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風車に囲まれて苫前キャンプ

苫前町グリーンヒルキャンプ場(5月12日〜13日)

 北海道のキャンプ場は、ほとんどのところがゴールデンウィークに合わせてオープンする。
 そして、春を待ちこがれていたキャンパーが、連休後半になると、押入の中で半年間眠っていたキャンプ道具を引っ張り出し、一斉にキャンプ場めがけて集まってくるのだ。
 その結果、札幌周辺や道南方面の人気キャンプ場は夏のような賑わいとなる。
 北海道のアウトドアシーズンもついに全開か、と思ったのもつかの間、この期間が過ぎるとすぐにキャンプ場には元の静けさが訪れるのである。
 確かにこの時期、たまに暖かな日はあるものの、快適なキャンプを過ごすには、まだまだ気温が低いのが実際である。
 ゴールデンウィークにはどこかに遊びに出かけなくてはならない、という強迫観念にとらわれ、とりあえずキャンプには来てみたけれど花火も水遊びもできない、やっぱり次のキャンプは夏になってからにしよう、と言ったところではないだろうか。
 かくいう私もそんな強迫観念にとらわれ、「今年のゴールデンウィークはカヌーにスキー、それにどこかの浜辺で海キャンまで楽しんじゃうぞ、イェーイ」、なんてかなり入れ込んでいたのである。
 ところが今年のゴールデンウィークは、幸か不幸か素晴らしい天気に恵まれ、「できれば雨でも降ってくれた方が家でゆっくりできるのに」、というお父さん達のもくろみは見事に外れ、年に数回の家族サービスのために、仕事で疲れた体にむち打って行楽地へと出かけることとなったのだ。
 そのために行楽地へ向かう道路はどこも大渋滞、その様子を放送するニュースを見て、ふと我に返った。
 「何で、こんな混んでるときに無理して出かける必要があるんだろう、1週間ずらせば良いだけの話しじゃないか。」
 私の場合、自分が何もしていないときに他の人が楽しく遊んでいるのは絶対に許せない、というケチな性格なもので、そうと気がついても実行に移すのにはかなりの決心が必要なのだ。
 結局、今年のゴールデンウィークは初日にカヌーに乗っただけで、後はひたすら庭仕事に明け暮れることとなった。
 真っ青な青空を見上げ、「あー、今頃はみんな楽しく遊んでるんだろうなー、ふー、キャンプ行きたかったなー」、とブツブツ言いながら、畑を起こしていたのである。

 そんな鬱憤を晴らすために、早速次の休みのキャンプの計画、ところが妻は年に1回学生の頃の友達とのお泊まり会がその日に入っているのだ。
 妻には悪いが、これ以上我慢することはできない、2回目となるオヤジソロキャンプを決行することにした。
 まずは目的地の検討だが、それはオヤジソロキャンプにふさわしい場所でなくてはならない。
 子供達の歓声が響き渡るファミリー居酒屋的なキャンプ場よりも、薄暗い中で黙ってマンガ本を読みふけるようなジャズ喫茶的なキャンプ場が望ましい。
 そんな場所はすぐに浮かんできた。日高の新冠レクリエーションの森野営場である。
 このキャンプ場は前から気になっていた場所なのだが、なにぶんトイレも無いようなキャンプ場なので、なかなかファミリーで訪れる機会は無かったのである。
 ただ、心配なのが熊との遭遇である。位置的には日高山脈のかなり内ふところまで入ったような場所で、しかも周辺には集落も何もない。
 それでも、万全の体勢でキャンプに臨み、五感を研ぎ澄まして暗い夜を過ごすというのは、私にとっては最高のキャンプの楽しみである。
 ところがこの春、北海道では連続3件の熊に襲われた死亡事件が発生している。その中には突発的な遭遇と言うよりも、人を食うために襲ったのではないかと考えられるようなケースも含まれており、さすがにちょっと不安になってきた。
 妻からも、絶対にそんな場所には行かないでと泣きつかれ、 迷っていたやさき、北海道新聞の夕刊の記事が目に留まった。

 「幌延町でエゾエンゴサクが満開」
 ムムッ、これだ!早速、地図帳で幌延町の場所を調べる。幌延町のすぐ隣には風力発電で有名な苫前町がある。
 フムフム、なかなか良い感じになってきたぞ、そして苫前町には、これも前から気になっていたキャンプ場の一つであるグリーンヒルキャンプ場があるのだ。
 日本海側のこの付近には、初山別村のみさき台公園キャンプ場、苫前町には夕陽丘オートキャンプ場など眺めの良いところが沢山あるが、グリーンヒルもその一つである。
 ところがここは、開設期間が7月と8月の2カ月だけ、ガイドブックの写真を見る限りではサイトもかなり荒れた雰囲気だ。
 トイレや水場が使えないのは望むところ、まさにオヤジソロキャンプにふさわしい薄暗いジャズ喫茶的キャンプ場である。

 かなり前置きが長くなってしまったが、我が家の場合、毎回、この様に色々な要素やその時の気分、天候等が絡み合って、やっと目的地のキャンプ場が決まるのである。

 キャンプ当日は素晴らしい青空、恨めしそうな顔の妻を残して、相棒フウマと共に日本海に沿って一路北上する。
 肝心のエンゴサクの咲いている場所だが、この時点では全く見当もついていない。新聞にも幌延町から車で10分の防風林の中、としか書いていなかったのだ。
 まあ、行けば何とかなるだろう。
 途中の道路沿いでは新緑が目を楽しませてくれる。あらゆる種類の緑が混ざり合い、今が一番美しい時期かも知れない。
 所々で風力発電の風車を見かける。私は何故かこの風車が大好きなのである。
 ちょっと前のテレビドラマで、風車が沢山立ち並ぶ風景がタイトルバックに使われていたが、是非同じ風景も見てみたいと思っていた。
 苫前町に近付くと、その風景と同じような沢山の風車が、道路沿いの丘の上に林立している。
 近くに行ける道はないかなと探していたら、ちょうどグリーンヒル入り口の看板が見つかった。
 その道を上っていくと、まさに周りは風車だらけ、グリーンヒルキャンプ場はそんな場所にあるのだ。キャンプ場のすぐ場にも風車が1基そびえ立っており、その迫力に圧倒されてしまう。
 喜んで車から飛び降りたフウマも、その風車を見上げて固まってしまった。
 大きな3枚のプロペラがゆっくりと、しかも力強く回り続ける様子には異様な迫力があるのだ。

 とりあえずテントだけ設営して、最初の目的であるエンゴサクの咲く場所を探しに出かけることにした。
 苫前町周辺をぐるりと回ったが、それらしい場所は見つからない。一応今回のキャンプの大目的にしている関係上、このままでは格好が付かないのだ。
 とりあえずコンビニにで聞いてみようと店に入ったところ、レジには若いお姉ちゃん、ダメもとで聞いてみたけどやっぱり知るわけがない、「エンゴサク?」と花の名前も知らないみたいだ。
 交番にも寄ってみたが、お巡りさんはパトロール中で留守、さてさて次は誰に聞いてみようかなと町の中を走っていると、北海道海鳥センターという立派な建物を見つけた。
 こんなところの学芸員さんならば、誰も気にもとめないようなそんな話しを知っているかも知れないと立ち寄ってみることにする。
 結果はビンゴであった。丁寧に地図をコピーして、それに場所まで書き込んでくれた。せっかくだから中の展示物でも見たかったのだが、時間がないのでお礼を言ってすぐに出発。
 その場所は意外と町からすぐのところだった。
 時期が少し遅かったせいで、エンゴサクは周りの植物に隠れかけていたが、十分に楽しむことができた。
 もう少したったら、今度はエンレイソウが咲き始めそうな感じで、かえってそちらの方が美しいかも知れない。

 キャンプ場へ戻り、今度は風車ウォッチングである。
 ここの風車は牧場の草地の中に建てられていて、牧場の建物もキャンプ場のすぐ隣にある。
 そこには大量の堆肥が山積みにされており、風向きが悪かったら危なかったかも知れない。
 大きく西に傾いた太陽に照らされ、風車群の風景はとても魅力的だ。
 そしてその後は、その日のクライマックス、日本海に沈むを堪能する。

 眺めが良い分、遮るものが何もないので、風がもろに吹き付けてくる。
 小さなテントの陰に身を隠しながら、その日のメニュー豚丼とポトフを作る。このポトフは不味くて食えなく、ほとんどがフウマのエサになってしまった。
 焚き火をするのには風が強すぎるので、すぐにテントにもぐり込む。しばらくしてテントから這い出すと、空には一面の星空が広がっていた。
 その星空を切り裂くように、真っ白な風車のプロペラがゆっくりと回転している。その、幻想的な光景に思わずその場に立ちつくし、しばらくの間、呆然と眺めていた。

 ところがその風車が、寝るときになって邪魔をしてくれた。
 それまではさほど気にならなかった音が、目をつぶるとやたら大きく聞こえてくるのだ。
 おまけに波の音、時々下の道路を走るトラックの音、風に揺れるテントの音、それらが混ざり合ってテントの中を飛び交い、眠ったのか眠っていないのか解らないような状態のままで、朝を向かえてしまった。
 テントの入り口を開けると、ちょうど風車群の向こうから朝日が昇りはじめているところだった。
 慌ててカメラを抱えてテントから飛び出し、ちょうど良い撮影ポイントまでダッシュする。会心の1枚が撮れた。

 前夜の不味いポトフも、雑炊にすると何とか食ることができた。
 それで腹ごしらえをし、7時前はキャンプ場を後にする。
 真っ青な青空と真っ青な海、正面には真っ白な暑寒別の山並み、快適なワインディングロードにスピーカーから流れるサザンの曲がスピードメーターの存在を忘れさせてくれた。


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