北海道キャンプ場見聞録 我が家のファミリーキャンプ
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極寒朱鞠内月光キャンプ

朱鞠内湖キャンプ場(3月10日〜11日)

 しばらく暖かい冬が続いていただけに、今年の寒さには参ってしまった。
 1月2月とどこへも出かけずに、週末は何時も家の中に閉じこもりっきり、これは我が家にとって異常事態でもある。
 これは寒さのせいばかりではなく、もしかしたら年齢も関係しているのかも知れない。
 少し自分に危機感を抱きながらも、そろそろ活動を開始しなくてはならないという気持ちで、恒例の雪中キャンプへ出かけることにした。
 そうは言っても、3月だと言うのに日本列島は再び寒波に見舞われ、九州からも雪のニュースが届いてくるような真冬並の寒さである。
 まあ、去年の流氷キャンプや朱鞠内湖でのマイナス23度も経験していることだし、寒さに対してそれほどの心配はしていなかった。
 目的地はお決まりの朱鞠内湖、他にもいくつか候補地は考えたが、積雪2mを軽く越えるこの時期の朱鞠内湖も経験してみたかったのだ。

途中の風景 出発の日は素晴らしい青空に恵まれた。空気も澄み渡り、真っ青な青空を背景に遠くの雪を抱いた山並みがくっきりと浮かび上がる。
 こんな日ならば十勝岳を望める白金温泉付近も良いかも知れない、なんて浮気心も出てきたが、そんな気持ちを振り払い一路北を目指した。
 途中、幌加内町を過ぎたあたりにある政和温泉のルオントに立ち寄り、名物幌加内ソバを昼食にする。
 そこから朱鞠内湖はすぐ近くだ。レストランのガラス越しに付近の真っ白な雪景色を眺めていると、いやが上にも心がはやってくる。
 雪に埋もれた朱鞠内の集落に目を奪われながら車を走らせ、朱鞠内湖への最後の坂道を上りきると、白一色の世界が目に飛び込んできた。いつものことながら感動的な光景である。

 ここでの雪中キャンプは4回目なので、テントを張る場所もほとんど決まっている。手際よく設営を進めるが、マイナス5度でも設営を終わる頃にはうっすらと汗がにじんできた。
キャンプ風景 こんな寒さでも、設営後のビールはやっぱり美味しい。3月の陽光の下で、ビール片手にくつろいでいると、隣で妻がワカサギ釣りを始めたくてウズウズしている。
 急いでビールを飲み干し、入漁料2人分2000円を払って湖上へと降りていく。時間は午後の2時を過ぎているので、先客が帰った後の穴があちこちに開いている。
 適当な場所を見つけて、早速糸を垂らすと、すぐにワカサギの小さなあたりが竿先を振るわせてきた。
 のんびりとタバコを吸いたくても、そんな余裕も無いくらいに、直ぐにワカサギが釣れてくる。
 1時間ほどで2人合わせて40匹を釣り上げ、夜のおかずには充分な数なので、そろそろ止めようかと思ったが、妻の方には少しもそんな気は無いみたいだ。
 金を払っているので、釣れるだけ釣っておこうと考えているのである。さすがに主婦はしっかりしている。

 夕方になると、急に気温も下がり始めた。
 テントに戻り、さっき釣ったワカサギを唐揚げにしてビールで乾杯、両者の組み合わせは絶妙である。
 ただ、シェラカップに注いだビールが、ちょっと置いておいただけで表面が凍ってくるのには参ってしまう。
 氷を割りながらビールを飲む話しなんてあまり聞いたことがない。
 さらに気温が下がってきたので、テントの入り口を閉じて、今度はキムチ鍋とワインで乾杯だ。
 いつもならば、テント内でガソリンランタンを灯し、ストーブで煮炊きをしていれば、10度くらいまで温度は上がってくるはずである。
月光に照らされた風景 ところが今回は少しも暖かくならない。着られるものは全て着込んで、体を動かすのにも一苦労するような状態なのだが、それでも体に寒さが染みこんでくる。
 いつもは2人でワイン1本空ければ十分な量なのだが、それもどこに入ったのか解らないくらいである。
 外の気温はマイナス20度まで下がっていた。
 満月の月が昇ってきて、凍り付いた風景を青白く照らしている。寒さの代償で獲られる素晴らしい光景だ。

 9時前にはシュラフにもぐり込んだが、もこもこのオーバーズボンは履いたまま、妻はダウンジャケットも着たままだ。
 私は、息苦しいのを我慢して頭の上をジャケットですっぽりと覆った。
 後は無事に朝を向かえられるか、朝まで後9時間の勝負である。

 息苦しさで目を覚ました。
 頭を完全に塞いでいるので、酒のにおいとキムチの臭いがシュラフ内に充満している。
 恐る恐るジャケットを持ち上げ新鮮な空気を入れようとしたが、それと一緒に強烈な冷気が流れ込んできた。
 時計を見てみるとまだ12時である。朝までの時間が永遠のように感じられる。
 それにしても、この寒さは尋常ではない。体とシュラフの間の空気が少しも暖まってこないのだ。
 眠ろうと努力しても一向に眠気は訪れて来ない。
 妻の動く気配を感じたので、声をかけてみた。何と、彼女はシュラフに入ってから一睡もしていないと言うのだ。

 ここで決断を迫られた。テントの中でこのまま朝を向かえるか、車の中に避難して暖房を入れて眠るかだ。
 車の中で眠ると言うことは、私にとってキャンプを止めると言う意味である。
 キャンプ=テントで眠ること、バンガローや車の中で眠る行為はキャンプだとは思っていない。
 何を訳の解らないことを言っているんだと、バカにされるかも知れないが、これはポリシーである。
 キャンプが目的でこんなに遠くまでやってきて、それで途中でキャンプを止めてしまうなんて、何の意味も無くなってしまう。
 妻は、どうするかは私に任せると言ってくれたが、どう考えてもこの寒さでは朝まで眠れそうにもない。
 これは耐寒訓練ではなくて、あくまでもファミリーキャンプなのだ。迷った末に、つまらない意地は捨てて車の中に逃げ込むことにした。
 その時の気温はマイナス29度、その温度を見て、キャンプ中止も止む無しと何だか安心したのである。

 暖かな車の中でいくらか眠ることもでき、あたりも明るくなってきたので、朝日の写真を撮りに車から這い出した。
 これまで経験したことの無いような強烈な寒さである。雪の塊を足で蹴ると、カランコロンと炭のような乾いた音がした。
 昨夜、月の写真を撮った後にフル充電の電池に入れ替えておいたのに、愛用のデジカメは全く動かない。
 テントに戻り、ガスストーブに火を付けようとしたが、ノブが凍り付いて回らない。代わりにガソリンランタンに火を付けようとしても凍ったためかガスが出てこない。ポンピングしようとしてもゴムが凍っているためか、スカスカで役に立たない。しょうがなく、タバコに火を付けようと、そこに置いてあった使い捨てガスライターを手にしたが、それも寒さのせいか、全然火がつかない。
 全ての物が凍り付いてしまっているのだ。

ワカサギ釣り風景 車の中で暖めて何とか使えるようにしたが、この寒さの中では普通のキャンプ道具は全く役に立たないと言うことが、改めて思い知らされた。
 コーヒーを入れてシェラカップに注ぎ、飲もうと思ったが、寸前で口を止めた。金属部分に唇が張り付いてしまいそうだったからである。
 
 朝早くから、朱鞠内湖へはワカサギ釣りの人達が次々とやってきた。
 真っ白な湖面の上を、思い思いの場所へ、送迎用のスノーモービルに引かれて走っていく。
 冷え切った空気の中で、湖のあちらこちらに咲いたテントの花から、炭を熾す煙が立ち上っている。
 のどかな風景が、朝を迎えるまでの我が家の厳しい戦いを忘れさせてくれた。

 家に帰ってからニュースを見ると、その日の道内の最低気温は朱鞠内湖で観測されたマイナス32.1度とのことであった。


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