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美瑛川

(新開橋 〜 旭川大橋)

 10月に行なわれるオープンカナディアンカヌーレースの会場が今年は石狩川から美瑛川に変更になるというので、カヌークラブのメンバーで下見をすることになった。
 参加者はY谷・F迫さんペア、I山・F本さんペアがそれぞれカナディアン、N山さん夫婦とN南さんがカヤック、そして私はアリーを今回はソロで漕ぐ。
 かみさんが「日帰りなら私も行くのに〜」と文句を言っていたが、今回はそのままキャンプをするつもりだったので翌日都合の悪いかみさんは留守番させることにしたのである。
 下る区間は新開橋から忠別川が合流する先の旭川大橋まで。平成大橋の橋の下に車をデポして、新開橋をスタート。
 9月だというのに気温はまだかなり高く、先月の尻別川の時と同じくドライスーツがサウナスーツのように感じてしまう。
 水はちょっと濁り気味だ。この付近の何時もの状態は分からないが、数日前の雨で少し増水している影響なのかもしれない。
 今回のメンバーでこの区間を下ったことのある人は誰もいなくて、全くの未知の川である。
 旭川カヌークラブのサイトに、最近同じ場所を下った時の写真が載っていたが、カナディアンでは下れないような落ち込みが一箇所あるみたいだ。
 大会参加に向けて初めてペアを組んだI山・F本さんペアが、早くも本気モードになっている。F本さんは何時もはカヤックに乗っているので最初は何となくぎこちなかったけれど、直ぐに慣れたようでぐんぐんとスピードを上げる。
 流れも結構あるので、このペースで下っていたら2時間もかからずにゴールしてしまいそうだ。
 そこに、行く手を塞ぐように現われたのが堰堤である。水門が開いているのでそこを通過できるが、下流一面に敷かれた突起の大きな河床ブロックが障害物となって、下れる箇所も限られてしまっている。
 そこで沈したら相当に痛い目にあいそうなので、私とN南さん、Y谷・F迫ペアは素直にポーテージすることにした。
 堰堤のコンクリートや河床ブロックの表面は風化してザラザラの下ろし金状態になっているものだから、ポーテージといってもアリーを持ち上げて運ばなければならないのが辛いところである。普通のカナディアンのようにその上を引きずって運んだりしたら、あっと言う間にアリーは穴だらけになってしまうのだ。
 ポーテージを終えてカメラを構えていると、水門の中に出来ている大きな波でサーフィンをやろうとして、わざわざ後ろ向きになってそこに入ってくる。残念ながら流れが速くて、誰も波に乗ることはできなかった。
 I山・F本ペアはバランスを崩して少し流されたために、浅瀬に入ってデコボコ河床ブロックに張り付いてしまった。
 リジット艇なのでたいしたトラブルにはならないけれど、それを見ていてアリーでは絶対にあんな張り付き方はしたくないと思ってしまうのである。

ブロックに張り付き   堰堤風景

 そこから少し下ったところで、前方から激しい瀬の音が聞こえてきた。水面が途中で見えなくなっているのでかなり落差もありそうである。
 全員一旦上陸して様子を見ることにした。
 所々に隠れ岩のある急な流れの先が落ち込みになっていて、その先は真っ白に泡立ってかなりの迫力である。落ち込みの手前で隠れ岩に引っ掛かったりしたら一巻の終わりなので、頭の中に通過するルートを描く。
 先に下ったI山・F本ペアは私の考えていたルートと違う方に進んだように見えたが、無事にクリア。
 次は私の番、あくまでも最初にイメージしたルートを進むことにするが、一旦流れの中に入るとそのルートが何処だったかなんて全く分からなくなってしまう。
 目の前に現われる隠れ岩を避けながら下っていくと、真っ白に泡立つ、まさにホワイトウォーターが目前に迫ってきた。頭の中も真っ白になってその中に飛び込む。
 気がついた時には無事に瀬をクリアしていた。何時ものことだけれど、こんな瀬を下る時は本当に頭の中が真っ白になってしまって、後で考えてもどうやってそこを下ったかあまり覚えていないのである。
 直ぐに岸に上ってカメラを構える。
 逆光で、おまけに川全体が真っ白に泡立っているので、デジカメの液晶画面を見ても何が何だか分からない。落ち込み付近を狙って置きピンでカメラを構え、そこをカヌーが通過するような瞬間でシャッターを切る。
 全員が無事にそこをクリア。空知川の噴水の瀬を、全体的に広げたような感じの瀬だ。
 何も無い川だと思っていたら、なかなか楽しませてくる川である。

瀬を下見   I山・F本ペア
Y谷・F迫ペア   無事にクリア

 途中の川原で昼食タイムにする。
 ドライスーツのファスナーを開けると、中に着ていたTシャツは汗でびしょ濡れになっていた。ドライスーツを着なくても良いのは、北海道では真夏の一時期だけだろうと思っていたけれど、やっぱり暑い時期に川を下るためのウェアも欲しくなってしまう。
 釣り人がやって来て、もの珍しそうに「何処から下ってきて何処まで行くのですか?」と聞いてきた。説明すると、目を丸くして驚いている。尻別川や歴舟川でこのようなことを聞かれることはまず無いけれど、ここ美瑛川ではカヌーはまだ珍しい存在みたいだ。

 再スタートして穏やかな流れの中を下っていくと再び前方から大きな瀬音が聞こえていた。周りの風景を見ると、どうやらそこが旭川カヌークラブの写真に写っていた落ち込みらしい。
 各自が右岸、左岸に別れて上陸。私は左岸側に上陸した。
 そこは、写真で想像していたものよりもはるかに落差のある落ち込みだった。
 1〜1.5mの程度の落差だろうか。それが川幅一杯に広がっていて、まるでミニナイアガラの滝みたいだ。
 岩がゴツゴツと飛び出しているので、カヌーで降りられそうなのは一箇所だけ。それも真直ぐな落ち方でないのが嫌らしい。
 落ちた後は滝壺のバックウォッシュに巻き込まれるか、沈したまま直ぐ下流の岩だらけの瀬の中に流されていくか。
 両岸からお互いに、腕をクロスさせて×マークを送り合い、全員がそこをポーテージすることにした。ポーテージは左岸側のほうが簡単だ。流れが無い場所で直接カヌーを落差の下に降ろす。
 そこからもう少し下流までカヌーを下げれば安全に下れるけれど、面倒なのでN南さん以外はそこからカヌーに乗り込んだ。
 岩が多くてカヌーで下れる場所は右岸側にしかないので、そこから滝つぼの中を横断していかなければならない。ナイアガラの滝の滝壺の中を進む観光船(そんなものが有るかどうかは知らないが)に乗っている気分である。
 そんな場所でカヌーに乗るのは初めてで、川の水も下から湧き上がってきたり渦巻いていたりと複雑な流れになっているのでとても緊張する。やっとその出口までたどり着いたけれど、そこもまた結構な瀬になっている。
 そして何とか無事にそこをクリアすることが出来た。

ミニナイアガラの滝?   ミニナイアガラの滝を横断

 ホッとしたのもつかの間、直ぐに前方に恐ろしげな落ち込みが見えてきた。
 カヌーに乗って落ち込みに近づくと、川の水面が突然途切れて無くなりその向こうに下流側の水面が見えるのが普通である。
 ところがそこでは、水面が途切れた先でなにやら巨大な波が立っているのである。
 そのまま行けるかなと思いながらソロソロと近づいていくと、先頭を下っていたI山・F本艇が左岸に上陸したので私もそれに続いた。
 近くで見てみると、巨大な波の下には大きな岩が隠れているようである。
 落差もあって、かなり迫力のある瀬だ。見ているだけで口の中がカラカラに乾いてきた。対岸に上陸したN南さん、Y谷・F迫さんペアはそのままポーテージするようである。
 こんな時にかみさんが一緒だと「だめ、無理だわ、止めましょう、ね、危ないわ、絶対無理、無理だって」と泣き言を並べ立てるのだが、今日は一人なので気兼ねなくチャレンジすることが出来る。
 I山さんは、巨大波の左側を通ればすんなりと抜けられそうで、そこがチキンコースですね、と言っている。
 先にスタートしたI山・F本さんペア、巨大波の右側のヒーローコースを下るのかと思ったら、自分が名づけたチキンコースへと進んで、難なくそこをクリアした。
 次は私が行くことにする。私の頭の中には最初から、I山さんの言うヒーローコースを下るルートしか見えていなかった。 そこの下流は瀞場になっているので、今シーズン初の轟沈を覚悟して一番波の大きいところを下るつもりだったのだ。
 右側ルートには大波の手前に小さな落差があるので、それがちょっと気がかりだった。近づいていくと、思っていたとおり結構嫌らしい波になっている。
 そこを落ちた瞬間にバランスを崩してしまった。慌ててスターンドローを入れて何とか体制を立て直したものの、そのおかげでカヌーの推進力をほとんど失ってしまった。
 スピードに乗って波を乗り切るつもりが、ほとんど止まってしまった状態で、落ち込みの中に流されていく羽目に。完全に沈を覚悟したけれど、アリーはその波の中を全く危なげなく通り過ぎていった。
 「あれ〜?」あっけないくらいに簡単に瀬をクリアしてしまった感じだった。
 考えてみると、アリーに一人で乗るのと二人で乗るのとでは、全く別な次元の話になるのかもしれない。
 アルミパイプで組み上げたアリーは、とても柔らかい構造である。一人で乗る時は中央の重心だけでバランスを取れば良いけれど、タンデムの場合は前後に二つの重心が出来てしまう。普通のカナディアンでも同じことが言えるのかもしれないが、一体成型されているので二つの重心の作用は弱められるはずだ。
 アリーの場合、一人がバランスを崩せば、その力は捩れとなってもう一人にまで伝わっていく。二つの重心があることによって、捩れの他にも反り、撓みなど色々な運動モーメントが、より強められてアリーに加わるのである。
 当然、吃水線も下がり回転能力も落ちる。増えるのは慣性力くらいで、これはどちらかというとマイナスにしか作用しない。
 同じ瀬の中を下るのにも、タンデムの時は難易度が確実にワンランク上昇するような気がする。ソロだと楽に下れるな〜と単純に喜んでいたけれど、それは当然の話なのだ。
 「タンデムで二人で息を合わせながら瀬の中を下る」これってもしかしたらとってもレベルの高いカヌーの遊び方なのかもしれない。
 ここの瀬をあっさりとクリアできたことで、逆にタンデムの面白さを再認識したような気がする。(と書いておけば、かみさんの厳しい視線を和らげることが出来るだろう)

瀬を下見   いよいよ瀬に突入
N山(夫)   N山(妻)

 例によって直ぐに上陸してカメラを構える。普通はこんな場所では誰かがレスキューロープを持って構えるところだけれど、誰もそんな人はいない。皆が構えているのはカメラだけである。
 まあ、沈さえしなければ下る方にとってはカメラの方が嬉しいのは確かである。
 そのカメラの放列に向かって、N山さん夫婦がヒーローコースを下ってきた。
 小さなカヤックが波に跳ね上げられて轟沈するシーンを期待してカメラを向けていたけれど、さすがにドッグパドルのレッスンで鍛えられているだけあって危なげなくそこをクリア。
 それにしても美瑛川は、なかなか侮れない川である。
 そこから先は瀬らしい瀬も現れず、いたって平穏な流れが続いていた。
 流れも緩やかになり、こうなってくるとソロの悲しさである。皆のペースに付いて行く為に必死にパドリングしなければならないのだ。
 ゴール近くでは、美瑛川は旭川の市街地の間を流れている。川の水面に浮かんでいると、なかなかそんな気がしない。
 公園風に護岸されている河川敷でファミリーが寛いでいたり、河畔林の向こうにビルの姿が見えると、ようやくそこが街の中であるということに気がつく。
 途中で忠別川が合流してきた。機会があれば次はそちらも下ってみたいところだ。
 そうして旭川大橋に到着。
 スタートしてから3時間、暑くてへとへとになったけれど、思わぬ激流もチャレンジできたし、とても充実した川下りだった。

川下り当日の美瑛川の水位(2006年9月10日 12:00)
美瑛川西神楽観測所 134.72



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