちょうど良いサイトが見つかった。
 もう少し奥にももっと良い場所があったのだが、さすがにそこまで荷物を運ぶ気にはなれなかった。
 白樺に囲まれ、正面にはイワオヌプリが望め、荷物運びに苦労した分、設営後のビールも格別である。
 日陰には残雪も残り、フキノトウも顔を出したばかり、湿地ではミズバショウも咲いており、それでいて白樺の葉は青々と葉を広げている。独特の春の風景だ。

 一息ついたところで、早速、すぐ隣の国民宿舎雪秩父の温泉に入ることにする。
 ここの温泉は、湯気が濛々と立ちこめる大湯沼から直接お湯を引いている、源泉100%の名湯である。
 最近になって露天風呂も新しく整備され、真っ青な青空を眺めながらのんびりと湯に浸かるのは最高の気分だ。

 風呂から上がってテントに戻るまでの間も、温泉で暖まった体に爽やかな空気がとても気持ちよく感じられる。
 夜のメニューはバーベキューだ。風もなく、寒くもなく、暑くもなく、虫もいなくて、目に優しい緑に鳥のさえずり、外的なストレスが何にもない、なんて平和なキャンプなんだろう。
 しばらくハードなキャンプが続いていただけに、しみじみと幸せを感じてしまう。
 場内も意外なほど静かだ。心地よい酔いも手伝って今夜はゆっくりと眠れそうである。

 翌朝、小鳥のさえずりに目を覚ました。こんなにぐっすり眠れたキャンプは久しぶりだ。
 朝の散歩に出かけると、近くの大きな駐車場には車がびっしりと止まっていた。駐車場にテントを張っていたり、キャンピングカーが停まっていたりとやたらに賑やかである。
 そこの人達は皆、完全装備に身を固め、これから藪の中へ突入していこうという、山菜取りの猛者達である。
 我が家の場合、山菜取りにそれほど夢中になる気はしない。その時も、散歩しながら道ばたで両手一杯のタケノコが採れたが、それだけで充分満足してしまうのだ。

 山陰から遅い朝日が昇ってきたので、シュラフを干すことにした。
 我が家の最近のキャンプでは、シュラフを干すのも食器を洗うのも家に帰ってから、というパターンが多くなっていたが、今日はゆっくりとキャンプ場で全て片づけていくことにしよう。
 そう考えながら、ふと空を見上げると、先ほどまでの青空が、いつの間にか暗い雲に覆われてしまっていた。
 雲の動きから見ると、どう考えても雨が降ってきそうな様子である。
 慌てて、干したばかりのシュラフを取り込んで撤収の準備を開始した。
 すぐにポツリポツリと雨粒が落ちてきた。予想以上の早い降り出しである。
 それでもテントを少し濡らしただけで、7時半には撤収完了。その後すぐに本格的な雨が降り出した。

 平穏無事なキャンプで、最後に1発パンチを食らった感じだが、おかげで札幌に帰ってからも普通の日曜日を1日過ごすことができる。ちょっと得した気分の温泉湯治キャンプであった。


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